森の踏切番日記

ただのグダグダな日記です/2018年4月からはマイクラ日記をつけています/スマホでのんびりしたサバイバル生活をしています/面倒くさいことは基本しません

最果タヒの『星か獣になる季節』を読んだ感想~俺は星にも獣にもなりたくなかった

2月の読書録04ーーーーーーー

 星か獣になる季節

 最果タヒ

 ちくま文庫(2018/02/10:2015)

 ★★★★

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俺の高校時代のガッコーは猿山だった🐵どいつもこいつも阿呆づらで☆落ち着きが無くて☆キーキー騒いでうるさくて☆猿山のてっぺんを争ったり☆赤い尻を追いかけたり追いかけられたり☆他のヤツの屁の勘定をして笑い転げたりする野蛮なサルどもばかりがいた🐵そんな猿山になぜヒトである俺が放りこまれたのか☆さっぱり理解できなかった🐵俺は当然のことながら野蛮なサルどもを相手にしなかった🐵だから俺はサルどもから嫌われていたのだが気にはならなかった🐵だって俺は人間だもの🐵ウキッ🐵高校時代の俺は猿山の中でとまどっていた🐵途方に暮れていたと云ってもいい🐵そんな時☆三島由紀夫の「若さとは過剰なエネルギーなのだ」という言葉に行き当たり☆俺はその過剰なエネルギーを持て余していたのだということに気がついた🐵この言葉のおかげで心が随分軽くなったものだ🐵エネルギーは外側に向かう場合と内側に向かう場合がある🐵ヘビメタはエネルギーが外側に発散し☆パンクは内側に収束するという説がある🐵過剰なエネルギーは破壊の衝動だ🐵パンクは破壊のエネルギーが自己に向かう🐵パンクとは自己破壊の音楽なのだ🐵だから☆パンクであり続けた連中はみんな若さの真っ只中で自壊してしまった🐵生き残ったパンクは本当はロックだったのだと後になって気がついた🐵ロックは本来サバイバルの音楽なのだ(ラブ&ピース)🐵ヘビメタは破壊のエネルギーを轟音に変えて四方八方に撒き散らしたあげく☆燃え残りがブルーズになる🐵ところがここにテクノという音楽が登場する🐵テクノはエネルギーをデジタルに変換するから熱くならない🐵テクノはクールな音楽だ🐵高校時代の俺はテクノで行こうと思った🐵熱くなんかなりたくない🐵高校を卒業したとき☆これでやっと猿山から解放されると安堵したものだった🐵だがしかし☆外の世界へ出てみると☆そこは単に大きな猿山に過ぎなかった🐵今の俺は巨大な猿山の片隅でロックとブルーズを聴いている🐵この小説を読んで☆高校時代の俺は星にも獣にもなりたくなかったのだなと思った🐵

 

 

 

星か獣になる季節 (ちくま文庫)

 

 

 

星か獣になる季節

 窓から見える景色はちょうど夕焼け。町が燃えているようにも見えた。

「なんだか火事みたいにみえるね」

 そのとき、ちょうど渡瀬はつぶやく。ぼくはなにも答えられなかった。森下ならなんて、答えるのだろう。「17歳は、星か獣になる季節なんだって。今日、やった英文読解にね、書いてあった」渡瀬の横顔も、火事みたいな光に染まっている。「人でなしになって、しばらく、星か獣になるんだって。大人だからってひどいこと言うよね」太陽が山を燃やしながら、ピンク色に変わっていく。 

 

この小説は、山城翔太が愛野真実に宛てた手紙という体裁になっている。愛野真実は地下アイドルで山城翔太は彼女のファンの高二男子だ。しかしこれは、ファンレターではなく、遺書と云った方がよい内容の手紙だ。愛野は殺人容疑で警察に勾留されたのだが、山城にはかわいいだけで努力しか取り柄のない凡庸なアイドルに過ぎない愛野が殺人犯だと信じることが出来ない。山城は他者には関心を持たないタイプで、愛野真実だけが生きがいというクラスの中では目立たない存在の少年だ。彼は愛野をディスることで自己の劣等感を晴らそうとしている。そして、その不純さを自覚している。彼のクラスにはもう一人、森下という愛野ファンがいる。イケメンの森下はクラスの人気者で山城とは対照的なキャラをしている。「努力も才能だよ」という森下は愛野を純粋に偶像として崇拝している。二人は交友関係が無かったのだが、事件をきっかけに急接近し、愛野の無実を「証明」するために協力し合うことにする。一人は信念を持って、もう一人は半ば巻き込まれるようにして。小説と犯罪とは親和性が高い。小説が人間を描くものである限り、人間性の究極の様相である犯罪、特に殺人を描いた歴史的名作が多いのは当然のことと云える。これについて三島由紀夫は餅焼きの網の比喩を用いて、「法律はこの網であり、犯罪は網を飛び出して落ちて黒焦げになった餅であり、芸術は適度に狐いろに焼けた喰べごろの餅である」と説明している。この餅を焼く炎は「人間性という地獄の劫火」であり、その焦げ跡なしに芸術は成立しないのだという。三島の『金閣寺』は犯罪者への共感の上に成り立った作品なのである。森下が愛野を崇拝する純粋な気持ちは俺には分からない。アイドルに限らず他者を崇拝する気持ちが理解できない。俺は神すら崇拝していない。俺は全く純粋な人間の存在を信用出来ない。子供が純粋だというのは幻想に過ぎない。奴らは単に無知なだけだ。無知と純粋は別物だ。純水を作るには、不純物を含んだ水を熱して沸騰させ蒸気にし、蒸気だけを不純物が付着していない容器に収集して冷却しなければ得られない(実験室的にはイオン交換法や逆浸透膜法を使うがそれらも簡単ではない)。純粋とはそれだけ手間とエネルギーがかかるものなのだ。そして、何か別のものが少しでも混ざってしまえば、それは最早純粋ではなくなる。密閉せずに純粋を保つことはほとんど不可能だろう。ところが三島由紀夫は、「始めからよごれる事の純潔さは本当の純潔さではない」と云う。現実世界においてどんなに俗にまみれてもどうしても汚れることのできない「ある一つの宝物」、それが芸術家の本能、つまり、「詩人の本能」とよばれるものだというのだ。三島は芸術家が全く純粋な人間だと云っているわけではない。精神のコアとなる部分(魂)が純潔を保ち得る存在が芸術家だと云っているのだ。では、なぜ芸術家の魂が純潔を保ち得るかというと、彼らの魂は常に「人間性という地獄の劫火」にさらされているからだ。焔には浄化作用がある。一歩間違うと黒焦げになってしまう危険があるが、その一歩を踏み止めるのがミューズの力であり、その一歩を踏み出させようとするのがデモーニッシュ(Dämonish)な力なのだ。その両者のせめぎ合いの中で劫火にさらされ続けているのが詩人の魂なのである。森下は詩人なのだ。愛野真実は森下のミューズだったのだ。ところが、ミューズは汚れてしまった。だから、森下はデーモンに魅入られて地獄の劫火に包まれてしまったのである。思春期の「内面のあらし」は芸術家の「美しい狂熱」に似ている。山城は主体性のない自我の弱い少年だった。彼は星にも獣にも何者にもなれなかった出来損ないだ。彼はせいぜい歪な小惑星だった。モテナイ君が女子に話し掛けられただけで好きになってしまう所とかリアルで泣けてきた。それにしても、「愛の真実」とは何だろうか。カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』を二度読みして、つくづく思ったのだが、俺には「愛」という曖昧な概念が分からない。「愛の真実」が簡単に説明できるならば、こんなにたくさんのラブソングがあるはずもない。ここから先は小説の内容に踏み込まないと書けないので、そのつもりで読まれたし。

 

 

正しさの季節

 昔、読んだ英文だったか現代文だったかで、17歳は人でなしになるんだって読んだ。人でなしになって、星か獣になるんだって。今になって、2年が経って、あいつは星で、あの子は獣だって思える。自分のことだけは、今でも少しもわからない。

 

この小説は冒頭に「8月14日 晴れ(東京は雨)」と書かれていて、長い日記という体裁になっている。本書に収められた二編の小説はそれぞれ独立しているが密接に関係している。この小説には「星か獣になる季節」から二年後の出来事が描かれている。登場するのは、この日記の筆者、つまり、語り手である渡瀬明という女子大生と浪人生の青山、典型的ドルヲタの岡山の三人だけである。三人とも前の小説の登場人物で、渡瀬と青山は山城と森下の元クラスメイトだ。渡瀬は高校時代は青山のことが好きだった。渡瀬の親友だった田江田が前の事件で殺されている。岡山は愛野真実つながりで森下と接点があった。岡山の妹が前の事件で殺されている。青山は、その連続殺人事件の犯人である森下の小学生時代からの親友だった。青山は週刊誌のインタビュー記事で森下にも良い面があったことをアピールしていた。つまり、この小説は、殺人事件の加害者の関係者と被害者の関係者と被害者と加害者の両方の関係者の三者の立場の違いに関する話なのだ。三島由紀夫は小説と犯罪の関係について、次のように言及している。

世間ふつうの判断で弁護の余地のない犯罪ほど、小説家の想像力を刺戟し、抵抗を与え、形成の意欲をそそるものはない。なぜならその時、彼は、世間の判断に凭りかかる余地のない自分の孤立に自負を感じ、正に悔悟しない犯罪者の自負に近づくことによって、未聞の価値基準を発見できるかもしれぬ瀬戸際にいるからである。小説本来の倫理的性格とは、そのような危機にあらわれるものである。

三島由紀夫「小説とは何か」より

つまり、犯罪の被害者への同情は世間に任せておけばよいと三島は云っているのだ。安直なヒューマニズムはワイドショーなり週刊誌なりにやらせておけばよい。この小説の岡山はキモヲタ過ぎる。その被害者面がマジでウザくて全く同情出来ない。作者は意図的にそういう人物を描いている。青山も心が傷ついたという意味ではこの事件の被害者の一人だと云ってもよいだろう。彼は他人から同情されることは少ないだろうが、彼もまた事件を一生背負っていかなければならないのだ。このような事件の影響は、直接の被害者だけでなく周囲の人間にも波及していくものだ。渡瀬は思慮深く冷静な性格をしている。彼女は被害者とも加害者とも比較的近い関係だったが、表向きは立ち直りが早かったようにみえる。彼女は常に公正でありたいと願っているように思われる。だから、「正しさ」に敏感なのだろう。17歳の時、彼女が星にも獣にもならずに大人と対峙しようとしたことに共感を覚えた。

それはさておき、犯罪は、その独特の輝きと独特の忌まわしさで、われわれの日常生活を薄氷の上に置く作用を持っている。それは暗黙の約束の破棄であり、その強烈な反社会性によって、却って社会の肖像を明らかに照らし出すのである。それはこの和やかな人間の集団の只中に突然荒野を出現させ、獣性は一閃の光りのようにその荒野を馳せ、われわれの確信はつかのまでもばらばらにされてしまう。

三島由紀夫「小説とは何か」より

つまり、この小説の主人公は依然森下なのだ。この小説に登場する三人がとまどっているのは主人公が不在だからだ。この小説の中心にはポッカリと穴が空いている。渡瀬や他のクラスメイトたちはその穴から目を背けたのだが、青山だけは目を背けることが出来ないでいる。岡山はその空白が許せないでいる。穴に向かって吠えても虚しいだけだ。渡瀬は青山によって空白に目を向けさせられた。森下は殺人を犯したこと以外はいいやつだった、というのが青山の言い分である。青山は森下のことを親友だと信じていた。しかしながら、他者に対して平等な森下にとって青山は特別な存在ではなかった。他者を差別しないなら誰も殺すなよ。逆説的だな。無差別テロはそういうことか。神の視点だ。森下が他者に対して公平だったということは、単に他者に対して無関心だっただけかも知れない。その点において、森下は山城と共通点があると云えるが、山城には人殺しは出来ない。森下の心の闇は分からない。分かるはずもない。だから、デーモンに魅入られたとしか云いようがない。森下は悪だから殺人を犯したのではなく、殺人を犯したから悪なのだ。悪意がなくても人を殺すことは出来る。俺は今までに何回か人を殺したことがあるという夢を見たことがある。願望が夢に現れたのかと思ったが、筒井康隆の「夢──もうひとつの現実」を読んで、筒井氏も同様の夢を見たことがあり「過去の殺人」と名付けていることを知り、自分だけじゃなかったと安心した。人を殺したという感覚と捕まるかもしれないという焦燥は、それはそれは嫌なものだった。あの嫌な感覚が忘れられないので俺は人殺しが出来そうもない。もしかすると、無意識が自制のためにあんな夢を見せるのかも知れない。森下のような人間はそういう自制心の掛け金が外れてしまっているとしか思われない。たぶん、ただそれだけで人殺しはできる。人間はそういう恐ろしい動物なのだ。世間は凶悪犯罪が起きたとき、犯人の異常性を強調しようとやっきになるが、彼らはそれほどかけ離れた存在ではない。世間がそれを認めたくないだけだ。世の中に絶対的に正しいことなど存在しない。あなたの正義は誰のための正義なのか。正しさの基準は自分で作るしかないし、それは常に揺らぐものにしかならない。この小説は、岡山の立場と青山の立場のどちらが正しいのかということを問題にしているわけではない。両者がその立場に固執する限り、両者が歩み寄ることはない。青山が岡山を申し訳なく思う必要はない。正直云って、岡山のように被害者意識を押し付けて来られると不愉快だ。渡瀬は不注意な発言で彼を激怒させたが、俺ならわざと怒らせるなと思った。正論が常に正しいとは限らない。こういう小説を読むと自己の冷淡な性格が暴かれるから面白い。確かに、「間違いはだれかを傷つける」ものだ。悪意がなくても人を傷つけてしまうことは普通にある。正論であっても必ず誰かを傷つける。和やかな人間関係を築くためには、なるべく他者を傷つけないように気を配りたいものだが、人というのはどうしても他者を傷つけてしまうものなのだ。そこを気にしすぎるとキリがない。誰も傷つけない言葉なんてありえない。あるなら教えてほしい。この小説は、他者を傷つけても構わないと云っているわけではないし、森下のような犯罪者を擁護しているわけでもない。人は常に正しくはなれないし、場合によっては、相対的に正しくない立場を敢えて取らなければならないこともあるということを云っているのだ。人はいつか死ぬものだし、いつどういう死に方をするか分からない。だから、死に対して淡泊でありたいと思う。俺は肉親の死に対してもあまり悲しまない。そんな俺がこの小説を読んで最も心を痛めたのは、山城の母の心情を想像した時だった。だがそれもたぶん、傲慢なんだろう。

 

 

あとがき

青春を軽蔑の季節だと、季節だったと、気づけるのはいつだろうか。どこで、それに気づくんだろう。それは愚かさの象徴で、だからこそ、一番に懐かしい。

この小説を読んで、自分の「17歳という季節」を思い出してみたが、青春は傲慢の季節だった。たぶん同じようなことだろう。この小説に合わせて云うと、俺は星にも獣にもなりたくないと思っていた。「自分は違う」と思いながら群れている連中が気持ち悪かった。ランク付けなんか下らないと思っていた。あの頃はもがいていた。俺は斜め上を行こうとしていた。全然自信を持てなかった。かっこ悪かった。思い出したくもない。アホな季節やったな。

 

 

文庫版あとがき

ずっと、生きているつもりになっていたのかもしれない。でなきゃどうして、傷ついたり傷つけたり、繰り返していたんだろう。

17歳の頃、傲慢にも自分は感受性が強いと思っていたのだが、それは単に心が弱いだけだった。感受性の強さと心の弱さは別物だ。俺は自分の心の弱さが嫌で仕方なかったのだ。だから、多少のことで心が傷つかないように心を鍛えたものだった。つまり、俺は鈍感なのだ。「ひりつくような感覚に身を置き続ける」ことなんて、恐ろしくて出来ない。だから俺は、この人から目が離せないのだろう。

 

 

 

星か獣になる季節 (ちくま文庫)

星か獣になる季節 (ちくま文庫)

 

 

 

 

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千年という時間の長さと短さを想う~『千年後の百人一首』の感想 - 森の踏切番日記 

 

 

 

 

 

藤野可織の『爪と目』を読んでみた~見て見ぬふりをしたくなること

2月の読書録03ーーーーーーー

 爪と目

 藤野可織

 新潮文庫(2016/01/01:2013)

 ★★★☆

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爪と目 (新潮文庫)

「あんたもちょっと目をつぶってみればいいんだ。かんたんなことさ。どんなひどいことも、すぐに消え失せるから。見えなければないのといっしょだからね、少なくとも自分にとっては」

 

 

この小説は、三才の女の子の「わたし」が、母親の死後同居することになった父親の不倫相手に「あなた」と呼びかけ、「あなた」と「わたし」について物語るという形式になっている。「爪」と「目」は、「わたし」と「あなた」のことを象徴している。

 

母親は、寒い日にベランダで死体となって発見された。ベランダの鍵はかかっていて、部屋には「わたし」だけがいた。はっきりとは書かれてはいないが、何が起きたのかはだいたい想像できる。事故といえば事故だが、母親は生きる気力をすでに失っていたのかもしれない。

 

母親の死は「わたし」の心を傷つけたのだろう。以後「わたし」はベランダに通じるリビングルームに近づくことができなくなり、それは引っ越ししても変わらなかった。それに爪を噛む癖がついてしまった。

 

三才の女の子の「わたし」が語る「あなた」の人生は詳細で三才の女の子が知り得ない内容も含まれている。また、「わたし」の行動は客観的に語られ、「わたし」の内面が語られることはない。

 

そうしたことから、実際には三才の女の子が語っているわけではないことが分かり、小説の終わりの方で「わたし」が既に大人になっていることが明らかにされる。「わたし」は「あなた」に実際に語りかけているわけではない。大人になった「わたし」が、後に知った情報を補足し、空白を空想で補い、三才の頃の出来事を再構成し、「あなた」を眺めながら、心の中で「あなた」に語りかけているのだろう。

 

「わたし」が語る「あなた」の物語の中心となるのが「あなた」の目のことである。「あなた」は裸眼では視力が0.1もなく、コンタクトレンズを付けないと人の顔がぼんやりとしか認識できない。そもそも「あなた」が「わたし」の父親と出会ったのも眼科だった。「あなた」は、しきりに目薬をさす。

 

世の中には感受性が強くて心が傷つきやすい人もいれば、他人から何を言われても動じない図太い人もいる。自分の言動が他人を傷つけていることに全く鈍感な人もいれば、人を傷つけないように気配りを怠らない人もいる。

 

感受性が強い人にも鈍感な部分はあるし、鈍感な人にも傷つきやすい部分はある。自分は傷つきやすいのに他人を平気で傷つける人もいるし、心が強くて気配りもできるという人もまれにはいる。

 

だいたいの人はおおむね図太く鈍感にできていて、自己の敏感な部分をなるべく見ないようにして生きている。「あなた」はそういう一般的な人間であり、だから「あなた」なのだ。

 

父親もまた同様に図太く鈍感な人間である。そもそも鈍感でなければ不倫など出来ない。しかし、彼は妻の死後「あなた」とセックスしようとしても肝心のモノが役に立たなくなってしまう。つまり、彼の心にも敏感な部分があるということになるが、彼は別の女性となら支障なくできるので、またしても浮気をする。彼は自己の敏感な部分を直視しない。彼は「あなた」の浮気にも気がつかない。彼は自己を中心とした単純な世界に安住している。

 

母親は夫の不倫に気づいていたのだろう。そして、気がつかないことにすることにしたのだろう。彼女は自分の心を守るために日常生活を彩り、それをブログに記録することに生きがいを見出そうとした。だが結局は、見て見ぬふりをするには彼女の感受性は強すぎて、夫の不倫を咎めるには心優しすぎたのだろう。

 

「あなた」は、ネットの世界で母親のブログを見つけ、それを参考に日常生活を彩り始める。「あなた」は鈍感だから、それが死んだ前妻のブログだと知っても何とも思わない。「あなた」は、自己を中心とした単純な世界で気楽に生きている。

 

一般に、大人よりも子供の方が感受性が強いだろう。子供の心は無防備なものである。三才の女の子である「わたし」には、「あなた」や父親のように鈍感に生きることはできない。だから、爪を噛み続けるしかないのだ。

 

冒頭の引用は、母親の遺品の本の架空の独裁国家を舞台にした幻想小説の中のセリフで、このセリフが書かれたページには小さな折り目が付けられていた。それを見つけた「あなた」はそのセリフを自分の言葉にして「わたし」に教える。「わたし」はだいぶあとになって、母親の本からそのセリフを見つける。

 

独裁者は、見ないことにかけては超一流の腕前を誇っていた。彼は、自分に起きたひどいことも、まったく見ないようにすることができた。彼は目をつぶり、すると肉体や精神の苦痛は消え失せた。わたしやあなたでは、こうはいかない。わたしもあなたも、結局はか弱い半端者だ。

 

この話がものすごく腑に落ちるのは、私の周りにも見ないことにかけては一流の人間がいるからで、それは私の母なのだが、母は自分にとって都合の悪いことや嫌なことを一切見ないようにすることができ、記憶から抹消することすらできるという特技を持っていて、それはもう、呆れるほどである。母は鈍感で無神経で空気をまったく読めなくて、自分の言動がどれだけ人を怒らせるかとか、どれだけ人を傷つけているかとか一切理解できない。ついでに、絶対に自分の非を認めないし、絶対に謝らない。私の母は首相になる素質があるのではないかと思う。

 

それはともかく、ある程度鈍感であることは、凡庸な人生を生きていく上で必要なことである。感受性が強すぎるとこの世は生きづらい。 人というのは、どうしても他者を傷つけてしまうものである。悪意を持って人を傷つけるのは論外だが、悪意が無くとも人を傷つけてしまうことは普通にある。それを気にし始めるとキリがないし、極論に走りかねない。かといって、まったく気にしないというわけにはいかない。結局のところ、多少のことで心が傷つかないように耐性をつける方が手っ取り早いということになる。そうして、人は図太くなっていくのだ。

 

しかしながら、心に耐性をつけるにしても限度というものがあるし、急所というものは耐性をつけられないから急所なのだ。目をつぶるだけで苦痛を消すことができるのは一種の才能である。だから、独裁者ではない凡庸な人間は、「結局はか弱い半端者」だと作者はいうのだろう。

 

この小説の最後の場面は、「あなた」の人生において、目を背けていた自己の敏感な部分を直視しなければならない時が来たことを暗示していて、語りかけている現在の「わたし」もまた同じだということを示唆している。過去と未来がガラス板となって体を腰からまっぷたつに切断するというイメージは、身を切るような苦痛を想像させる。そのとき、その苦痛に目を見開かずにはいなれなくなるのだ。見て見ぬふりをしたくなることというのは、本当は直視しなければならないことなのである。

 

 

それは分かっているのだが、私は母ほど鈍感の才能がないので、そういう場面に直面したら、逆ギレします。

 

 

同時収録の「しょう子さんが忘れていること」は、老人の性を扱った短編だが、しょう子さんにとってはホラーでしかない。「ちびっこ広場」は、少女の霊の呪いというありがちな都市伝説を信じてしまった息子のために母親が呪いに立ち向かうという短編。母は強し。

 

 

 

 

爪と目 (新潮文庫)

爪と目 (新潮文庫)

 

 

 

 

 

 

綿矢りさの『勝手にふるえてろ』を読んでみた~種の保存と多様性

2月の読書録02ーーーーーーー

 勝手にふるえてろ

 綿矢りさ

 文春文庫(2012/08/10:2010)

 ★★★☆

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勝手にふるえてろ (文春文庫)

 とどきますか、とどきません。光りかがやく手に入らないものばかり見つめているせいで、すでに手に入れたものたちは足元に転がるたくさんの屍になってライトさえ当たらず、私に踏まれてかかとの形にへこんでいるのです。とどきそうにない遠くのお星さまに向かって手を伸ばす、このよくばりな人間の性が人類を進化させてきたのなら、やはり人である以上、生きている間はつねに欲しがるべきなのかもしれない。みんなの欲しがる気持ちが競争を生み、切磋琢磨でより質の高いものが生みだされていくのですね。でも疲れたな。まず首が疲れた。だってずっと上向いてるし。いつからだろう、さらなる飛躍という言葉が階段を駈けのぼるイメージではなくなり、遠くで輝くものを飛び上がってつかみ取り、すぐに飽きてまるきり価値のないものとして暗い足元へ放る、そしてまた遠くへ向かって手を伸ばす、その繰り返しのイメージに変わってきたのは。

 

 

この小説の語り手は、江藤良香(えとうよしか)、二十六歳、B型、株式会社マルエイの経理課所属、彼氏なし、貯金なし、嫌いなのはひま人、好きなのはシチュー、最近はまっているのはインターネットのウィキペディアで絶滅した動物について調べること、おたくのくせにテクノ好きで、未だバージンという女性。

 

そんな彼女には彼氏が二人いて、といっても本命のイチ彼は、中学二年の時に同じクラスだったというだけの関係で、話したことも三回しかないというその貴重な思い出を反芻しながら、ずっと片想いで脳内だけの恋愛相手。

 

イタいといえばイタいが、本人がそれで幸せならば、それでいいのではないかと思う。他人がとやかく言う筋合いのものではない。

 

中学時代の彼女は、教室の片隅でひっそりと棲息する恐竜時代の哺乳類のような女の子だった。イチ彼は、いじられキャラだったようだが、彼女はそんな彼をクラスの人気者として認識していた。

 

ニ彼の方は、会社の同期で営業課に所属していて、元体育会系の暑苦しい男。彼女はニ彼からデートに誘われ、コクられる。でも「好き」とは言われなかった。デートでの二人の会話の噛み合わなさが面白い。

 

二回目のデートで元カノの話をするニ彼のデリカシーはどうかと思う。ニ彼はどこからどう見ても典型的なサラリーマンで昭和の匂いさえする。こいつとは表面的な付き合いはできても親友にはなれないなと思わせる。

 

彼女の心の中のツッコミが面白い。彼女は妄想過多だが、脳内で妄想が優勢になると現実への対応が難しくなる。彼女はおたく期間が長かった後遺症で、時折対人関係に不慣れな面が現れる。

 

不注意で火事を起こしそうになって死にかけた彼女は、いつ死んでも後悔しないようにと、思わぬ行動力を発揮し、クラス会を実現させ、イチ彼と再会を果たす。

 

妄想の世界で安住していれば彼女も穏やかな日常を過ごせたのだろうが、ニ彼にコクられたことで刺激されて、脳内が混乱したようだ。ここから彼女の迷走が始まる。

 

イチ彼は、いじられ生活が長かったせいか、元々の性格なのか、他人との間に壁を作るタイプのようだ。自分の領域を固く守っているように見受けられる。彼とは表面的な付き合いはできても親友にはなれそうにないと思わせる。

 

イチ彼も同じ上京組だと知った彼女は、上京組のメンバーで飲み会を開くように話を誘導し、後日、その飲み会でイチ彼と絶滅動物の話で意気投合して盛り上がるが、彼との間に隙間を感じてしまう。

 

恋愛に限らず理想をとるか現実をとるかという問題は、正解のない問題だろうと思う。理想を求めて上手くいくケースもあれば、上手くいかないケースもある。現実的に対応して上手くいくケースもあれば、上手くいかないケースもある。どちらが正しいということはない。結果論でしか言えないことだろうと思う。

 

恋愛の行き着く先は生殖であり、生殖は種の保存のためのプログラムである。種の保存のためには多様性が担保されなければならない。自然界は弱肉強食とか適者生存とかいわれるが、必ずしも強者や適者の遺伝子だけが残されていくわけではないのだ。

 

例えば、来留美のような美人ばかりがもてて、美人の遺伝子ばかりが残されるということはない。美人の遺伝子が残る確率が高いのは確かだが、良香のような絶滅危惧種の遺伝子も多少は残されるように出来ているのだ。「美人」という価値観は絶対的なものではなくて、時代によって変わる相対的なものでしかない。今の美人が千年後も美人と判定されるとは限らない。

 

地球上の生命は、過去五回に及ぶ大量絶滅をはじめ何度も絶滅と繁栄を繰り返してきた。様々な環境の激変に対応するためには様々な選択肢を用意しておかないと全滅してしまう恐れがある。自然というのは常に一見無駄な冗長性を持つものなのである。だから、ニ彼のように希少種に惹かれるタイプも一定の割合で存在するのだろう。

 

この小説での彼女の選択が彼女にとって最善かどうかは分からない。それはまた別の話なのだ。この小説は読んでいる間はおもしろく読んだのだが、いざ感想を書こうとしたら上手く書けなかった。実は、結論が文庫版の辛酸なめ子さんの解説と同じになってしまうのだ。私も彼女にとっては、「脳内二股をキープした方が幸せ」だと思う。凡庸な人生を送るにはニ彼のような凡庸な男が相手の方がよいとは思う。結婚してからも妄想の恋愛はできる。彼女は現実と妄想を上手く使い分けるスキルを身につけるとよいと思う。

 

別に絶滅してもいいじゃないと思うことがある。種の保存なんて単なるプログラムなんだし。遺伝子は残らなくても身体の構成物質はリサイクルされるのだし。どうせ、つかの間の生なのだから、自分の好きなように生きればいいじゃないと思うこともある。そういう意味では同時収録された短編「仲良くしようか」の方が好みの小説だった。

 

 

 

 

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

 

 

 

 

 

 

猫はどこへ行った?


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日曜日は、散歩がてらに最寄りのショッピングセンターの書店をのぞいてみることにしている。

 

本は、なるべく地元の本屋さんで買いたいものだ。以前、同じ場所で同級生が本屋をしていたのだが、何年か前に潰れてしまった。

 

今日は『星か獣になる季節』(最果タヒ)を買うつもりだったのだけれど、見当たらなかった。残念。明日、大きい書店に行ってみよう。

 

他に何かないかなと見て回って見たところ、古生代に絶滅した生物に関する本があった。

 

ちょうど、『勝手にふるえてろ』(綿矢りさ)の感想を書き始めたところなので、パラパラと中身を覗いてみた。

 

図版も豊富で興味深いけれど、めあてのアンモナイトの図版があまり多くない。それにしても、仲良くできそうにもないグロテスクな連中ばかりだ。Gの先祖発見。大量絶滅にも生き残ったしぶとい奴だ。

 

太古の生物の図版や化石は、ピンタレスト Pinterest でアホほど出てくるので、割とよく見る。集めてみようかとも思うのだけれど、キリが無いし面倒くさいので、まだボードは作っていない。

 

今回は買うのはやめにして、結局今日は何も買わずに書店を出た。最近、この書店も品ぞろえが売れ線狙いばかりになりつつある。あまり良くない傾向だ。

 

散歩ルートには何ヶ所か楽しみにしている場所があって、その中の一つにネコポイントがある。

 

いつ通りがかってもその家には、窓の桟の幅の狭いところに胴体を横向きにして乗って、顔だけ窓の方へ向けてじっと外を眺めている猫がいるのだ。

 

いつ見ても同じポーズでじっとしているので、最初の頃は置物かと思っていたのだけれど、ある日動いたのでびっくりしたものだ。

 

私はいつの間にか散歩の帰り道にこの猫を見るのが楽しみになっていて、あ、今日もいるなあと、猫の視線を感じながらその家の前を通り過ぎるのだった。

 

ところが、今日、その家の前を通りがかると、猫が見当たらなかった。代わりに、「猫を捜しています」という写真付きの貼り紙が貼ってあった。

 

えーーーーーーーーーーー!?

 

そんな冒険をするような猫には見えなかったけどなあ。どうしたんだろ?

 

他家の猫のことながら、私、気がかりです。

 

 

 

 

 

窓外へ

恋を求めて

迷い猫

 

 

 

 

千年という時間の長さと短さを想う~『千年後の百人一首』の感想

2月の読書録01ーーーーーーー

 千年後の百人一首

 清川あさみ最果タヒ

 リトルモア(2017/12/01)

 ★★★★

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千年後の百人一首

 

この本は、見開きページの右側に百人一首の歌が一首と清川あさみさんの作品が配され、左側に最果タヒさんの詩という形式の現代語訳が配された、百人一首の新しい解釈の本です。巻末には簡単な作品解説も付いています。

 

最果さんは以前から注目している人で、この本も出た当初から気になってはいたんですけど、買おうかどうか迷っているうちに年が明けてしまって、まあいいかと思ったんですけど、先日、書店でこの本を見かけたので、一編だけ読んでみようと思って、任意のページを開いて読んでみたところ、鳥肌が立ってきて、これはヤバいと思って、買って帰って、暖房の効いた部屋でゾワゾワしながらじっくりと読みました。

 

妹が清川あさみさんの作品のファンだというので、どんなん?と訊いてみたら、スパンコール!という答えが返ってきました。いや、それだけじゃないでしょ… 

 

最果さんが新聞に発表したエッセーによると、「言葉だけでなくその衝動もなぞりたかった」そうで、 百人一首の作者たちが「歌にしよう」と思ったその瞬間の感覚が自分にも降りてくるのを「待つ」必要があったとのことです。そうやって作られた百編の詩は、よくある味気ない現代語訳とは違って、情念がこめられていて、鳥肌が立つような感覚におそわれたのでした。百人一首の中には好きな歌もありますし、共感できる歌もたくさんありますが、こんなにゾワゾワしたのは初めてのことです。

 

千年という時間は、人の一生と比べれば長いですが、人類の歴史から見れば短いものです。千年程度で人間の本質的な部分が大きく変わるとは思いません。書き言葉のすごいところは、解読できれば時空を一瞬にして超えてしまうところです。だから、千年前の都の人たちとも共感することができる。けれども、全ての言葉が遺されるわけではありません。むしろ、遺された言葉は過去に生まれた数多の言葉のうちのごくわずかに過ぎません。また、発せられずに飲み込まれた言葉も無数にあるはずです。特に、和歌の三十一文字は選び抜かれた言葉たちです。最果さんの詩を読みながら、その三十一文字の背後にある消えていった言葉たちや生まれなかった言葉たちのことを想いました。

 

また、人というのは生きた時代や地域に縛られるものでもあります。平安時代の都に生きた人たちには彼ら独自の価値観もあったことでしょう。それは私たちには理解し得ないことです。また、言葉は必ずしも正確に思いを伝えることが出来るとは限りません。言葉には常にそういうもどかしさがあります。歌の解釈にしても、時代に応じて変容していくものですし、人によって感じ方は微妙に異なるものでしょう。この本で百人一首を鑑賞するという行為は、百人一首を清川さんと最果さんというミキサーを通して、百人一首のリミックス・バージョンを鑑賞するという感じでした。ですから、百人一首を直接鑑賞するのとはまた違った心の響き方をしたのだと思います。

 

 

 

8.喜撰法師
わが庵は都の辰巳しかぞ住む
世をうぢ山と人はいふなり

この歌の最果さんの詩は、「うじうじ」とか「シカしか」とか遊んだ言葉の使い方が楽しくて、隠遁生活者のひねくれた感じが面白い自由な詩です。『方丈記』をちょっと思い出したりしました。喜撰法師の時代には宇治茶はなかったけれど、宇治茶といえば「上喜撰」ということで、やはり宇治茶を連想してしまいます。

13「筑波嶺の」の清川さんの作品は、暗いエロスが感じられて妖しくて好きです。

 

 

19.伊勢
難波潟短かき蘆のふしの間も
逢はでこの世を過ぐしてよとや

百人一首は恋の歌が多いですが、これを現代詩にすると情念がストレートに伝わってきて、恐ろしさに身が震えてきます。この歌の最果さんの詩は詰問調でコワいです。こんなオンナにからまれたら厄介やなあと思わず引いてしまいます。

清川さんの作品の色合いも好きです。糸で施された細かい縦線に滲みあがる赤が情念の激しさを感じさせます。細かい縦糸が施された作品は全部で21作品あり(うち1作品は横糸)、全体の5分の1以上にもなります。この手の込んだ手法は私の好みで、どれも印象深いです。

38「忘らるる」の右近の歌もコワいです。こんなメールをもらったら背筋がひんやりすること請け合いです。

18「住の江の」や、20「わびぬれば」など男性の恋歌の詩は直接的で激しい愛情表現になっています。44「逢ふことの」も本歌よりも強い感情表現になっています。歌に込められた心の叫びが歌という封印を突き破って溢れ出てきたかのようです。

最果さんの詩は、句読点やカギ括弧なども文字の一つ、詩の一部なんだということを強く意識させます。句読点はリズムを生み出します。百人一首には独特のリズムがありますが、和歌を現代詩に射影するとき、そのリズムを変換させるファンクションがあるんだなと思いました。言葉の繰り返しも各所に見られて印象的です。例えば、18の「波が打ち寄せる、打ち寄せる、」とか、「波の音、音、音。」とか。19では、「わかってしまう、わかってしまった。」と変化させています。こういう繰り返しもリズムを感じます。

 

 

23.大江千里
月見れば千々に物こそ悲しけれ
我身ひとつの秋にはあらねど

この歌は、白楽天の「燕子楼中霜月夜、秋来只一人為長」を和歌に翻案したものだと云われていますが、それを更に現代詩に翻案したところが伝言ゲームみたいで面白いです。最果さんの詩は飛躍した解釈だけれども、時空を超えて繋がっているように感じられます。この詩は各行末が句点で終わっていて、行間の寂寞を感じさせます。百人一首の中で季節を詠んだ歌32首のうち半分は秋を詠んだ歌です。秋はさみしい季節だからさみしい歌なのか、さみしい歌が詠まれたからさみしい季節になったのか。月が詠まれた歌は11首ありますが、そのうち秋の歌は3首あります。「月がぼくを見つけてしまった」という逆説的な表現にやられました。

ブルーを基調とした清川さんの作品は荒涼とした冷たさを感じさせます。この作品の鹿は『もののけ姫』を連想させます。鹿が出てくる歌は3首しかないのですが、清川さんの作品には5作品で鹿が登場します。その中では、83「世の中よ」の切り絵風の鹿の作品が好きです。この作品も細かい縦糸が施されていて青緑系統の色合いが深山の幽玄さを思わせます。

 

 

31.坂上是則
朝ぼらけ有明の月と見るまでに
吉野の里にふれる白雪

この歌は、月が詠まれていますが月は出ていません。是則は蹴鞠名人で、蹴鞠の会で連続206回蹴って、帝から褒美をもらったという逸話があります。最果さんの詩は現代的で、是則は早起きしたサッカー選手かという感じです。月と雪の間に桜が入って二段構えになっているところが新しいです。「しろ、しろ、しろと、」いう雪の描写は、薄雪を感じさせます。「ほうほう」というオノマトペも面白いです。自分が関西人のせいか、擬音語・擬態語には割と敏感で結構印象に残ります。最果さんの100編の詩のうち少なくとも27編の詩で擬音語・擬態語が使われています。最果さんも関西人やからかなあ。

37「白露に」の「る、る、る、る、る、」というのは、オノマトペではないですが、虫の音を連想させて面白いです。

40「しのぶれど」の最果さんの詩は、確実に恋に浮かれていて微笑ましさを感じます。この歌の清川さんの作品はベニシジミだろうか。恋のフェロモンがヒラヒラ舞っている感じです。

 

 

45.謙徳公
あはれともいふべき人は思ほえで
身のいたづらになりぬべきかな

この歌の清川さんの作品は細かく施された縦糸が、雨のようでもあり、ノイズのようでもあり、ワインレッドのシルエットは血のように見えて、これは植物なのか水面なのか痛々しさを感じます。これは、19の伊勢の歌の作品と対応しているように思います。

最果さんの詩は、前半は人生の孤独に打ちひしがれています。孤独な人生の救いとなる人がいない。後半は報われない恋に焦がれて弱っていく男の心の有様が、沖に流されていく無人の船に仮託されていて、そこが新しいと思いました。46「由良の門を」と対応するようにも思います。46の詩はエロスを感じます。

50「君がため惜しからざりし」の詩は、光と闇、生と死の二項対立。夜明けの真新しい光の静謐を感じました。この詩の「道は花は草は石は」のように畳みかけるような言葉の羅列も随所に見られますが、やはりリズムを感じます。この詩集は音読したくなります。耳でも味わいたい。朗読CDとか出してほしい。清川さんの作品は、スパンコール! 女性のシルエットのみだれ髪は川の流れのようにも見えます。エロスとタナトスが感じられて、最果さんの詩と見事に呼応しています。

 

 

55.大納言公任
滝の音は絶えて久しくなりぬれど
名こそ流れてなほ聞こえけれ

百人一首には百首の歌それぞれが持つ意味だけでなく、百人一首全体から生み出されるものもあるように思われます。同じ言葉が歌と歌を結びつけ、そこから何か別の効果が生まれるようなところがあると思います。最果さんの詩にも、それぞれの詩が相互作用することによって創発される何かがあるように思われてきます。この詩は「透明」つながりで、9「花の色は」の詩と相互作用しています。55の歌から小野小町の霊が浮かび上がってくるかのような気がします。

52「明けぬれば」の時の流れを恨む気持ち、53「嘆きつつの破れていく心の底と夜空の果てのない暗さ、54「忘れじの」の「深い緑の時間の重さ」、そして、「永遠」という言葉は、55の「永遠の底」と相互作用しています。この流れは、ゾワゾワしてきます。

「透明」は、愛とか心とか形のないものを思わせますが、「透明」をニュートリノダークマター、「永遠の底」をブラックホール、「滝」を恒星や銀河系と曲解すると、この詩は宇宙論になります。そうすると、9の詩は年老いた科学者の述懐に思えてきます。

 

 

56.和泉式部
あらざらむこの世のほかの思ひ出に
今ひとたびの逢ふこともがな

この詩はね、ホントすごいです。和泉式部の魂が乗り移ったかのよう。死を受け入れた諦念とそれでも消え残る恋する想い。振り絞るように発せられた最後の一行…

58「有馬山」の本歌は不誠実な男に対して強い調子で反発していますが、最果さんの詩は静かな憤りが感じられて、かえってコワいです。なんか、ごめんなさい…

59「やすらはで」の詩には「夜の底」という言葉が出てきます。「夜の底」といえば川端康成ですが、ここでの使われ方は新鮮な感じがしました。清川さんの細かく縦糸が施された作品もルナティックな感じで良いです。

 

 

66.前大僧正行尊
もろともにあはれと思へ山桜
花よりほかに知る人もなし

どこかの国で「孤独担当大臣」を新設したというニュースがあったが、孤独の何が悪いのだ。大切なのは内面の豊かさではないか。個人の内面の豊かさを摩耗させるような政策が悪いのだ。あの山桜を見るがいい。お前達には私の花を数えることが出来ないのか。みたいな。

「君は自分だけが一人坊っちだと思うかも知れないが、僕も一人坊っちですよ。一人坊っちは崇高なものです」

『野分』夏目漱石

 

 

68.三条院
心にもあらでうき世にながらへば
恋しかるべき夜半の月かな

三条院の不運な生涯とこの歌が詠まれた背景を思うと同情を禁じ得ません。最果さんの詩も涙を誘います。当時の院は、病気がちで失明同然だったといいます。病んだ身には太陽の光は強すぎたのでしょう。

 秋にまたあはむあはじも知らぬ身は

 こよひばかりの月をだに見む

という歌も院は詠んでいます。

清川さんの作品は、この歌を詠んだ翌年に崩御された院の運命を暗示させますが、宇宙的な感じが気に入っています。

 

 

80.待賢門院堀河
長からむ心もしらず黒髪の
みだれて今朝は物をこそ思へ

最果さんの詩も清川さんの作品もエロスを感じさせます。両者が呼応しあって乱れに乱れた感じです。渦巻いている愛の嵐…

 黒髪のみだれもしらずうちふせば

 まづかきやりし人ぞ恋しき

  和泉式部

 くろ髪の千すぢの髪のみだれ髪

 かつおもひみだれおもひみだるる

  与謝野晶子

と、いろいろ連想します。黒髪の乱れに託された女心の連続性を感じさせます。

82「思ひわび」の詩は、演歌調というかニューミュージック調というか叙情的で、道因法師がリサイタルで切々と歌い上げている情景を想像して、ちょっと笑ってしまった。

84「ながらへば」の詩も歌の本意がよく反映されていて、生きることは辛いことばかりだけれど、昔の辛かったことが今では懐かしく思われるように、今の辛さもいつかは懐かしく思える日が来るだろうと、人生の艱難辛苦にじっと耐え忍ぶ中間管理職のオジサンの姿が浮かび上がってきます。清川さんの作品は、細かく施された青紫系統の縦糸のスリット越しに背景が垣間見られ、私にはひっくり返ってもがいている昆虫が見えます。

 

 

89.式子内親王
玉の緒よ絶えなば絶えねながらへば
忍ぶることの弱りもぞする

この清川さんのゴシック風の作品は好きです。花柄が施されたチュールレース越しに骸骨が二人抱き合っていて、背景にはモノクロの花が咲き乱れています。下の方に麻の葉模様の刺繍が雲形の中に施されていて仏教的なものも感じさせます。これは、現世では叶わない恋をモチーフとしているのでしょう。

最果さんの詩も、禁じられた恋に身もだえする内親王の激情が切々と語られ、鬼気迫ってくるものがあります。百人一首の中では和泉式部の歌と双璧をなす命を賭けた恋歌でしょう。

清川さんのチュールレースを使った作品は少なくとも15作品あります。7「天の原」の木や、71「夕されば」の秋風など透け感が効果的に使われていて印象的です。

21「今来むと」では、細かく施された縦糸の手法とチュールレースが使われていますが、何を表しているのかよくわからない不思議な作品。人魂が舞っているようにも見えますが、この構図を太陽と地球と見て、月はバラバラになって地球の周りを回っていて、まだ固まっていない。だから、月はまだ出てこられない。というふうに解しました。最果さんの詩は、ブツブツとひとりごとを言っている感じでおかしみがあります。

87「村雨の」では、秋の夕暮れの背景と花や葉をあしらったチュールレースと細かく施された縦糸が重なって幽玄としていながら、なんかゴージャスだなと思いました。最果さんの詩は地球の自転と大気の循環まで想起させる壮大なイメージを感じました。

 

 

92.二条院讃岐
わが袖は潮干に見えぬ沖の石の
人こそしらねかわく間もなし

最果さんの詩は、届かぬ想いに心が深く深く沈んでいったその海は涙の海だというすさまじさ、光も届かない深海まで沈み込んでしまうという救いのなさ、本歌よりも重篤な感じがします。清川さんの作品も呼応するかのように打ちひしがれた女の子がチュールレースの海底で膝を抱えてうなだれています。スパンコールの水泡がキラキラと浮かび上がっているのは、彼女のため息だろうか。

 99「人もをし」は、分かるような分からないような最果さんらしい詩と、「TOKYOモンスター」風の清川さんらしい作品で、ラス前に二人とも得意技を出してきたかという感じです。

100「百敷や」の清川さんの作品は、細かく施された縦糸のスリットから色とりどりの蝶々が舞う姿が垣間見られる幻想的な作品。この蝶々たちは百首の歌を表しているようにも思われます。最果さんの詩は、「百敷」という言葉の意味から広げられた壮大な時の流れのイメージが、過去の栄華を忍んでも忍びきれないほど衰えた王朝に対する悲嘆を強調しているように思います。百人一首は、藤原定家が過ぎ去った平安王朝の栄華への挽歌として編んだという見方もありますが、沈黙する石が、百首の歌の背後にある、消えていった言葉たちや生まれなかった言葉たちの墓標のようにも思われてきます。

 

 

 

 

千年後の百人一首

千年後の百人一首

 

 

 

 

📄関連日記

最果タヒの『星か獣になる季節』を読んだ感想~俺は星にも獣にもなりたくなかった - 森の踏切番日記

 

 

 

 

 

最後に、この本の最果タヒさんの詩に出てきた擬音語・擬態語をできる限り採集して並べてみました。意味はありません。やってみたかっただけです。

 

 

 

 

 

ぽたぽた   ぴたりぴたり、

 しやん、しやん、しやん、

   さあさあ   ふわふわ

ぽたりぽたり

       うじうじ

    ぴたぴた

ゴツゴツ

      ことり

 ひょろひょろ

         しんしん

ほうほう   さらさら

   ぱらぱら

        そよそよ

 さくりさくり

     ぽつぽつ

  じんじん

じりじり

    ほう、   ふらふら

じりじり

      はず、はず、

 ほろほろ

   こぽこぽ

         カタン

     つらつら

するする

       ぱらぱら

 はらはら

 

 

 

 

 

土星の空に消えた探査機カッシーニが遺した土星の真の姿とは!?~(2)地球外生命を探れ!

ETV『サイエンスZERO』2018/02/11放送

あなたの知らない土星の真実

偉大な写真家 探査機カッシーニ


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(2)地球外生命を探れ!

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土星の空に消えた探査機カッシーニが遺した土星の真の姿とは!?~(1)リングの秘密を探れ! - 森の踏切番日記の続き


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衛星の数は何個ぐらいでしょう?


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現在65個


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結構多いですよね。

 

 


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第1衛星から順に、ミマス(Mimas)、エンケラドス(Enceladus)、テティス(Tethys)、ディオネ(Dione)、レア(Rhea)、タイタン(Titan)、ヒペリオン(Hyperion)、イアペトス(Iapetus)、フェーベPhoebe)、ヤヌス(Janus)、エピメテウス、ヘレネ、テレスト、カリプソ、アトラス、プロメテウス、パンドラ、パン…と続きます。

 


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土星の第18衛星UFO型のパン (Pan) 

 

 


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カッシーニは、いくつかの衛星を徹底的に探査して、地球外生命の可能性を見出しました。

 


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第2衛星エンケラドス(Cassini Legacy: 1997-2017

 

 

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1789年にウィリアム・ハーシェルによって発見された。名前はギリシア神話ギガンテス(巨人族)の一人エンケラドスにちなむ。土星の衛星としては6番目に大きい。直径は平均500kmほどで、熱源を持つ。

 


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衛星の下側に何かを噴いている。

 


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一体なぜ水素があるのか?

 

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水素が発生するのは、エンケラドスの氷の下に広がる海の底で、岩石と熱水が反応しているからだと考えられています。

 

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これは、エンケラドスの海底に熱水噴出孔があることを示しています。

 

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水素をエネルギー源とする細菌が存在します。原始的な生命を育む揺りかごのような場所です。


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原始的な生命が存在できる条件が整っているのです。


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じゃないですか!

 


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地球外生命がいるとすれば、惑星の表面に液体の水が存在できる範囲。つまり…


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これが普通の考え方だったんですけど

 

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それは、惑星の周りに衛星が回っているときにですね


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ハビタブルゾーンみたいなものがあって


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そういう海があるところっていうのは、原始的な生命が存在しても


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第6衛星タイタン

 


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1655年にクリスティアーン・ホイヘンスによって発見された。直径は約5150km。土星最大の衛星で水星(直径4880km)よりも大きい。

 


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地球と月とタイタンの大きさの比較 

タイタンは厚い大気(窒素97%)で覆われているので輪郭がぼやけている。上の青みがかったタイタンの画像は遠赤外線で撮影したもの。

 


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タイタンの大気のもやの層

 


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Huygens probe


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オランダの数学者・物理学者・天文学者ホイヘンス(1629-1695)の名前に由来する。発見者だものな。

 

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2004年12月24日、小型探査機ホイヘンス投下

2005年01月14日、ホイヘンス上空に到達


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降下中のホイヘンスが写したタイタンの地表

 


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いや、地中海には見えんだろ。

 

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最後に貴重な写真を届けてくれました。

 


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これがその1枚。

 


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丸みを帯びた可能性を示しています。

 

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地表の気温はマイナス180℃。気圧は1.5気圧。丸い物体の直径は約15cm。


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カッシーニが観測したタイタンの地表

 


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マイナス180℃の地表でも凍らないメタンの湖。

 

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メタン(CH4)の融点はマイナス182.5℃、沸点はマイナス161.6℃。(1気圧)

 


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タイタンの地形図(上の湖は左上の湖)

 

 


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メタンの雲が出来ていることも明らかにしました。

 

 

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南極の極循環

 


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なんか臭いが…


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お~


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う~む


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アスファルトの成分は、アスファルテンとかレジンとか油分とか。構造は複雑なので省略。とにかく、炭化水素類です。

 

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タイタンを詳しく探査すると


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う~む

 


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循環することが重要なのか。

 


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ドラゴンフライ計画


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ドローン的な


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ですけど


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クラスターがなくなろうとしていた。

 

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最初から決まっていたのだろうな。


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これはとても大きい。


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どこかでやってるオリンピックよりもね。


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どこかでやってるオリンピックよりもね。


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土星は興味深い。 

 

 

おまけ

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土星デス・スターこと第1衛星ミマス

 


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第三衛星テティス

 


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第7衛星ヒペリオン

 


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第11衛星エピメテウス(Epimetheus)

 


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Saturn XXXV Daphnis(ダフニス)

A環のキーラーの空隙の中に軌道を持つ

 

 


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木星土星天王星海王星の衛星の大きさの比較。最下段は比較のための水星と月と冥王星。(medium and large moons of the jovian planets | science / astronomy | Pinterest | Solar system

 


 

 

 

土星の空に消えた探査機カッシーニが遺した土星の真の姿とは!?~(1)リングの秘密を探れ!

ETV『サイエンスZERO』2018/02/11放送

あなたの知らない土星の真実

偉大な写真家 探査機カッシーニ

 

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(1)リングの秘密を探れ!

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地球から12億km以上も離れたこの土星に誰よりも近づいた探査機がいます。

※地球から土星までは 1.18光時。光の速さで約1時間11分かかる距離。

 

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Cassini-Huygens (NASAESA)


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13年にわたって巨大ガス惑星の素顔を撮影してきました。

 

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地球外生命はいるのかなど


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その役割を終えました。


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カッシーニが新たにひもといた土星の秘密とは何か? その最新情報です。

 

 


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モアレ

 

 


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カッシーニ追悼番組?


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1997年10月15日打ち上げ

2004年06月30日軌道投入

2017年09月15日運用終了


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惜しい方を亡くしました。


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ありし日のカッシーニさんです。


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高さ6.8m、幅約4m。重さ5.8t。


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ちなみに名前の由来となったジョヴァンニ・カッシーニ(1625-1712)は、イタリア出身のフランスの天文学者で、パリ天文台初代台長。土星の4つの惑星や土星の輪に隙間があることなどを発見しました。


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国立天文台の小久保英一郎教授

 

 

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この写真は有名だよなあ。真後ろに太陽がいます。

 


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上の写真じゃなくて、下のね。

 


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土星の環の中でもっとも明るいB環(リング)

 

 

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太陽光が環に対して真横から射すときに撮った写真。

 

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すご~い


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面白~い

 


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カッシーニは数多くの写真を届けてくれました。

 


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あるある

 

 


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30万kmにも及ぶ巨大な嵐です。

 


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ガス惑星である土星表面に高温の渦が発生し、気温の急激な上昇も見られました。土星の嵐は20年から30年に一度しか発生しないため貴重な記録となりました。

 

 

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オーロラが太陽の活動に反応してダイナミックに動く様子を初めて間近で記録しました。

 


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土星から見た地球(July 19, 2013)

 


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地球とその下に月

 

 


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最後のミッション「グランド・フィナーレ」では研究者の悲願でもあった土星本体とリングの間を通すことになりました。

 

 

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ダイブは全部で22回。

最後は土星の大気に突入させます。

 


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事前の予測では本体とリングの間は、その周囲と同様に氷などのチリが高速で飛び交う極めて危険な場所とされていました。

 

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時速12万kmで移動する機体がチリと衝突するときに発するノイズを分析。


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そのまんま

 

 

 

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カッシーニ行きます!

 

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気のせいかエアロスミスの曲が聞こえてくる!


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Don't wanna close my eyes


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Don't wanna fall asleep


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'Cause I'd miss you, baby


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And I don't wanna miss a thing…

 

 


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中でも注目されているのは…


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これまで土星のリングは太陽系が出来た直後、45億年前に本体と共に誕生したと考えられてきました。


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しかし、イタリアの研究チームは、リングの年齢が土星本体よりもずっと若い可能性があると指摘します。


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重力によって速度が変化し、そこからリングの重さを推定できます。

 

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イタリアの研究チームが特に注目したのは


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Bリングの重さを計算すると


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想定よりも軽い


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太陽系外から飛来する物質も取り込み

 

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しかし、カッシーニの計測した重さから年齢を導くと…

 

 

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せいぜい1億から2億年だというのです。

(左上に写っているのは衛星テティス

 

 

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2億年より前の土星の想像図

恐竜「土星デカすぎね?」

 

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カッシーニが残した観測結果は太陽系の定説を覆すものでした。

 

 

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驚きですね!


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土星じゃな~い!


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どうして新しいって分かるの?


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どんどん汚れていっている。


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つまり、あまり汚れていないんです。


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大人になると汚れてしまうという考え方。


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太陽系の進化を考えるときに影響がある。

 

 

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カッシーニの気分て…

 

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意外と薄いんですね。


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環の直径が10万kmあるのに対して、厚みはなんと数10m以下!

 


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プロペラ?


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実際に見つかっている。

 


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プロペラ構造(Cassini Legacy: 1997-2017

 


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面白~い!

 


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次の記事へと続きます

後半は「地球外生命を探れ!」