森の踏切番日記

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人工知能は猫の死を悲しむか?

九月の読書録06ーーーーーーー

 脳・心・人工知能

 甘利俊一

 講談社ブルーバックス(2016/05/20)

 1609-06★★★★

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副題は「数理で脳を解き明かす」

🐱著者は数理工学の第一人者で、数理脳科学、情報幾何学といった新しい研究分野を立ち上げ、神経回路網の数理的研究において数々の業績を上げた国際的に著名な研究者である。本書では、およそ六十年にわたる研究生活を振り返り、脳科学、神経回路網、及び人工知能の研究の歴史とその内容を解説し、自身の研究についても、数式を用いて初歩的な説明をしている。これらの学問分野の将来の展望、自身の研究生活における苦闘などにも触れている。また、現在の研究現場の現状について苦言を呈してもおられる。

🐱本書で取り上げられている学問分野について簡単に説明すると、

脳科学 brain science は、脳とその機能について研究する学問分野。

神経回路網 neural network (NN) は、脳をモデル化した学習機械から発展して、脳機能に見られるいくつかの特性を計算機上のシミュレーションによって表現することを目指した数学モデル(の研究)。著者の数理脳科学は、これにあたる。

人工知能 artificial intelligence (AI) は、人工的にコンピュータ上などで人間と同様(あるいは、それ以上)の知能を実現させる技術(の研究)。ただし、脳をモデルとしていない。

ということになる。これらの学問分野は互いにつかず離れずの関係で、時には対立したりしていたそうだが、AIにNNの考え方を融合させたのが、あの深層学習 deep learning なのだそうだ。

また、認知科学 cognitive science は、情報処理の観点から知的システムと知能を理解しようとする研究分野の学際領域を意味し、ここには心理学系、言語学系、人類学系、脳科学系、哲学系、NN系、AIなどが含まれるようである。


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第一章:脳を宇宙誌からみよう

この章は導入部で、宇宙のはじまりから地球の誕生、生命のはじまりと進化、脳(中枢神経系)の発生、人類の歩み、心(意識)の発生、そして、文明の発生と発展までをざっくりと振り返っている。

人類社会を考えるのに、物質の法則、進化の法則に加えて、心と文明の法則を考えなければならない。

第二章:脳とはなんだろう

ここでは、脳科学の基礎知識を紹介している。簡潔にまとめられていて分かりやすい。「自己組織化と臨界期」「大脳皮質は並列コンピュータ」「短期記憶と長期記憶」「記憶の定着と瞬きの理由」「脳細胞の新生」「脳の学習システム」「オプトジェネティクス:光遺伝学」など興味深い話題が多い。

※脳の学習システムには、「教師あり学習」「教師なし学習(自己組織化)」「強化学習(ドーパミンが出る)」の3種類がある。

第三章:「理論」で脳はどう考えられてきたか

ここでは神経回路網の理論の発展の歴史を振り返っている。

1960年代:第一次ニューロブーム(脳型学習機械パーセプトロン

1970年代:暗黒期(確率降下学習法)

1980年代:第二次ニューロブーム(コネクショニズム、誤差逆伝搬法)

21世紀:第三次ニューロブーム(パターン認識、深層学習 deep learning

また、第三の脳科学として、シミュレーションを取り上げている。

第4章:数理で脳を紐解く(1)

この章では、著者の専門である数理脳科学から「神経興奮の力学と情報処理の仕組み」について、数式を用いて初歩的な説明を行っている。神経回路網に起こる興奮の時空間パターンのダイナミクスの中で、興奮のマクロな様相を扱うのが「統計神経力学」であるそうだ。統計力学の親戚筋にあたるので何となく想像できる。本書では、分かりやすいように線形のモデルで説明されているが、ここでカオスアトラクタが登場する。脳は非線形ダイナミクスを活用していると考えられているのだ。非線形偏微分方程式である。「海馬は情報の関連性を記録する」「海馬は連想記憶装置である」なども興味深かった。

脳は記憶そのものを蓄えるのではない。これを思い出すための仕掛けを蓄え、ヒントから復元すべき情報を作り出す。

第5章:数理で脳を紐解く(2)

この章では、数理脳科学における神経回路網の学習に焦点を当てている。深層学習の基礎となったパーセプトロンの仕組みについて、数式を用いて初歩的な説明を行っている。ここでも、分かりやすいように単純なモデルで説明されている。「強化学習」「自己組織化学習」についての説明も興味深い。強化学習は非線形の確率最適化問題で、Googleの「アルファ碁」は、強化学習と深層学習を組み合わせて使っている。脳の自己組織化に関する猫の目の実験は面白いが子猫が少しかわいそうである。ネズミだとあまりかわいそうとは思わないのだが。後半は、話が少々専門的になる。

第6章:人工知能の歴史とこれから

1950年代後半~1960年代:第一次人工知能ブーム(記号と論理、フレーム問題)

1970年代後半~1980年代前半:第二次人工知能ブーム(確率推論)(日本では5年遅れ)

◎インターネットの普及とウェブ技術の確立

→第三次人工知能ブーム

1997年IBM「ディープブルー」人間のチェス世界チャンピオンを破る。

2011年IBM「ワトソン」

ビッグデータ、確率推論)

2012年ディープラーニング登場。

(画像認識、顔認識、音声認識など)

ここでは、深層学習の仕組みについての詳しい解説がある。さらに、2045年問題(技術的特異点)について、筆者の見解が述べられている。

第7章:心に迫ろう

ここでは、「心の理論」「囚人のディレンマ」などを紹介し「葛藤」する心についての研究、現象としての「意識(自分の意図を自分が知っていること)」の研究、「自由意思」の存在、「先読み(予測)と後付け(反省)」、BMI技術について説明があり、心の働きとはそもそもどのようなものか、意識はどこから生まれるのかを考察している。そして、最後に人工知能は心を宿すか、心をもつロボットは生まれるかについて、筆者の見解を述べている。

 

🐱脳科学、神経回路網、人工知能について、まとめて知ることができるのが本書の利点である。特に、神経回路網と人工知能の違いは素人には分かりにくいので、すっきりした。数式部分は、何となく雰囲気がつかめればよいというくらいの気持ちで読めばよいと思う。これらの分野については一般的な知識はあったので読みやすかった。

🐱著者の自己の研究に対する自負、新しい学問分野を切り開いていく困難、今も衰えない研究に対する情熱、欧米中心の学会における日本人研究者の不利な状況、日本の研究現場に対する危機感といったものを強く感じた。


 

 

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)

脳・心・人工知能 数理で脳を解き明かす (ブルーバックス)