3月の読書録06ーーーーーーー
自己組織化とは何か
都甲潔・江崎秀・林健司
1703-06★★★☆
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「自己組織化」という現象は日常でも見られるありふれた現象なのだが、本書の「はじめに」では例として、雪の結晶、ミョウバンAlK(SO4)2・12H2Oの結晶、シャボン玉の膜を挙げて、「ランダムから秩序へ、またはミクロからマクロへと自分で組み上がってしまう現象」のことを「自己組織化」と呼ぶと説明している。
本書の目的は、「この自己組織化が、どういうところで起こり、なぜ起こるのか、つまり、一体どういう現象であるのかを見る」ことであるという。
本書では、まずこの自己組織化現象の性質とその応用について解説し、自己組織化現象のしくみについても数学的に説明している。
次に、生体系における自己組織化現象についての説明がある。本書のサブタイトルは「生物の形やリズムが生まれる原理を探る」となっていて、自己組織化の一側面であるパターンやリズムが生体系でどのように現れるのか解説されている。
また、自己組織化とカオスが複雑系を構築する重要な概念だということで、複雑系についての簡単な解説がなされている。
最後に、分子素子やマイクロマシンなどの今世紀を代表する機能素子を取り上げ、自己組織化現象の工学的応用を紹介している。これが、本書の最大の特徴となっている。
全体的に専門的な用語が多用され、やや難解な印象を受ける。取り上げられる分野も多岐にわたっており、幅広い基礎知識が求められる。一般向けというよりは工学部の学生向けという感じである。本書が刊行されてから既に17年余りが経過しているので、この分野の研究も進展しているが、基本的な部分は今でも役に立つと思う。以下、各章の内容を簡単にメモしておこうと思う。
シャボン玉の構造
引用元:城先生と寺尾先生の知って得するかも? 健康・化学まめ知識 化学編 : シャボン玉はなぜできる?(界面活性剤の話 その1)
※石鹸の親水基(丸い部分)が水を取り囲み二重の膜構造になっている。球になるのは、その形がエネルギーが最小だから。
第1章・自己組織化とはなんだろうか
◾自然界の多くの現象は秩序からランダムへと向かう。これは、「自然界では、秩序よりランダムの状態の方が確率的に実現しやすい」という大原則にもとづいているからである。ところが、自然界は決して秩序からランダムへ向かうだけではない。それが自己組織化である。
◾自分で勝手に作りあがってしまう現象が「自己組織化」であり、ここでの「自己」とは、「構成要素とその結果でき上がる秩序ある構造」と解釈するとよい。
◾細胞の生体膜(細胞膜)は自己組織化の典型的な例。生体膜は、脂質二分子膜とタンパク質から作られている。
◾生体膜は自分で勝手に作り上がるが、出来上がった神経細胞の膜では興奮現象が起こる。神経細胞の興奮は、系が非平衡だからこそ起こる。
◾「自己組織化」には平衡系で生じる場合と非平衡系で生じる場合がある。
◾非平衡系である生命はエントロピー増大の法則に従う必要は無い。
◾脂質二分子膜のような要素が互いに相互作用しあう平衡系では、要素間の力(内部エネルギー)とエントロピーの兼ね合いで系の状態が決まる。これは温度に強く依存する。温度が高いとエントロピーが勝ってランダム方向へ、温度が低いと内部エネルギーが勝って秩序の方向へ向かう。
◾「相転移」は、たとえ個々の相互作用は弱くても要素が集まると大きな力になることを意味しており、「協同現象」の典型例でもある。
◾協同現象とは、「非線形」のもたらす現象に他ならない。
平衡系で生じる自己組織化の例
◾脂質分子は水溶液中で自発的に集まって脂質二分子膜(多重層膜)からなる球を自発的に作る。これに適当な処理を施すと単層膜で赤血球形のリポソームができる。
◾リポソームには時間とともに形を変える性質がある。特殊な分子を使ったリポソームでは条件によりらせん構造を作り上げる。
◾リポソームは細胞とよく似ているので薬物送達システム(DDS:Drug Delivery System)への応用が考えられる。
◾生体の材料を用いたり生体の仕組みをまねした技術をバイオミメティック・テクノロジーという。バイオミメティックとは「生体模倣」という意味である。
◾同じように高分子を用いて作った小胞をマイクロカプセルと呼ぶ。大きさは数ミリ㍍から数ナノ㍍。芯となる物質を微粒子化して、それを被膜することで作ることができるが、化学的方法、物理的方法、物理化学的方法がある。
リポソームの構造
※リポソームはシャボン玉とは逆に親水基が膜の外側になる。
🐱リポソームを検索すると、化粧水とビタミンCのサプリがやたら出てくる。化粧水は多重層膜のリポソームを利用しているらしい。ビタミンCのサプリはビタミンCをリポソーム化しているらしい。
人工イクラの作り方
◾上の化学的方法のひとつに不溶化反応法というのがある。例えば、アルギン酸ナトリウムの水溶液中に芯物質を分散させる。この分散液を塩化カルシウム溶液に小滴状で滴下すると、小滴の表面でナトリウムがカルシウムに置き換わり、小滴の表面が水に不溶のアルギン酸カルシウムの膜で覆われる。人工イクラはこの方法で作られていて、上質のサラダ油滴を調味料や香料を含む水溶性のゾルで包んだものが芯になっている。
人工イクラ
人工細胞の可能性
◾マイクロカプセルの応用として人工細胞が考えられる。
◾デンドリマー(dendrimer)という自己組織化能を持つ高分子の人工細胞への応用も研究されている。
◾脂質高分子モザイク膜の研究も盛んである。
デンドリマーの構造
味覚センサー
◾バイオミメティック・テクノロジーの典型例。味認識装置。
◾化学物質の持つ情報を電気的変化に変える脂質高分子モザイク膜の応用。自己修復能を持つ。まさに、人工味細胞膜。
まとめ
「自己組織化」とは「ランダムになろうとする力に、秩序化しようとする力が打ち勝つこと」
🐱 この章は、話が時々脱線して冗長な印象がした。脱線した話(イクラとか)の方は分かりやすくて面白いが、本題の方はやや難解。章末のまとめは分かりやすいと思った。
第2章・自己組織化現象のしくみ
非平衡系における自己組織化現象には、均等な状態からリズムやパターンが生まれる、という共通の特徴がある。リズムやパターンのない状態からそれがある状態へと「移り変わる」のである。そのしくみを考えるには、時間の流れを無視することはできない。
◾「自己組織化」は、遺伝子とともに生命を語るべき重要な側面。
◾神経細胞のリズムを「自励発振」ともいう。
◾電気回路によって神経の機能に似せた発振回路を作ることもできる。BVP発振回路。
◾ベルソフ・ジャボチンスキー(BZ)反応。溶液の色が一定の時間間隔で赤と青に繰り返し変化する。
◾安定なリズムが現れるためには、非線形の性質が含まれていなければならない(微分方程式)。
◾BZ反応のパターン形成。
非線形の反応と物質の拡散が手を組んで、はじめてパターンが生じる。
🐱この章は非線形科学の基本的な解説だが少し分かりにくかった。リズムは時間的に繰り返される現象で、パターンは空間的なものです。BZ反応については、『非線形科学』メモ(2) - 森の踏切番日記に画像と動画があります。メトロノームの同期とホタルの同期の動画もあります。
🔘『自己組織化とは何か』を読む(2) - 森の踏切番日記に続く
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