森の踏切番日記

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『貴族探偵対女探偵』の感想~かさしのふこのもも

12月の読書録02ーーーーーーー

 貴族探偵対女探偵

 麻耶雄嵩

 集英社文庫(2016/09/25:2013)

 1612-02★★★☆

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🐱本書は2010年に刊行されて、2013年に集英社文庫化された短編集『貴族探偵』に続く貴族探偵シリーズ二作目となる短編集である。

新米探偵・愛香は、親友の別荘で発生した殺人事件の現場で「貴族探偵」と遭遇。地道に捜査をする愛香などどこ吹く風で、貴族探偵は執事やメイドら使用人たちに推理を披露させる。愛香は探偵としての誇りをかけて、全てにおいて型破りの貴族探偵に果敢に挑む! 事件を解決できるのは、果たしてどちらか。

 

 

🐱本シリーズの “探偵役” である貴族探偵は、本名も経歴も不明だが、警察にも顔が利くほどの権威を持つやんごとなき家柄の出身であるらしい。二十代後半と思われ、背が高く色白のすっきりした顔立ちで、口許に髭を蓄えている。皇室御用達で有名な常盤洋服店のスーツを着込んでいることが多い。どうやら、暇つぶしに探偵をしているようである。

 

🐱とは言うものの、彼が事件現場で推理を披露する訳では無い。彼はエレガントに女性を口説くか愛でるかしているだけである。

「馬鹿馬鹿しい。私に推理しろと? 貴族に労働を強要するとは時代も傲慢になったものだ。何のために使用人がいると思ってるんですか」

貴族探偵は、捜査も推理も全て使用人任せなのである。

 

🐱一方、本書が初登場となる女探偵・高徳愛香は、探偵として独り立ちして半年の新米探偵である。大学を中退して五年というから二十代半ばと思われる。彼女の師匠は名探偵と名高かったが、半年前に癌のため四十五歳の若さで死んでいる。以来、高徳愛香は師匠の教えを胸に刻みながら探偵として必死に働いてきた頑張り屋さんである。

 

🐱本書には五つの事件が収められているが、いずれの事件もたまたま貴族探偵が居合わせ、愛香は貴族探偵の挑発的な言葉にムキになり、中途半端に推理を披露してしまい失敗してしまう。そして、貴族探偵の使用人による推理が披露され、事件が解決するという〈多重解決〉パターンの趣向である。

 

🐱捜査も推理もしないくせに探偵を名乗る貴族探偵に対して愛香は、

「私は許せないの。推理をしないのにあなたが探偵を名乗っていることが」

と、詰め寄るが、貴族探偵は意に介さない。

「探偵とは何ですか? 事件を解決出来ない者は探偵ではないですね、女探偵さん」

事件を解決してこその探偵……

 

🐱本シリーズの主人公は、ロジックと云ってよいだろう。吾輩はミステリにも小説としての面白さを要求する方なので、トリック主体の謎解きだけのパズルのようなミステリは、あまり好まないのだが、本シリーズのように緻密なロジックが展開するならば、これはこれで楽しめる。論理の展開が美しくて、数学や物理の問題のエレガントな解答を見るような趣である。それだけでも十分に鑑賞に値するのだ。

 

🐱前作の『貴族探偵』は、小説としての面白さという意味では、物足りない面があったことは否めないが、本書は、女探偵・高徳愛香という新キャラを登場させることによって、コミカルな面が強調され小説としても面白くなったように思う。

 

🐱本書に収録されている五編の短編の内、四編はストレートなミステリであるが、一編だけ変化球が織り込まれている。ストレートに威力があるので、この変化球が極めて有効である。こういった作品全体の組み立てもよく計算されていると思う。個人的には、この変化球が最も気に入った。

 

🐱この五編の短編のタイトルはいずれも百人一首から採られている。それが、この記事のタイトル「かさしのふこのもも」の五首である。ちょっとしたクイズでした。

 

🐱貴族探偵は捜査も推理もしないのに、何故「貴族探偵」を名乗るのか、思うに、彼はロジックを象徴しているからではないだろうか。ロジックとはノーブルでエレガントなものであると作者は主張しているのである。彼は単なる象徴なので何もしない。そんな風に感じた。

 

 

 

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

貴族探偵対女探偵 (集英社文庫)

 

 

 

📄関連図書
貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

 

🐱★★★☆

🐱こちらも短編を五編収録している。やはり、四編がストレートなミステリで、一編が変化球。個人的には「春の声」のやや強引とも云える論理の展開が気に入った。🐥