森の踏切番日記

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『機械仕掛けの選択/サクラダリセット3』の感想

1月の読書録01ーーーーーーー

 機械仕掛けの選択

 サクラダリセット

 河野裕

 角川文庫(2016/11/25:2010)

 1701-01★★★★

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🐱本書は、2010年9月に角川スニーカー文庫より刊行された『サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN』を修正し、改題したものである。

 

🐱この物語の主人公たちは、高校一年生である。一作目には七月に起きた出来事が描かれていて、一つの事件を通して、この物語の世界と登場人物を紹介する内容となっている。二作目には八月上旬に起きた出来事が描かれていて、その結果得られた物が今作品にかかわってくる。今作品の時制は八月三十日だが、主に、二年前、主人公たちが中学校二年生だった頃の物語の発端となった出来事が描かれている。

 

 

 

サクラダリセット3  MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)

「私達の中に、アンドロイドがいると仮定しましょう」

「ただの質問よ──アンドロイドは、だれ?」

 

 

 

🔘咲良田市

🐱物語の舞台となる咲良田市は、ごくありふれた地方都市だが、住民の半数近くが何らかの「能力」を持つ。この「能力」は管理局と呼ばれる公的機関によって管理されている。咲良田市から離れると「能力」は失われる。また、「能力」に関する記憶も失われる。

  

 

 

🔘登場人物(二年前)

浅井ケイ(あさいけい)

七坂中学校二年生。見聞きしたことを忘れない「記憶保持」能力を持つ少年。

※ケイは、元々咲良田市の住民ではなかったが、小学校六年生の夏に、あるきっかけで咲良田市を訪れ、「能力」に魅せられ、自身も「能力」が発現したことから、咲良田市に住むことになった。今回、その経緯が明らかになる。

その能力はおそらく、自身の罪の深さを自覚するためだけに生まれたのだろう。

 

中野智樹(なかのともき)

七坂中学校二年生。時空を超え、声を届ける能力を持つ少年。ケイの友人。 

※ケイは、中野家の離れを借りて住んでいる。(高校入学後、独り暮らしを始める)

 

◾春埼美空(はるきみそら)

七坂中学校二年生。智樹と同じクラス。世界を三日分、元に戻せる能力「リセット」を持つ少女。ただし、「リセット」すると自分がリセットしたことも忘れてしまうので、同じ行動を繰り返してしまう。

春埼美空は自身のルールに従って生きている。単純なプログラムで動くコンピュータのようなものだと思う。

※智樹から見て春埼美空は、髪が長い変な奴。

「滅多に喋らないし、表情も変えないし、周りの人間になんの興味もなさそうな奴だ」

春埼は人の感情を理解することが苦手だ。

※ケイは、春埼の「リセット」能力を知り、強い関心を持つ。

春埼美空のリセットは、浅井ケイの記憶保持がなければ意味をなさない。

それだけでなく、

春埼美空の能力は、浅井ケイにとって特別な意味を持つ。

 

◾相麻菫(そうますみれ)

七坂中学校二年生。智樹と同じクラス。クラス委員長。未来を知る「未来視」の能力を持つが、彼女の能力は周りの人間に知られていない。「野良猫みたいな女の子」

※智樹から見て相麻菫は、ショートカットの「普通に明るい女の子」である。

※4月8日の夕方、中学校二年生になったばかりのケイが独りになりたくて河原のテトラポットに座り込んでいたところ、声をかけてきた女の子がいた。それが相麻菫だった。(『サクラダリセット2』)

※ケイは、相麻の計らいで、春埼と三人で放課後に時々校舎の屋上に集まって話をするようになる。

「ずっと疑問だったんだけどね。相麻、君の目的はなんだ?」

 

◾坂上央介(さかがみようすけ)

七坂中学校三年生。生徒会長。線の細い小柄な少年。気が弱そう。右手で触った相手の能力を左手で触った相手へコピーする能力を持つ。

 

◾クラカワマリ

七歳の少女。公園で泣いているところを春埼美空が見かける。春埼が少女の対応に困惑しているところに、相麻菫が母親を連れてやって来る。この日をきっかけにマリは、春埼になつくようになる。

 

マリの母親

「あとは、お母さんも好き。でもお母さんは、私のこと、好きじゃないんだ。私がニセモノだから、嫌いなんだ」

 

◾ツシマ

自称マリの保護者代理。管理局員。二十代半ばほどで、よれたスーツを着て、無精ひげを生やした男。

 

 

 

🔘春埼美空のルール

「周囲の環境に強い悪影響を与える可能性がある行動を、私は選びません」

「ひとつ目に反しない限り、私は提案された事柄を肯定します」

「泣いている人をみつけたとき、私はリセットを使います」

 

◾相麻は、春埼を理解するためには、春埼の過去を知る必要があるとケイに提案し、坂上に協力してもらって、春埼に七歳の頃の記憶を思い出させるが、七歳の春埼は、既に自身が定義したルールを持っていた。

 

▶十日後、春埼は自ら、もう一度過去を思い出す能力を使ってほしいと言う。

「私が感情を持っていた時期を思い出したいのです」

「どうして?」

「マリの問題を解決するためです」

 

▶その日から春埼は、自身の感情を探すために少しずつ過去へと記憶を辿る。二週間後、五歳の頃のすべてを思い出した春埼は、悲しくて泣いている自分自身を見つけ出す。

──五歳のころの私は、とてもよく泣いていた。

 

▶春埼美空は自分自身を上手く認識できない子供だった。自他を区別できないので世界の全てが悲しかった。彼女は悲しみ続けた結果、感情が摩耗して、感情を失ってしまった。その代わりに、春埼は自身に機械的なルールを作った。

救えなくても救おうとすることを、春埼美空は自身に課した。

 

▶ケイは、そんな春埼に純粋な善意を認め感嘆する。

「本当に善人と呼べる人間がいるとするなら、それはきっと春埼だ」

「でも春埼には、誰も救えない」

「そんなことは、わかってるよ」

純粋な善は、とても弱い。誰も傷つけないまま出来ることは極端に少ない。

 

🐱浅井ケイは、本質的に善でありながら自己矛盾を抱えている。それで、彼は春埼の人格を理想的な善であると考えるのだが、純粋さを求めるところが思春期の少年らしい。しかし、ただ善であるというだけの存在に何か意味があるだろうか。

 

🐱人が純粋に善人であるためには、ムイシュキンのようになるしかないだろうと思う。

 

 

 

🔘クラカワマリと倉川真理

🐱以前、死んだ愛猫のクローン猫を作った金持ちの婆さんの話を海外ニュースで見た記憶があるが、その婆さんは、よく似た猫なら何でもよかったのだろう。ネコで可能なことはヒトでも可能である。マリの母親は「能力」を使って同じことをしたに過ぎない。

 

🐱しかし、ペットと我が子では事情が異なる。マリの母親は、「人間そっくりな人工的に作り出された」マリを受け入れることが出来ない。これは、人類が直面する倫理的な問題のひとつである。

 

🐱この問題を突き詰めると、母親とは何かという問題にも行きあたるが、問題が大きすぎるので、ここでは深入りしない。

 

 

 

🔘アンドロイドは、だれ?

アンドロイド。人間そっくりに作られた、人間ではない何か。

管理されたルールの内側に囚われ、決して踏み外すことができない存在。それが相麻菫の定義するアンドロイドだ。

 

🐱相麻菫は、未来を知る能力があるがゆえに、自分が知る未来に束縛され、決して踏み外すことが出来ない。

 

🐱そう考えると、人類が未来を知る能力を持たないのは幸せなことだと思えてくる。

 

 

 

🔘相麻菫は、なぜ死んだのか

「未来視なんて能力を持つ彼女が、事故で死ぬはずなんてないんだよ」

相麻菫は、あの死を回避できたはずなのだ。なのに受け入れた。複雑な方法で自身を再生する準備を整えて、わざわざ死んだ。いったいそこに、どんな意味があるというのだろう?きっとその答えがもうすぐわかる。

 

◾中学二年の9月1日、ケイは個人的な理由でリセットを使う。リセット前の世界では生きていた相麻が、リセット後の世界では8月31日に事故で死んでしまう。相麻菫の死によってケイと春埼は深く傷つき、春埼は自分の意志ではリセットを使えなくなってしまう。

 

▶それから二年経った8月30日に、ケイ達は、ある能力を使って相麻菫を再生させる。

相麻菫の再生。あるいは彼女にそっくりな人間の誕生。

 

🐱再生した相麻菫はどちらであるか。この小説の設定の場合は、明らかに後者だろう。物理的に連続した存在の相麻菫は二年前に死んだのだから相麻菫の再生ではあり得ない。再生したのは、ある瞬間における相麻菫のコピーと考えるのが妥当だろう。コピーをフリーズして二年後に再生したのだ。クローンとも異なる。ただし、主観的には彼女の意識は連続しているだろうから、全く同等の存在と考えることができる。オリジナルの相麻菫は、全てを知りながら、それを受け入れて死んだことになる。

 

🐱相麻菫は、事故死する前に智樹の能力で二年後の菫自身に声を届ける準備をした。

「君の声は聞こえたのかな?」

「貴方が選んだ方が、きっと正解よ」

咲良田市の住民の能力は、主観的で定義が曖昧なので、智樹自身の主観に左右されそうだが、相麻菫と同等の存在なので声は届いたのではないかと想像する。

 

 

 

🔘マクガフィン 

「全部必要なことなの。相麻菫が死ぬのも、彼女と同じ私が生まれるのも」

「どうして?」

「それは、秘密。もう少しだけ、秘密にさせて」

 

「私は、私が予定した物語の主人公を、貴方にしたかった。これまでの出来事は、全部そのための準備なの」

 

マクガフィンの持ち主が、咲良田の能力のすべてを支配するのよ」

 

🐱今後の展開が気になる終わり方である。本書は、三作目にして文体が確立して、文章がこなれてきた印象である。今回も複雑なプロットをうまく収束させていると思う。マリに関する問題自体はすっきり解決したという訳では無いが、そもそも解決しようのない問題だと思う。全体的に好感の持てる内容だった。

 

 

 

 

 

 

機械仕掛けの選択 サクラダリセット3 (角川文庫)
 

 

 

 

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🐱SFの古典的名作。今となっては、少し古い気もしないではないが、久し振りに読み直したくなった。映画『ブレードランナー』は何回見たことか。

🐱あと、中島みゆきの〈五才の頃〉を思い出した。🐥