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森の踏切番日記

人生LARKしたい

『片手の楽園/サクラダリセット5』の感想~TRUE BLUE

2月の読書録02ーーーーーーー

 片手の楽園 サクラダリセット

 河野裕

 角川文庫(2017/01/25:2011)

 1702-02★★★☆

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🐱本書は、2011年5月に角川スニーカー文庫より刊行された『サクラダリセット5 ONE HAND EDEN』を修正し、改題したものである。

 

🐱前作『サクラダリセット4』は、短編集だったので、本書は時系列的には『サクラダリセット3』のエピローグに続くエピソードということになる。

 

🐱『サクラダリセット3』のエピローグは、8月28日の出来事で、本書は9月22日から24日までの出来事が描かれている。

 

 

サクラダリセット5  ONE HAND EDEN (角川スニーカー文庫)

自身の本心を騙すことは難しい。

世界中の誰よりも、自分自身を心の底から騙しきることが難しい。

───私の嘘で、私は騙せない。

 

 

🔘咲良田市

咲良田市は、ごくありふれた地方都市だが、住民の半数近くが物理法則に反した何らかの「能力」を持つ。この「能力」は管理局と呼ばれる公的機関で管理されている。咲良田市を離れると「能力」は失われる。また、「能力」に関する記憶も失われる。

 

🔘登場人物

◾浅井ケイ(あさいけい)

見聞きしたことを決して忘れない「記憶保持」能力を持つ少年。高校一年生。

◾春埼美空(はるきみそら)

世界を最大三日分、元に戻せる「リセット」能力を持つ少女。ただし、浅井ケイの指示がないとリセットできない。高校一年生。

◾相麻菫(そうますみれ)

「未来視」能力を持つ少女。二年前に死亡したが、ケイたちの力によって再生された。中学二年生ということになるが、死んだことになっているので身を隠している。

◾野ノ尾盛夏(ののおせいか)

猫と意識を共有する能力を持つ少女。咲良田の猫の動向を全て把握している。高校一年生。

◾宇川沙々音(うかわささね)

管理局の協力者。大学一年生。

◾片桐穂乃歌(かたぎりほのか)

九年間眠り続けている女性。推定23歳。

◾野良猫屋敷のお爺さん

野ノ尾盛夏の古くからの知り合い。

◾索引さん

管理局員。大人の女性。咲良田の全能力を把握している。

◾浦地正宗(うらちまさむね)

管理局員。半年前から対策室室長。

 


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二年前に死んだ相麻菫が、能力により再生した。ケイは彼女が平穏な生活を送るため、咲良田の外に移り住むべきだと考える。だが、能力が存在しない世界は、相麻にどんな影響を与えるだろう? それを調べる実験をするため、ケイは九年間眠り続ける女性の「夢の世界」を訪れる。

しかし、現実が忠実に再現されているはずのその世界には、いくつかの相違点があり……

 

 

🔘ワンハンド・エデン

🐱片桐穂乃花の能力は、夢の中にもうひとつの世界を作ることができるというもの。

「ええ、その通りです。片手間で作れてしまう、幸福のレプリカ。片手に収まるほどに狭い、閉じた楽園。ワンハンド・エデン。管理局はその手の能力を危険視しています」

夢の世界の中では、片桐穂乃花は全能の神様といってもよい。穂乃花の近くで眠ると誰でも彼女の夢の世界に入ることが出来るのだが、管理局は、そこで得られる幸せは偽物だと判断して、彼女を隔離してしまう。

 

🐱この能力は欲しいなと思う。人類は将来的には、こういったプライベートな楽園を各自がバーチャルな世界で持つようになると予想している。アバターが他者の楽園を訪問したりするのだ。悪いことではないと思う。

 

 

🔘チルチルとミチル

🐱ミチルは夢の世界に住む少女。チルチルはミチルの願いを何でも叶えてくれる夢の世界の神様で、青い鳥の姿をしているが若い男性の姿にもなる。片桐穂乃花はミチルなのかチルチルなのか?

 

🐱この夢の世界の楽園は、現実の世界の咲良田と瓜二つだが、ある点で本質的に異なっている。

「現実であることが、とても重要なことだって勘違いしているの。たぶん現実から逃げ出す方法を知らないからね。妥協して、納得して、現実を信じるのよ」

 

🐱人間というものは、時には、現実を忘れてリフレッシュすることも大事だが、夢の世界に行ったきりなのは問題だろう、というのが正論とみなされているが、果たして、本当にそうだろうか。価値観などというものは、時代が変われば簡単に変わってしまうものである。

 

 

🔘宇川沙々音

宇川沙々音は間違いなく正義の味方だ。

なんの混じり気もなく、自身が正しいと信じる存在であり続ける。

 

🐱正義の味方というものは融通がきかない。世の中がショッカーのような分かりやすい悪ばかりならば、正義も分かりやすいだろうが。自分が正しいと盲信している人間ほど間違った存在はない。自己の定義における正義を信じる正義の味方はテロリストとなんら変わりがない。

 

🐱正義の味方ということでは、作者の「階段島」シリーズの真辺由宇を思い出す。宇川沙々音は、自己の正義を貫くための強力な能力を有するが、真辺由宇は、何の力も持たない、ただただ純粋に真っ直ぐな少女だ。このキャラは、作者にとって重要であるようだ。

 

 

🔘モンスター

🐱夢の中の「咲良田」では、夜になるとモンスターが現れ街を破壊する。モンスターが象徴するものは何かということだが、これは分かりやすい象徴である。

 

 

🔘野良猫屋敷のお爺さん

🐱このお爺さんは元数学者で、真実を書き記す能力を持つ。自動的に、意識とは無関係に、勝手に手が動き、ノートの上に真実が並ぶ。

「世界には真実が刻まれている。過去も未来も関係なく、ただ正しい事実が。その、一連の事実を、管理局はシナリオと呼ぶ。シナリオを書き写すのが俺の能力だ」

 

🐱これは、とてもつまらない能力だと思う。数学者にとって、証明されていない真実は、たとえ真でも予想に過ぎない。真実は、他者と分かち合って初めて真実となり得る。この能力を獲得した時点で彼は数学者としては終わってしまっただろう。

 

 

🔘シナリオ

🐱未来は決定論的か不確定かということについて言及されているが、シナリオの存在は、未来は決定論的であることを示唆している。ここでは、現実の世界において未来が決定論的かは問わない。この小説空間において矛盾がなければ未来が決定論的であっても構わない。ただし、この小説空間においても未来が決定論的であると確定しているわけでもなさそうである。 

 

 

🔘野ノ尾盛夏

「そうだよ。正しいものは、どこがが正しくない。正しくない所まで理解して、それでもなお正しいものだけが、本当に正しいものだ」

「君は何を正しいと思った?」

と、老人は言った。

「猫」

と、野ノ尾は答えた。

 

🐱サクラダリセットに出てくるキャラクターの中では、この女の子が最も好ましい。彼女は、人間があんまり得意ではないので、猫と意識を共有する能力を身につけた。それは、悪いことだろうか? 

「誰かと一緒にいなさい。それだけでいい。隣にいる人が笑うことを、幸せと呼ぶんだ」

 彼女は、六年振りに老人と再会して、彼から学んだことを思い出す。友人の役割とは何かを。

 

🐱人は孤独では生きていけない。誰かと繋がりを持たずにはいられないようにできている。それは、自明のことと云ってよいだろう。ただ、人の居場所というのは、人それぞれであり、それは尊重されるべきであると考える。

 

 

🔘浦地正宗

🐱彼は、能力者のいる咲良田を嫌っている。また、同様に夢の世界を嫌っている。彼が如何なる能力を有するのか、あるいは有さないのかは、明らかにされていない。彼が咲良田と能力を嫌う理由は、あまり論理的ではない。本能的な嫌悪感に近いものではないかと思われる。分かりやすい敵対者である。

 

🐱咲良田の能力を否定することは、人間の持つ才能や個性を否定することに繋がると思う。全体主義的な考え方であると云える。それ故に、彼は危険な存在である。

 

 

🔘春埼美空

🐱相馬菫が生き返ったことは、彼女にとって恐怖であるという。未来視があればリセットはいらないと思われるからだが、もちろん、それだけではない。

 

 

🔘浅井ケイ

🐱彼は、いろいろ優しすぎるな。

 

 

🔘相麻菫

🐱彼女が浅井ケイを愛する気持ちは、春埼美空が浅井ケイを愛する気持ちに負けないくらい強いと思われるのだが、未来視能力をもつが故に、決して叶うことのない恋であることを知っているというのは切なすぎる。彼女の人生はいろいろ切なすぎる。

 

🐱彼女は、復活してまでして何をしようとしているのか、今回明らかにされなかったが、咲良田とその能力に関係していることは間違いない。浅井ケイが関係していることも間違いないだろう。具体的な敵の存在が明らかになり、物語としては、いよいよ佳境に向かうという感じである。

 


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🔘TRUE BLUE

🐱偽物の青と本物の青に違いはあるのか? 何をもって本物の青とするのか。この世界が本物だという確証はどこにあるのか。🐥

 

 

 

 

 

 

 

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