森の踏切番日記

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『凶器は壊れた黒の叫び』感想  ~やさしい魔女の夢と幸せ

11月の読書録05ーーーーーーー

 凶器は壊れた黒の叫び

 河野裕

 新潮文庫(2016/11/01)

 1611-05★★★☆

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😺本書は、『いなくなれ、群青』、『その白さえ嘘だとしても』、『汚れた赤を恋と呼ぶんだ』に続く、階段島シリーズの第四弾で、普遍的なテーマを扱った青春小説と云えるが、仕掛けが施された複雑な構成になっていて、なかなか考えさせられる内容である。

 

😺このタイトルの付け方は、庄司薫の『赤頭巾ちゃん気をつけて』シリーズを思い出させる。庄司薫のこのシリーズは、赤➡白➡黒➡青の順で四作で完結している。庄司薫の場合は五行説の順番通り(南➡西➡北➡東)で、白(西・秋)で「死」をテーマにしたり、青(東・春)で完結したりして、かなり意図を感じさせるものだった。

 

😺本シリーズも何かタイトルに意図があるのだろうか。今のところ、そのような意図は読み取れていない。ただ、『赤』と『黒』は、結末が対応関係にある。本シリーズもこれで完結だろうか。まだ解決していない問題も残っているが、小説としてはこれで完結してもよいと思うのだが、どうだろう。

 


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😺本書の舞台となる「階段島」は「魔女」が創った、いわば、仮想世界である。ここに暮らす住人は、仮想の人間と考えてよい。 この島の住人は現実の世界の本体が成長の過程で捨て去った「欠点」あるいは「未熟さ」を抱えたままの存在であり、「欠点」あるいは「未熟さ」が強調された存在である。そのため、現実の人間よりも単純な人格として描かれている。

 

🐱自然界は雑多で複雑な要素で構成されているが、化学実験は、できるだけ単純で安定した理想的な環境下で行われる。そうして、自然界の本質を探る。複雑な現象は多次元の状態空間に置き換えて微分方程式をたてるが、そのままでは方程式が解けないので、最も影響力の大きい要素を選んで、低次元の状態空間に置き換えて方程式を解けるようにする。それでも、複雑な現象の本質的な部分を探ることは出来る。

 

🐱本書は、そうした方法論と同じようにして、人間という複雑な存在の本質を考えようとしているように思われる。「階段島」は、いわば、試験管の中にある。

 

 

🐱「魔女」は、自分が創った世界では万能であり、神のような存在といってもよいが、万能であるということは、退屈なものであるらしい。だから、独裁者は退屈しのぎにミサイルをぶっ放したり、大量虐殺したり、戦争を始めたりする。

 

🐱何でも出来るということは、何にも出来ないということと同義である。神様は退屈のあまり死んでしまったという話を昔読んだことがあるような気がする。

 

 

🐱『サクラダリセット』シリーズもそうだが、河野裕はやさしい物語を書く。人間の「善意」を信じようとする姿勢で貫かれているように思われる。

 

 

🐱本書のテーマの一つに「夢(理想)」と「幸せ」が矛盾したら、どちらを選ぶかということがあるが、主人公は「夢」を選ぶと断言する。これは、現実の彼が捨てたことでもある。現実の彼は、いろんなことに妥協 しながら「幸せ」を選んでいくことになる。

 

🐱「夢」と「幸せ」のどちらを選ぶかという設問だが、「夢」と「現実」ではないのだ。「幸せ」は主観的なものだから、どんなに困難な状況であろうとも「夢」の実現が難しくても「幸せ」と思えれば「幸せ」なのだ。しかし、主人公は、

「僕は幸せになりたいわけじゃない。でも不幸にはなりたくない。本当に大切な夢を諦めるのは不幸だ。幸せになれたとしても、不幸だ」

と言う。彼の女友達は、

そもそも夢が幸せと、矛盾してはいけない。そんな夢がもし存在するなら、より良い夢に置き換える必要がある。

と考える。どちらも考え方が純粋過ぎるから、なかなか難しい。現実の世界では、人生において「夢」は必要条件ではないだろう。

 

🐱ここでの「夢」は、具体的には「階段島」のことである。「階段島」を創った「魔女」は何も捨てたくないやさしい魔女なのだが、「階段島」が仮想の世界である限り「幸せ」も仮想の幸せにしかならない。そこに矛盾が生じるということだろう。何も捨てなくてもよい世界は完全な世界である。この世界が完全でない限り、何かを捨てていかなければならないように出来ているのだ。「階段島」も完全な世界にはなり得ない。完全な世界は何の活動もない無に等しい世界を思わせる。そんな世界には住めない。結局のところ「魔女」はこの世界の不完全さを認めるしかないだろう。

 

 

🐱本シリーズの中では、唯一現実の世界を描いた第三作目の『赤』が最も重要だろう。通常なら、これだけでひとつの作品として完結するところである。それを有り得たかも知れない別の物語を描くことでテーマに深みを与えている。

 

🐱本作品では、主人公は自分が大切だと思う女の子に、愛でも恋でもないものを求めている。それは「崇拝」に近い。女の子の方は、主人公に対する感情をとりあえず「尊敬」と呼んでいる。これは恋愛以前の感情で、神話的とも云える。そういう意味で、彼らは子供のままなのだろう。

 

 

🐱真辺のような真っ直ぐな子は、融通がきかないから扱いが本当に大変だな。このキャラは破壊力が抜群である。堀は、やっぱり可愛らしい子だった。応援したくなるキャラだな。

 

 

 

🐱以上、読んだ直後に思い付いた事をそのまま書きとめたので、的外れなことを書いたかも知れない。このシリーズは第三作目までは時系列が複雑なので表にしてまとめたのだが、本書を踏まえて、もう一度じっくり読み直してみたいと思う。本書も再読しないと読み切れていない部分があると思う。🐥

 

 

 

凶器は壊れた黒の叫び (新潮文庫nex)

凶器は壊れた黒の叫び (新潮文庫nex)

 

 

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階段島シリーズ(新潮文庫nex

 

 

 

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赤頭巾ちゃん気をつけて (中公文庫)

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※昭和40年代の青春小説の名作 。このシリーズは、青春小説の普遍的なテーマを扱っているので河野裕の作品と通じるものがあると思う。