森の踏切番日記

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『少年と少女と正しさを巡る物語/サクラダリセット7』あらすじと感想(2)

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🔘『少年と少女と正しさを巡る物語/サクラダリセット7』あらすじと感想(1) - 森の踏切番日記からの続き

 

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10月22日(日)/2回目

午後7時 浅井ケイは春埼美空を抱きしめた。

「どうやら、リセットしたみたいだね」

 ケイは春埼にリセットによって失われた3日間の出来事を語り、咲良田の能力を守る決意を伝える。

「願いが叶って、誰もかもみんなが幸せで、悪魔さえそれを祝福する。それが僕の望む結末だよ」

 

 

🐱ここでのケイと春埼との会話で本シリーズの主題が語られている。それは、とても単純なことだけど、とても難しい願いだ。

🐱智樹の能力はリセットの影響を受けないから、この後、ケイに相麻の声が届いたはずだが、ケイはどういう気持ちで相麻の声を聞いたのだろうか。この後も、リセット前と同じ時間に相麻の声はケイに届いているはずだ。

 

 

午後7時15分 相麻菫

──どうやら、リセットしたみたいね。

相麻は、浦地と待ち合わせるはずの喫茶店とは反対の方向に向かう。

──私が浦地正宗に捕まってはならない

相麻に監視を付けていた浦地は、相麻の行動からリセットされたことに気づき相麻を追う。

 

午後7時37分11秒 河原のテトラポットに坂上央介を呼び出したケイは、春埼と智樹とともに佐々野の写真を破り、写真の中の景色に入り、写真の中の相麻菫と再会する。

「待っていたわ、ケイ」

ここまでは、相麻菫のシナリオ通りに進行している。坂上の能力によって相麻の未来視能力をコピーしてもらったケイは、相麻菫の未来を調べる。

 

 

🐱ケイは、10分間で消えてしまう少女を生み出すことは残酷なことだと云うが、本来写真の中の世界は仮想現実であって、写真の中の相麻は能力を使って外へ連れ出さない限り実体を持たないので、考え過ぎではないかと思う。この優しすぎる性格が彼の特徴なのだが、度が過ぎると欠点になりかねない危うさを持っている。

🐱相麻は、そんなケイを通して見た未来について、「その世界は、他の誰のものよりも優しくて、悲しくて、綺麗だった」と言う。 

 

 

◾一方、8月30日に再生された相麻菫の方は、7階建てのビルの非常階段を上りきり浦地に追いつめられる。ケイの迷惑にならないため飛び降りようとしたその時、ケイの声が届く。

▶ケイは、未来視を繰り返し相麻が助かる未来を探る。

▶ケイの指示で5分間時間稼ぎをした後、相麻はビルの7階から飛び降りる。下にはケイから連絡を受けた村瀬が待ち受けていて相麻を受け止める。

▶相麻菫が助かる未来を見つけ出したケイは、時間の許す限り最適解を探る。10分間がたち、写真の中の相麻菫は消えてしまう。

 

 

🐱本書の中で好きなケイの言葉は、春埼から好きな言葉を聞かれた時の答え。

「青かな。深い、深い青。あるいは透明みたいな水色。どちらも同じくらい好きだよ」

河野裕の作品は、何気ないフレーズが気が利いていて、そこが気に入っている。

 

 

10月23日(月)/2回目

午前9時 ケイは岡絵里を説得してとあるカラオケボックスに連れて行く。カラオケボックスの305号室には、春埼、智樹、村瀬、坂上、宇川が待っていた。

「では始めましょう」

「いったいなにを?」

「咲良田の未来を決める会議を」

というのは、嘘だ。

これから始まるのは、咲良田の未来を、ケイが望む方向へと誘導するための会議だ。

 

 

🐱ケイは、未来視能力に耐えられる相麻は強いと言うが、全てを忘れない記憶保持能力に耐えられるケイも強いと思う。人間にとって「忘れる」ということも重要な能力なのだ。それがなければ、人間の「心」は耐えきることが出来ずに壊れてしまう。ケイの能力は、実は「忘れる」ことを忘れる能力なのだ。だから、ケイの能力は「悲しい」能力なのだと思う。ケイが相麻を忘れたいと思ったのは自然なことなのだが、それでも忘れられないのは彼の優しさであり、「優しさ」というのは強さでも弱さでもない。

🐱胸の真ん中にある名前のみつからない何かは、やはり「心」だろう。人間の身体を分解して細胞の一つ一つを調べても人間が分からないのと同じで、「心」を個々の感情や意思に分けて還元論的に分析しても「心」は分からない。「心」は、それらの要素から創発的に生みだされる。だから意味が広すぎるように思われるだけで「心」は「心」なのだ。身体にも脳や心臓など芯となる部分があるように「心」にも芯となる部分があるはずで、それが胸の真ん中にある何かなのだろう。

😸その「心」の芯の中にも核となるものがあるはずで、その核の中にも… あれ?

🐱岡絵里が聴いていた曲はすぐに分かった。ビートルズがカバーしたことでも有名な、チャック・ベリーの『ロール・オーバー・ベートーヴェン』だ。第6巻では、ドアーズも出てきたし、著者は古い曲が好きなのかな。

 

 

午前9時30分 起きるはずの能力暴発による交通事故が発生しなかったことを確認した浦地正宗は、ケイに電話をかける。

電話を受けたケイは、浦地に会って話をしようと提案する。

──浦地正宗を、僕の味方にする。

それが目的だ。

浦地はケイの提案を受け入れる。

 

午前11時 約束の時間に浦地が、索引さん、加賀谷とともにカラオケボックスに現れる。智樹が304号室に案内する。会談は物別れに終わるが、これは予定されたことで、宇川の能力を使って浦地を拉致、誘拐する。浦地が拉致された車の運転席には事情を知らない津島信太郎がいて、助手席には智樹が乗り込んでいた。浦地の正体を知った津島は驚くが、ケイに協力することになる。

「それでは、始めましょう」

これから、本当の説得を始めようと思う。

宇川、村瀬、岡、坂上の4人は無事に逃亡する。春埼は、カラオケボックスに残り、索引さんと加賀谷に対峙する。ケイは、浦地の説得を続ける。助手席の智樹は、静かに目を閉じている。

 

 

🐱ケイが、どうやって問題を解決するのか、展開が読めなかったのだが、まさか話し合いという正攻法で来るとは思わなかった。しかし、よく考えれば、暴力的な事が嫌いなケイがとる手段は他にないのだ。

🐱ケイは、頑なな浦地を説得できなかったのだが、浦地が能力を悪とする考えには理屈ではない部分があるから、説得するのは難しいだろう。人を説得するというのは、本当に難しい。だから、手っ取り早く力ずくで行きたがるものなのだ。

人は、わかり合いたいけれど、でもわかり合えないことだってある。

🐱システムについては難しい話なのだが、個々の要素(管理局員)からすれば、「独裁的」でないシステムは存在しないと思う。管理局が閉じたシステムなのが問題なのだ。閉じたシステムはエラーに対処できない。システムは常に開かれなければならないということなのだと思う。

🐱本書の中で好きな浦地の言葉。

「友人を作るコツは、とにかくこちらが、相手を友人なのだと信じ込むことだよ。相手の都合なんて考えずにね」

🐱本書の中で好きな宇川の言葉。

「殴られても抵抗しないのが善人で、殴られれば殴り返すのが正義の味方だ」

「怯えながら前に進むのが、勇気だよ」

🐱春埼にあるのは、「愛と信頼」だけで「勇気」ではない、という宇川の言葉も印象的。相麻も同様だろう。

🐱能力については、既に書いたことがあるけれども、この物語世界では自然にあるものなので、自然にあるものは自然に受け入れるしかない。

🐱自然に善悪正邪は無い。人間が勝手にそれを決めているに過ぎない。善悪正邪には絶対的な基準がないので、人によって、民族によって、国によって、文化によって、宗教によって、基準が異なる。それが問題の難しさなのだ。

🐱ケイは、「正しさ」を、「誰もが幸せになること、一つでも多くの涙を消すこと」と定義しているようだ。そして、ケイは、常に正しくあろうとする。もちろん、全ての人が幸せになり、全ての涙を消すことは、現実的にはほとんど不可能なことだろう。ケイは、それを十分に理解している。理解した上で「正しさ」を目指そうとする。

🐱ケイの言っていることは、理想主義的で、とても青臭く聞こえる。けれども、少年少女が夢や理想を語れなくてどうするという話である。人類が夢や理想を語れなくなったらおしまいだと思う。だから、この馬鹿みたいに理想を目指すケイを支持したい。

 

 

午前11時30分 

春埼美空は告げる。

「浦地正宗よりも貴方なのだと、ケイは判断しました」

実は、ケイは浦地を説得すると見せかけて、智樹の能力を使って加賀谷を説得していたのだ。春埼は、加賀谷に決断を迫る。加賀谷は、ケイを支持すると、ケイに電話で伝える。

「私はどこで間違えた?」 

 

 

🐱結局、本シリーズのキーパーソンは加賀谷だった、という構成にはやられた。外堀を埋めるという作戦なのだが、こういうのは、なかなか思いつけない。

 

 

午後4時30分 浦地から逃れるため、一時的に咲良田を離れていた相麻は、電車で咲良田に戻る。咲良田を離れると、人は能力のことを忘れてしまうのだが、咲良田の領域に戻ると能力のことを思い出す。相麻は自分自身の記憶に耐えきれずに意識を失う。彼女の心は既に限界を超えていたのだ。

午後5時 春埼美空は、野ノ尾盛夏を訪ねて山の中腹にある社にいた。春埼は盛夏にケイの計画に協力して欲しいと説得する。ケイから連絡が入り、春埼は相麻が片桐穂乃歌のいる病院に収容されたことを知る。

 

 

🐱繰り返しになるけど、絶対的な「正しさ」というものは存在しない。だから、矛盾するようだが、「正しさ」には、何らかの間違いが含まれているものなのだ。

🐱「純粋」であることは、何か素晴らしいことであるかように思われがちだけれども、「純粋さ」は、不寛容の精神に繋がり排除の論理に繋がりかねないので危険なのだ。「純粋」というのは不自然な状態だと思う。「純粋」な神様は信用できない。

 

 

午後6時 春埼、病院に到着。ケイと合流。春埼は、坂上の能力を使ってケイと出会ってからのすべてを思い出させてもらう。

 

 

🐱階段島シリーズと合わせて考えると、著者は「ヒーロー」という言葉を意識しているようだ。そして、正義の味方とヒーローは別物だと考えているようだ。正義の味方は、己の正義の為に戦う存在であり、ヒーローは、誰かのために闘う、というところだろうか。大人になっても、正義の味方になりたがる人はいるし、ヒーローになりたがる人もいるものだ。

🐱結局のところ、愛することは信じることなのね。でも、盲目的に信じるのと深い理解の上で信じるのでは、意味が違うということなのね。春埼が、すべてを思い出したいというのは、儀式に過ぎないと思う。ケイを理解したいと思う気持ちが大切なのだ。たとえ愛する人でも、他者を理解するということは難しいことだし、常に誤解を含むものだ。しかし、そういう部分も含めて他者を受け入れるということが、信じるということであり、愛するということなのだ。

🐱恋愛にも段階があって、相手を一方的に想うというのは幼い恋愛といえよう。その段階の恋愛は、自己完結的で本当に相手のことを想ってはいないのだ。いわゆる、恋に恋する状態なのだ。春埼は、大人の階段を一段上ったということかな。春埼は、ケイが変わらないことを望んでいたと言うが、本当は、自分が変わることを恐れていたと考えることもできる。

😽恋愛は、単なる心の病気なのよ!

🙀すみません。言ってみたかっただけです。

🐱坂上クンは、普通だ。彼の能力は、素敵だと思う。彼がいなければ、この話は成り立たない。この小説の良いところは、そういう所にもあると思う。

🐱そんな坂上クンを含めて、これまでに登場した能力者の能力を上手く組み合わせて問題を解決させる手腕は、全く素晴らしかった。本シリーズの魅力の一つは、この緻密な構成にある。どういう手順でプロットを考えたのか興味がある。

 

 

午後6時50分 ケイと春埼は意識を失った相麻に会うために穂乃歌の夢の中の世界に入る。

午後7時15分「セーブ」

▶ケイ、部屋に入り一人で相麻と会う。

▶春埼、部屋に入り一人で相麻と会う。

▶相麻が夢の世界から戻ると、ケイが先に目を覚ましていた。相麻、先に退室。

▶春埼、夢の世界から戻る。

 

 

🐱相麻菫は、強くもあり弱くもあり、賢明でもあり愚かでもある。でもやっぱり、14歳の女の子なのだ。一人の男の子を大好きになって、それが報われない恋だと分かって、それでも彼の幸せを願う、健気な女の子なのだ。彼女の場合は、一方的な想いで自己完結的と言える。だから、結果的にケイを傷つけることになったのだ。最後にちょっと自分の運命に抵抗してみせるところが可愛らしいと思う。

「貴女は、本当に、ケイのことだけを思っているのですね」

🐱再生した相麻菫が、浅井ケイを愛するのは、彼女が二年前に死んだ相麻菫と同等の存在であるということもあるが、「彼だけが、私のことを理解している」という信頼が最も大きいと思う。浅井ケイの存在だけが、アイデンティティを持たない彼女の救いとなるのだ。だから、彼女はケイに問うのだ。

「お願い、ケイ。私の名前を呼んで」

🐱春埼と相麻は、十五年後くらいには、大親友になっているような気がする。

🐱この「神さまになりたい」少年は、他者を傷つけることを極端に恐れるくせに、肉体的にも精神的にも自らが傷つくことを厭わない。そこに、神とはどうあるべきかという著者の思想がこめられていると思う。

 

 

🐱著者は、「新装版あとがき」で本シリーズについて、

本シリーズはある見方をすれば、神さまに憧れた少年が、神さまになれないまま自分自身の理想を目指す決意を固める物語です。別の見方をすれば、かつて髪を切った少女が、また髪を伸ばし始めるまでの物語です。さらに別の見方をすれば、少年のために嘘をついた少女が、「あの言葉は嘘だったんだよ」と伝えるまでの物語です。

としている。つまり、これは少年少女の成長の物語であり、特別な話ではないということだろう。これは、普遍的なテーマの青春小説なのだ。もし、十代の頃に本シリーズと出会っていたら、きっと何度も読み返したことだろう。

🐱本シリーズの最初の一行は、

伝言が好きなの、と、女の子は言った。

だった。相麻菫がケイに向かって、

「本当は、伝言なんて大嫌い。これからは、ケイ。私の声を聞いて」

と、言ったとき、ようやく相麻菫は、本来の相麻菫になれたのだろう。ずっと無理をしていたのだ。だが、この相麻菫は、二年前の相麻菫とは物理的には別の存在なので、新しい相麻菫が生まれたと言った方がよいかもしれない。まったく、ややこしい話だ。

🐱この先、これらの少年少女がどのように成長していくのか、興味がある。それは、続編を期待するという意味ではなくて、著者の今後の作家人生におけるテーマとして、彼らの「それから」をどのように描いていくのか興味があるという意味である。著者には、そういう作品を書いて欲しいと希望する。

 

 

🐱随分長くなってしまった。やはり、取り留めない変な感想になってしまった。読み落としたことがあるかも知れないが、このくらいにしておこう。疲れたので、キットカットでも食べよう。なんだか、スピッツの古い曲が聴きたくなった。🐥

 

 

 

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