森の踏切番日記

人生LARKしたい

『少年と少女と、/サクラダリセット6』の感想~All You Need Is …

3月の読書録01ーーーーーーー

 少年と少女と、 サクラダリセット

 河野裕

 角川文庫(2017/02/25:2011)

 1703-01★★★☆

────────────────────────────


f:id:morifumikirikita319:20170311202059j:image

 

🐱本書は、2011年12月に角川スニーカー文庫より刊行された『サクラダリセット6 BOY, GIRL and ──』を修正し、改題したものである。

 

🐱前作は、9月22日から24日までの出来事を描いていたが、今作は、それから1ヶ月後の10月22日から24日までの出来事を描いている。

 

🐱このシリーズは次作で完結するので、今作は、これまでの伏線を回収し、提示されていた謎を解き明かし、クライマックスへと向かう重要な作品である。

 

 

サクラダリセット6  BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)

学園祭当日、浅井ケイは春埼美空に想いを伝えた。だがその裏側で、再生した相麻菫と管理局対策室室長・浦地正宗それぞれの計画が絡み合いながら進行していた。翌日、ケイは相麻からの不可思議な指示を受け、その先々で能力の連続暴発事件に遭遇する。それは40年前に咲良田に能力が出現した「始まりの一年」から続く、この街が抱える矛盾と、目の前に迫った “咲良田の再生(サクラダ・リセット)” に繋がっていた。

🐱詳しいあらすじはこちら➡『少年と少女と正しさを巡る物語/サクラダリセット7』あらすじと感想(1) - 森の踏切番日記

 

 
f:id:morifumikirikita319:20170312125653j:image
Break Dancing Statue of Liberty

Art-Sci: Statue of Liberty Gone Wild | HATENA | Pinterest | Statue of, Statue of liberty and Liberty

 

 

🔘咲良田市

咲良田市は、ごくありふれた地方都市だが、住民の半数近くが物理法則に反した何らかの「能力」を持つ。この能力は管理局と呼ばれる公的機関で管理されている。咲良田市を離れると「能力」は使えなくなる。また、「能力」に関する記憶も失われる。

 

🐱今回、咲良田市に限って「能力」が使える仕組みが明らかにされる。それは全て「始まりの一年」における最初の能力者の能力によるものなのだが、神話的な話で印象深かった。また、この「能力」は特別なものではなくて人類が潜在的に持っているものが、たまたま現出したとしている点も意味があると思う。

 

 

 

◾浅井ケイ(あさいけい)

芦原橋高校1年生。「記憶保持」の能力を持つ少年。

 

🐱今回、ようやく春埼美空にコクるわけだが、少し理屈っぽいところが浅井ケイらしい。ストレートに抱きしめてしまえば良いのにと思う。これまで、浅井ケイは春埼美空に対する恋愛感情を意識的に抑えようとしていた。それは二年前の出来事が大きな負い目となっているからなのだが、そこに彼の潔癖さを感じる。

── 彼女が進んだのに、僕が立ち止まっているからいけないんだ。

 

 

◾春埼美空(はるきみそら)

芦原橋高校1年生。世界を三日分元に戻せる「リセット」能力を持つ少女。ただし、浅井ケイの指示がないとリセットできない。

 

🐱春埼美空の方は、自分の恋愛感情に対し常に素直にいたことが分かる。彼女の場合は感情表現が薄いので、やはり少し理屈っぽい感じになる。相麻菫の存在が初めて彼女を感情的にさせたと云える。人間は恋愛感情の為にいくらでもワガママになれる存在なのだが、そこに罪悪感を覚えるところに彼女の潔癖さを感じる。二人は似たもの同士なのだ。

「ごめんなさい。私は、相麻菫が、嫌いです」

 

 

◾相麻菫(そうますみれ)

「未来視」能力を持つ少女。二年前に事故死したが、ケイたちの力によって再生した。

 

🐱相麻菫は、事故死する前に智樹の能力で2年後の菫自身に声を届ける準備をしていた。再生した相麻菫は、はたして元の相麻菫と同じと云えるのかという問いと、その声は届いたのかという問いが『サクラダリセット3』で提示されていたのだが、今回これについての解答がなされている。再生した相麻菫は、当然のことながら元の相麻菫とは同じではない。彼女は精巧なレプリカでしかない。しかしながら、同等の存在なので声は届いたようだ。

「どうしようもなく、私も彼女と同じなの」

 

🐱もう一つの大きな謎だった、相麻菫は何故二年前に死ななければならなかったのかについても理由が明らかにされる。この理由は思いつけなかった。

🐱ヒトという動物は、時として「愛」のために自己を犠牲にする事ができる存在なので、彼女の行為は理解できるが、彼女は死ぬことによって、浅井ケイにとって特別な存在になろうとしたとも云えるので、彼女の「愛」もまたワガママであると云える。チキンカレーのエピソードが、彼女も特別じゃない普通の女の子だったのだなと分からせてくれる。

 

 

中野智樹(なかのともき)

ケイの親友。時空を超えて声を届ける能力を持つ。

彼の能力はケイが知る限り、もっとも美しい。

そして能力は、使用者の心と深く繋がっている。

 

🐱彼の存在とその能力は思ったよりも重要だった。浅井ケイと中野智樹の友情は理想的ではあるが空々しくはない。青春小説には彼のような存在はやはり必要だろう。

「愛を叫んで女の子が笑えば、宇宙はハッピーだ」

 

 

◾皆実未来(みなみみらい)

未確認研究会(U研)に所属。ケイ・美空・智樹と同級生。

「私は、どんな形でもいいから、特別な人と関わりたいの。吸血鬼に噛まれたいシンドロームだよ」

 

🐱こういうタイプのコは、危険な目に遭いやすいと思う。実際、遭ってるし。それでも懲りないのが、こういうタイプのコだな。

 

 

◾村瀬陽香(むらせようか)

芦原橋高校1年生女子。年齢はケイたちより一つ上になる。物を消す能力を持つ。出番は少ない。便利屋さん的扱い。

 

 

◾野ノ尾盛夏(ののおせいか)

ケイたちとは別の高校に通う1年生女子。猫と意識を共有する能力を持つ。出番は少ないが、彼女のキャラは好感が持てる。

 

🐱今作は、これまでの主な登場人物がほとんど全て何らかの形で話の展開に関わってくる。律儀なことである。

 


f:id:morifumikirikita319:20170312125723j:image

引用元:「黒猫・至高の美【画像】」の画像 : ハムスター速報

 

 

◾浦地正宗(うらちまさむね)

管理局対策室室長。32歳前後。

彼は、信念を持って咲良田の能力を無くそうとしている。

能力は弱い人間の救いにはならない。反対だ。能力を正しく運用できるほど、人間は強くない。

弱い人間を守るために、能力はなくしてしまうべきだ。

 

🐱彼は、自分自身が傲慢であることに気が付いていない。彼が独断で能力の是非を判断する権限はどこにもないのである。単に、彼は自身が正しいと信じこんでいるだけである。

🐱能力について、本書では自動車(つまり、テクノロジー)を例えに使っているが、何でも当てはまる。原子力エネルギーでもよいし、遺伝子組み換え技術でもよいし、民主主義でもよい。また、才能や美貌でもよい。能力をお金に例えるとより分かりやすい。咲良田の能力の問題は、これらの問題と本質的に同等である。この世界は、本来不公平なものなのである。

🐱この問題は青春小説の普遍的なテーマなので、高校時代にじっくりと考えたことを思い出した。彼は明らかに間違っている。弱者を守るために能力を無くすということは思考停止に他ならない。必要なのは他者を思いやる想像力と寛容の精神である。中野智樹の言っていることが実は正解なのだ。

🐱人類は愚かな一面もあるが、知性と理性によってこれまで幾多の問題を乗り越えて来たことを忘れてはならない。この小説は、それくらい重要なテーマを内包している。

 

それはまるで寓話的な悲劇のようだ。能力は残酷だ。幸せを望む気持ちから生まれながら、やがて不幸の原因になるのだから。自然で平穏な願望によって訪れる不幸は、きっと人が本質的に抱える矛盾で、能力はその矛盾を浮き彫りにする。

 

🐱「能力」が不幸を生み出すのではない。人間が不幸を生み出すのだ。従って、「能力」の有無は人間の幸不幸とは関係ない。また、人間は不幸だけを生み出している訳でもない。人間や人間の作るシステムは複雑であるが故に常に矛盾を内包するというだけのことである。

 

 

◾索引さん(さくいんさん)

管理局局員。浦地の部下。二十代の女性。色で感情を見分ける能力を持つので彼女には嘘をつけない。人間嘘発見機。

 

🐱彼女は消極的に浦地を支持している。彼女のような人間が消極的に戦争を支持することによって戦争が始まったりすることは、歴史が証明している。彼女の能力も彼女の消極的な性格を象徴しているように思われる。

 

 

◾加賀屋(かがや)

管理局局員。35歳前後の男性。右手で触れた対象にロックをかける能力を持つ。左手で触れるとロックが解除される。

 

🐱彼は『サクラダリセット2』から脇役として登場しているが、彼の能力がこんなに便利なものとは思い付かなかった。彼は思ったよりも重要な存在だった。やられたという感じ。

 

 

◾津島信太郎(つしましんたろう)

芦原橋高校教師兼管理局局員。男性。特別な「能力」を持たない。

 

🐱彼は浅井ケイの

「どうして咲良田の能力だけが問題なんですか?」

という言葉に対して、

「なんとなく、ずるい気がするからだよ」

と、答えている。これについて、「なんの論理性もなくて、だからなによりも正しい」としているが、前述の通り全く正しくない。能力の強さは問題ではない。

😾こういう「駄目なものは駄目だ」式の論理的ではないが有無を言わせない言葉は、教師が生徒に対してよく使う言葉である。こういうことを言う教師は、生徒から思い切り軽蔑されるものだが、浅井ケイは少し甘いと思う。ここは、

「ずるいのは先生の方ですね」

くらいの返しはしたいところだ。

😾この小説の登場人物の中で彼だけは許しがたい。彼のような人間は大嫌いである。世の中を台無しにするのは、むしろ津島のような事なかれ主義の人間である。

 

 

◾宇川沙々音(うかわささね)

女子大生。管理局の協力者。世界を変化させる能力を持つ。正義の味方。それ故に融通が利かない。

 

 

◾岡絵里(おかえり)

浅井ケイの後輩。中学三年生女子。管理局の協力者。記憶を操作する能力を持つ。

 

🐱彼女は自分に素直じゃないところが中学生らしい。

 

 

非通知くん(ひつうちくん)

管理局の協力者。情報を食糧にして生きている。極度の潔癖性。

 

🐱彼の能力もここで意味を持つとは思わなかった。緻密に構成された小説だと感心した。

 

 

 

🔘サクラダ・リセット

🐱今作は、浦地の思惑通りに咲良田の能力が、浅井ケイの記憶保持能力を除いて全て「リセット」されたところで終わる。ここから浅井ケイがいかにして逆転するのか考えてみたのだが、ちょっと思い付かなかった。春埼美空のリセット能力を使ってリセットするとしてどういう展開に持っていくのか、次作を読むまでにもう少し考えてみたい。

 

 

 

少年と少女と、 サクラダリセット6 (角川文庫)

少年と少女と、 サクラダリセット6 (角川文庫)

 

 

 


f:id:morifumikirikita319:20170312094227j:image

🐱本書に出てくる楽曲が現実に存在するのか分からなかったのですが、馬鹿みたいにストレートに愛を叫ぶ歌で思い出したのは、この曲でした。オリジナルは、ミディアムテンポのバラードですが、アップテンポにアレンジします。

 

 

📄この記事の続き

🔘『少年と少女と正しさを巡る物語/サクラダリセット7』あらすじと感想(1) - 森の踏切番日記

🔘『少年と少女と正しさを巡る物語/サクラダリセット7』あらすじと感想(2) - 森の踏切番日記

 

📄関連日記

🐱『猫と幽霊と日曜の革命/サクラダリセット1』の時間の流れのまとめ - 森の踏切番日記

 

 

 


f:id:morifumikirikita319:20170312125811j:image

“The Rain Song” by Led Zeppelin 

🐱雨の日の歌ということで思い出したのが、この曲でした。🐥