森の踏切番日記

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森見登美彦『夜行』の感想 ~ただ一度きりの朝を求めて

7月の読書録01ーーーーーーー

 夜行

 森見登美彦

 小学館(2016/10/30)

 ★★★☆

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TVアニメ『有頂天家族2』が終わって、森見作品を何か読みたくなったのだが、文庫化された作品で読んでいないのは『恋文の技術』くらいしか残っていないので、まだ文庫化されていない本作を読むことにした。

 

著者によると「夜行」とは「夜行列車の夜行であるかも知れず、百鬼夜行の夜行であるかもしれぬ」のだそうだ。

 

本作は『きつねのはなし』や『宵山万華鏡』に近い雰囲気がある。現実と異界との境界が滲んで曖昧になった部分に現れる魔境を物語る小説である。

 

宵山万華鏡』に登場した柳画廊が本作でも重要な役割を果たす。柳さんも脇役で登場する。『宵山万華鏡』が刊行された頃、本作の連載が始まっているので、二つの作品は繋がっているのかもしれない。

 

鞍馬の火祭を見に行ったことはないが、深夜の貴船神社に肝試しに行ったことがある。昔は夜型の生活をしていて、よく「夜の冒険」をしたものだ。昼夜逆転の生活を続けていて、いつまでも夜が続いているような錯覚にとらわれたこともある。そんなことを思い出した。

 

夜行列車というと旅愁を感じさせる。本作には、夜行列車から見える様々な風景が描写されているが、特に越後湯沢の雪景色の中で静かに燃える家と天竜峡の暗闇に浮かび上がる満開の桜が印象的だった。どちらも実際に見たことがあるような気がする程はっきりとイメージできる。前者は川端康成の『雪国』の情景と重なる。後者は梶井基次郎を連想させる。表紙のイラストにもなっている尾道の坂の上から見下ろす夜行列車も印象的である。

 

夜の叡山電車も趣がある。学生時代のことだが、出町柳から叡山電車の最終に乗ったとき、ホームはガランとしていて列車の中には女性がポツンと一人だけ俯いて座っていたことがあった。その女性は、ほっそりとしていて髪が長くて顔色が青白くて黒くて丈の長いワンピースを着ていた。なんだか幽霊電車に乗り合わせてしまったような気がしたものだった。そんなことを思い出した。

 

これは昔の話で聞いた話だが、昭和30年頃の叡山電車の路線のある辺りは、一乗寺や修学院も岩倉や幡枝も田畑しかなかったそうだ。写真では見たことがあるが、田んぼしかない中を叡山電車の線路が走っていた。夜になると本当に真っ暗で、その中を明るい叡山電車がゴトゴトと走っていたのだそうだ。夜の底を走る夜行列車というと、この叡山電車を思い描く。

 

「世界はつねに夜なのよ」

 

夜型の生活をしていた頃、夜明け前に散歩をするのも好きだった。白み始める空。新しい空気。誰もいない道路。点滅する信号機。世界が終わったようなこれから始まるような静寂。そんな風景を思い出した。

 

 

春風の花を散らすと見る夢は
さめても胸の騒ぐなりけり      西行

 

 

 

夜行

夜行

 

 

 

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