森の踏切番日記

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『さよならがまだ喉につかえていた/サクラダリセット4』の感想

1月の読書録04ーーーーーーー

 さよならがまだ喉につかえていた

 サクラダリセット

 河野裕

 角川文庫(2016/12/25:2010)

 1701-04★★★★

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🐱本書は、2010年12月に角川スニーカー文庫より刊行された『サクラダリセット4  GOODBYE is not EASY WORD to SAY』を修正し、改題したものである。

 

🐱本書は六編の短編小説が収録されている短編集である。そのうち五編が「サクラダリセット」シリーズで、残り一編はまったく別の短編小説である。

 

🐱この六編の短編小説の内、一編を除いてはラノベ雑誌『ザ・スニーカー』に掲載されたものである。その為か本編よりもライトな仕上がりになっている。本編の方はラノベと云いながら文体があんまりライトではないのだが、本書は肩の力が抜けた感じで、かえってそれが良い結果になっていると思う。

 

🐱本書に収録されている短編は全て『サクラダリセット3』刊行以前に発表されたもので、『3』よりも前か、『3』と並行して書かれたものであると思われる。本編の方はこの第三作目で文章が格段に良くなったように思うのだが、短編をいくつか書いたことが良い経験になったのではないだろうか。もともと短編が得意な人なのかもしれない。本書に収められた短編は、いずれも完成度の高い佳作である。

 

 

 

サクラダリセット4  GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)

「伝言が好きなの」

と、相麻菫は言った。

少し掠れた声だった。

 

 

 

🔘ビー玉世界とキャンディレジスト

初出・『ザ・スニーカー』2010年10月号

🐱浅井ケイと春埼美空が芦原橋高校に入学した日、4月10日に起きた世良佐和子という女の子に関するエピソード。

🐱新入生の世良佐和子は入学式の当日、午前11時30分ごろ、校門の前で倒れているところを発見される。彼女は、意識だけビー玉の中に入り込んでしまったのだ。

ビー玉の中の少女は、ぺこりと頭を下げる。

「ども。初めまして」

舌がもつれ気味な少女の声が、どこからか聞こえた。

🐱世良佐和子は真面目な女の子である。自分ではそれが要領が悪いからに過ぎないと思っている。真面目であることと要領が悪いこととは似ているようで異なる。馬鹿と馬鹿正直も似ているようで異なる。また、規則を遵守することと怠惰であることとは全く異なるが一見よく似ている。そんなことを思った。

🐱春埼美空が試しに口調を変えてみるところが可愛かった。彼女は長門有希に匹敵する無表情キャラである。この短編集は、ラノベ雑誌掲載を意識してか春埼美空の可愛らしさが強調されている。

🐱この短編は、始めの方と終わりの方で、同じ文章が出てくるのだが、印象が全く変わってしまう。なかなか効果的だと思う。

 

 

🔘ある日の春埼さん~お見舞い編

初出・『ザ・スニーカー』2010年8月号

🐱7月4日、火曜日の出来事。『サクラダリセット1』が7月12日から18日の出来事なので、その直前ということになる。因みに、7月4日が火曜日になるのは、最近では2006年と2017年(今年)である。

浅井ケイが風邪をひいて、学校を休んだ。その出来事にどう対処するべきか、というのが、春埼にとって最大の問題だった。

🐱浅井ケイに対して恋愛モードにあると思われる春埼美空がお見舞いに行くまでの心の葛藤を描いた掌編。普段は無表情無感情無関心の春埼があれこれ考えて迷うところが可愛らしい。クラスメイトの皆実未来もナイスアシストである。

「気が向いたら、浅井くんにキスしてみてね」

 

 

🔘月の砂を採りに行った少年の話

初出・『ザ・スニーカー』2010年4月号

🐱『サクラダリセット1』の出来事の一週間後の7月25日に始まり、一旦、23日に戻ってから、28日に終わる。ある少年のちょっと切ない初恋の話。吾輩お気に入りの野ノ尾盛夏が登場する。彼女は猫と意識を共有する能力を持つとてもいい人である。

「まったく、人間は面倒だ」

「どうしたところで、猫ほどシンプルには生きられないさ」

 

 

🔘ある日の春埼さん~友達作り編

初出・『ザ・スニーカー』2010年10月号

🐱『サクラダリセット2』には、8月7日から10日にかけての出来事が描かれているが、ここでは、その直後の8月11日の出来事を描いている。

🐱浅井ケイから「君ももう少し友達を作った方がいいよ?」と言われた春埼美空がケイおすすめの野ノ尾盛夏の所へ友達になりに行くという話。

「なるほど。事情はわかった」

「ですから、友達になってもらえませんか?」

「ああ、いいよ」

🐱春埼さんは、基本的な部分がちょっと変で可愛らしい。人工知能が感情を学習していくような感じである。

🐱野ノ尾さんは、哲学的な少女である。

「でもな、実は私は、言葉というものを、あまり信用していないんだよ」

「思っていることをそのまま言葉にすると、まったく別の意味に聞こえてしまうこともある。そういうのは、少し気持ちが悪い」

「階段島」シリーズの無口な少女を思い出した。

 

 

🔘さよならがまだ喉につかえていた

🐱『サクラダリセット3』は、浅井ケイと春埼美空の中学二年生の頃の出来事を描いているが、この短編は、その後日談として、相麻菫が事故死したことによる浅井ケイと春埼美空の関係性の変化を描いている。このシリーズのテーマを確認する上で重要な作品だと思う。

🐱この短編に宇川沙々音というチョコレート菓子が好きな目つきの悪い女の子が登場するが、ちょっと気になる。

キットカットを食べれば、死ぬのを止めると思ったんですか?」

「あんな美味しいものを食べて、まだ死のうとする人はいないでしょ」

🐱この短編では、誰かが幸せになれば他の誰かが不幸になるという当たり前のことの再確認をしている。このシリーズは、人は他者を傷つけずに生きることはできない、それでも他者に優しくあり続けたいという青春小説の普遍的なテーマに取り組んでいることが理解できる。

理想に届かないことが、すべてを諦める理由にはならない。浅井ケイは、きっとそうだ。きっと、ずっと、そうだ。

 

 

🔘ホワイトパズル

初出・『ザ・スニーカー』2009年6月号

🐱この作品だけは、「サクラダリセット」シリーズとは関係のない単独の作品であるが、SF年間アンソロジーに入れても遜色ない佳作であり、セピア色のファンタジーとでも云える内容である。河野裕のこういう短編をもっと読んでみたいと思った。

浦川さんは不思議な女の子だ。

彼女に出会ったのは、小学校三年生の夏休みだった。町のはずれにある、幽霊が出ると噂される洋館に、僕が忍び込んだのがきっかけだ。

 

 

 

 

 

 

 

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