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森の踏切番日記

人生LARKしたい

シェイクスピア別人説

5月の読書録からーーーーーー

 シェイクスピアの正体

 河合祥一郎

 新潮文庫(2016/05/01:2008)

 1605-09★★★★

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🐱世の中には、「ストラトフォード・アポン・エイヴォンという田舎町出身の役者風情に、あのすばらしいシェイクスピア作品が本当に書けたのか」を疑う人が昔からいて、ストラトフォード・アポン・エイヴォンシェイクスピアシェイクスピア作品を書いたのだとする人たちがストラトフォード派と呼ばれるのに対して、そういう懐疑派の人たちを反ストラトフォード派というそうで、今世紀に入ってさらに大きく盛り上がっているということだ。

🐱1564年にストラトフォード・アポン・エイヴォンに生まれ、1616年にその地に没した役者ウィリアム・シェイクスピアが存在したことは紛れもない事実である。反ストラトフォード派は、役者シェイクスピアとは別に「シェイクスピア」と名乗る影の劇作家がいたのではないか、あるいは、名前を借りて誰か別人が作品を発表したのではないかと疑っているのだ。

🐱本書は、まず第1章でストラトフォードの田舎役者が劇作家シェイクスピアであるとする証拠があるのか再検討し、主要な別人説を紹介している。第2章は、「この問題を解くには、時代を知らなければならない」ので、当時がどのような時代だったか検証している。第3章は、これまでシェイクスピア学者が「常識」と見なしてきたシェイクスピアの生涯に関する定説を突き崩す考察を行っている。そして、第4章では、作者としてのシェイクスピアの姿に迫っている。

シェイクスピア》とは誰なのかという問題をつきつめると、彼が書いたテクストはどれなのか、また何をどのように書いたのかという作者問題の別の側面に行き着く。

 


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🐱シェイクスピアの生涯については、空白部分もあり謎が多いという事や実生活のせこさと作品の気高さにギャップがあり過ぎる事などが問題視されているようである。特に、十九世紀に入ってシェイクスピア崇拝熱が高まるにつれ、「われらが偉大なシェイクスピアが、蔵書もなければ高等教育も受けず、金銭にせこい田舎者であったはずがない」という考えを持つ人が出てきたようだ。

🐱主な別人説として、フランシス・ベーコン(哲学者)、クリストファー・マーロウ(劇作家)、第六代ダービー伯爵、第十七代オックスフォード伯爵、ペンブルック伯爵夫人、第五代ラトランド伯爵、ヘンリー・ネヴィル(外交官)の七人が挙げられている。話としては面白いが、どれも説得力に欠ける印象である。

 


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フランシス・ベーコン

 

 

🐱本書には書かれてないが、ゲオルク・カントールは、連続体仮説の証明に行き詰まって精神を病んだ時、数学から逃避するためなのか、シェイクスピアフランシス・ベーコン説の証明に精力を傾けている。なんか、益々病状が悪化するような気がする。カントール夏目漱石同様、躁鬱病だったと見られている。因みに、カントールは、1845年3月3日生まれで1918年1月6日ハレ大学付属精神病院で心不全のため没していて、漱石と同時代を生きている。当時の医療レベルでは正しい判断は難しかったと思われるが、現代の心理学によれば、人は容易に乗り越えられない困難にぶつかったときに抑鬱状態が引き起こされる場合があることが分かっている。カントールも最初の発作ですっかり人格が変わってしまったという。話が横道にそれた。

 


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ゲオルク・カントール

 

 

🐱著者によると、シェイクスピアの生涯を知るには当時の英国の宗教事情を考慮する必要があるようだ。エリザベス1世が1559年に礼拝統一法の再宣言を行ってイングランド国教会を国の宗教と定めて、カトリック教徒の大弾圧が始まるのだが、シェイクスピア家はカトリックで、シェイクスピアの周囲にはカトリック教徒が多かったそうだ。従って、シェイクスピアは用心深く行動する必要があったと著者は主張している。

🙀それにしても、当時の首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑というのは残酷である。

首吊り台にかけ、息のあるうちに降ろして生殖器を切り落とし、腹を切り裂き、死にかけた本人の目の前で引きずり出した内臓を燃やしてみせ、それから首を切り落とし、遺体をひきちぎり、ばらばらの手足等をあちこちの獄門にさらしたのである。

 


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🐱著者は、「シェイクスピアは天才だ」という思い込みから抜け出ないことには、シェイクスピアの正体は見えてこないと主張している。十七世紀の王政復古時代には、シェイクスピア作品は荒削りで粗野だし田舎臭いと言われていたそうだ。 

🐱著者は、「些細な事実に深い意味があるかのように述べ立て、事実誤認や誤解を交えて謎を作り出す反ストラトフォード派のトリックには要注意である」としている。シェイクスピア別人説に限らず此の手の説を主張する連中の切り口というのは、そういうものが多いものである。著者は、その反ストラトフォード派のトリックに一つ一つ反証を試み論駁している。

🐱シェイクスピアの正体を正しく理解するためには、まずシェイクスピア崇拝から脱する必要があると、著者は云う。

シェイクスピアがすばらしいと言うこと自体はかまわないが、他の同時代の劇作家たちの作品と比べてどこがどう優れているのか理解したうえで言うのでなければ、シェイクスピア崇拝の誹りを免れない。

 


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🐱結論として、シェイクスピアとは誰なのか。

シェイクスピアをきちんと理解するためには、エリザベス朝演劇という広大な山のなかにシェイクスピアを返して、その山のなかでさまざまな他の劇作家と同時にシェイクスピアと向き合うことが必要だ。シェイクスピアの正体はその山の中にある。

 

 

シェイクスピアの正体 (新潮文庫)

シェイクスピアの正体 (新潮文庫)

 

 

 

🐱世の中には、謎の無い所に謎を作りたがる連中もいるよね。話としては面白いけれども、マジになられると引くよね。🐥

 

 
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