9月の読書録02ーーーーーーー
日本列島100万年史 大地に刻まれた壮大な物語 (ブルーバックス)
- 作者: 山崎晴雄,久保純子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2017/01/18
- メディア: 新書
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🐱近畿三角帯と阪神淡路大震災の話 『日本列島100万年史』を読む(4)近畿 - 森の踏切番日記の続き
第7章 中国・四国
西南日本の地質構造
出典:大鹿村中央構造線博物館subindex03中央構造線ってなに?
1.西南日本と南海トラフ
◾西南日本の顕著な地質構造は、「中央構造線」と呼ばれる大構造線である。これは、地質が大きく異なる境界の断層線で、プレートの沈み込み境界である南海トラフの北側200~250キロメートルのところを、南海トラフと平行に東西方向に走っている。この構造線を境にして、海溝側(南側)は「西南日本外帯」、大陸側(北側)は「西南日本内帯」と呼ばれる。
➡南海トラフは、陸に近接しているため陸側からの物質の供給が多く、堆積物に埋められて浅くなっている。そのため、深さは海溝よりも浅い4000㍍級となっている。
➡フィリピン海プレートは四国に対して西北西に斜めに沈み込んでいるため、中央構造線より南の岩盤はそれに引きずられて西へ、北側の岩盤は相対的に東へ動く。そのため中央構造線は「横ずれ断層」(右横ずれ)として活動する。
(同じような断層にインドネシアのスマトラ島のスマトラ断層などがある)
◾西南日本外帯では、押しつけられた付加体の跡が、帯状の地質構造になったと考えられる。これらの地質帯を海洋プレート側から、「四万十帯」「秩父帯」「三波川(さんばがわ)帯」と呼ぶ。
◽四万十帯は、白亜紀末から第三紀(1億4500万年前~260万年前)の間に大陸の縁に作られた付加体である。
◽秩父帯は、ジュラ紀(2億年前~1億4500万年前)の間に作られた付加体である。
◽三波川帯は、古生代から中生代ジュラ紀(5億5000万年前~2億年前)の間に作られた付加体の堆積岩が、白亜紀に変成作用を受けてできた岩石(変成岩)で形成されている。
※堆積岩や火山岩が高温や高圧を受けて化学反応によりできる岩石を変成岩という。三波川帯は比較的低温で高圧を受けてできた。
◾一方、西南日本内帯では、中央構造線のすぐ北に「領家帯」がある。これは三波川帯と同様に変成岩でできているが、三波川帯とは異なり、白亜紀にマグマから作られた花崗岩が地下深くまで運ばれ、高温変成を受け、再び隆起して地表に現れたものである。
➡さらに北には、「美濃─丹波帯」「舞鶴帯」「秋吉帯」「三郡帯」「隠岐帯」など、三波川帯よりも古い、古生代から中生代の堆積岩や、それが変成されてできた変成岩からなる地質帯が分布する。
※恐竜などの中生代以前の古生物化石は、これらの地質帯の堆積岩中から発見される。
➡これらは、日本列島がまだユーラシア大陸の一部だったとき、その沖合で海洋プレートが沈み込むことで形成されたものである。
➡西南日本の南北地形断面を見てみると、中国山地よりも外帯山地の四国山地の方が高いことが分かる。
(「ブラタモリ」ファンの必読書? 『日本列島100万年史』を読む(1)日本列島の成り立ち - 森の踏切番日記を参照のこと)
(震源は、赤い方が浅く青い方が深い)
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
※フィリピン海プレートは四国に対して西北西に斜めに沈み込んでいる
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
※南海トラフは、土佐海盆から駿河湾までそれぞれ140km~180kmほどの5つの区間に分けられる。(プラス日向海盆で6区間)
◾過去の南海トラフ地震の記録から、南海トラフのある区間で地震が発生すると、隣接する区間でも連動して大地震が発生することが分かっている。
➡連動する際のタイムラグは、ほぼ同時の場合もあれば、1日後、1週間後、場合によっては数年後となることもある。
➡この時間差で隣接する区間に巨大地震が発生し、最終的に南海トラフ全体にわたって地震が起こる。
➡このような活動がおよそ100年ごとに繰り返されてきた。
※1854年の安政東海地震(熊野海盆~駿河湾までの区間が動いた)の翌日に安政南海地震(土佐海盆・室戸海盆の区間が動いた)が発生した。
※1944年の昭和東南海地震(熊野海盆・遠州海盆の区間が動いた)の時は、2年後の1946年に昭和南海地震(土佐海盆・室戸海盆の区間が動いた)が発生した。
◽将来、南海トラフでマグニチュード8クラスの地震が起きるのは、2045年あたりになると考えられるが、発生間隔に大きなばらつきがあるために、早くなるかも知れないし遅くなるかも知れない。
🐱2011年3月11日は、夕方、ラジオのFM放送をつけるまで地震があったことに気がつかなかった。あんな地震が起きるとは思いもよらなかった。この日が金曜日だったことだけは、何故か今でも憶えている。
◾この東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、専門家にとっても想定外の地震だった。この大震災をきっかけに、次に来るかもしれない「南海トラフ地震」では、想定外をなくすために、マグニチュード9の地震が起きることを想定し、対策が進められている。
➡南海トラフ地震の被害が最大になるのは、南海トラフのすべての区間が同時に動いたケース。その場合に起きる超巨大地震を想定して、浸水域の想定拡大や避難対策、防潮堤のかさ上げなどさまざまな対策が講じられている。
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
東北地方太平洋沖地震における地殻変動(上下方向)
※青色が濃いほど沈降の度合いが大きい。
◽太平洋側、上から八戸0.5、岩泉15.0、山田48.4、岩手川崎28.1、牡鹿107.6、相馬30.5、いわき35.5、北茨城44.4、銚子14.8(単位cm)の沈降となっている。
◽八戸の北から秋田県、山形県を通る等量線が±0のラインで、八戸の北、東通が0.9cmの隆起の他、このラインの左側(日本海側)では、ごくわずかに隆起している地域がある。
東北地方太平洋沖地震における地殻変動(水平方向)
◽水平方向にも、震源地に向かって震源地に近いほど大きく移動している。牡鹿の541.9cmを最大に、秋田県、山形県でも1㍍以上移動している。
◽巨大地震発生時に起きる地殻変動による広範囲の海底の隆起や沈降は、津波の発生や、沿岸地域の土地の隆起・沈降という現象として認められる。(上図参照)
➡過去の南海トラフ地震でも沿岸地域が沈降したことが記録されている。太平洋側に突き出た室戸岬や足摺岬では、逆に地盤が激しく隆起したことが分かっている。
➡この岬の隆起は、先端の隆起が最大で内陸に向かって沈降する「傾動」を示す。
➡巨大地震のない通常時には、逆に岬の先端ほど大きく沈降し、内陸ほど隆起する。
➡このことから、通常時はプレートの沈み込みに引きずられて岬の先端部は一緒に沈降し、地震時にはプレート境界断層の活動で、上盤側は切り離されて反発し隆起する地震発生モデルが考えられる。
➡巨大地震によって隆起する量は、通常時に沈降する量よりも大きいため、その差がだんだん累積して岬は長期的に隆起していく。室戸岬では、平均すると1000年に2㍍の速度でこの隆起が起きている。
衛星写真(上が北東になる)
※瀬戸内海は東から、紀伊水道、大阪湾、播磨灘、備讃瀬戸、備後灘、燧灘(ひうちなだ=四国のへこんだ部分)、安芸灘、広島湾、伊予灘、周防灘、と区分される。
2.瀬戸内海と中国地方
◾瀬戸内海は、水深が60㍍よりも浅い海域が大部分を占める。最終氷期で海水面が低かった2万年前には、完全に干上がって陸地となっていた。
➡この時期には、岡山と香川の間の備讃瀬戸付近を最上流として、東西に流れる河川が形成されていた。
◾瀬戸内海の特徴のひとつは、「灘」と呼ばれる比較的広い海域と、「瀬戸」と呼ばれる島が密集した狭い水域が、約50キロメートル間隔で交互に並んでいることである。
➡瀬戸内海が陸地だった時代には、灘は盆地や低地だったところで、瀬戸は川の上流などの高い土地、あるいは渓谷が発達した地域だった。
➡このような地形ができたのは、中央構造線の活動と関連していると考えられる。前述の通り中央構造線より南側の部分は西方に、北側の部分は東方に移動する「右横ずれ」が起きている。
➡この右横ずれにともない、中央構造線より北側の部分に雁行状のシワができた。このシワの盛り上がった部分が瀬戸に、くぼんだ部分が低地である灘になったと考えられる。
(指で腕をつねった感じ)
※本書には、この他に出雲平野の変遷などが紹介されている。
断層の種類
地震は断層運動により発生します
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
第8章 九州
1.九州シラス台地
◾南九州に分布するシラス台地は、大半が鹿児島湾の姶良カルデラから約3万年前に噴出した入戸火砕流によって作られた。
➡南九州は広く火砕流に覆われ、同時に噴出した火山灰(姶良Tn火山灰)は、東は東北地方から太平洋沖に、北は朝鮮半島にまで飛散した。
※姶良Tn火山灰の火山灰層は、九州南部や高知県西部で50cm以上、近畿地方で20~40cmになる。
➡シラス台地は、比較的新しい地形なので浸食がまだそれほど進んでいない。シラス自体浸食されにくい地形であることと二次堆積物によって、平坦面が広く残っている。
※若尊カルデラなど複数のカルデラが複合したものと考えられる。
※約2万6000年前に桜島火山が誕生した。
(参考:姶良カルデラ - Wikipedia)
🌋巨大火砕流をともなうような巨大噴火は、軽石の激しい噴出をともなうプリニアン噴火(プリニー式噴火)で始まることが多い。
➡マグマは爆発性の高い流紋岩質マグマで、ガスと軽石、火山灰の混じった噴出物は柱のように上空に上がっていき「噴煙柱」となる。
➡周辺の空気より高温なので、浮力を得てどんどん上昇する。
➡数千メートルまで上昇すると均衡状態になり留まるが、偏西風に乗って噴出物は東方へ流される。
➡その過程で、噴出物の降下が起こる。軽石な岩片など重いものは火口近くに厚く、火口を離れるにつれて小さく軽いものが薄く積もる。
➡この状態で噴出が弱まると、噴煙柱はどんどん縮小し、比較的小規模な軽石噴火で終息するが、噴煙柱が大きくなりすぎると、自重に耐えきれずに噴煙柱は倒壊もしくは崩壊してしまう。
➡すると噴煙柱を構成していた火山灰や軽石、岩片が地表を高速で流れる。これが、シラスを噴出する巨大火砕流なのである。
➡これにともなって、「火道」(マグマの通り道)の下からの圧力が開放され、マグマが大量に一気に噴き出し、火山の周囲に流れ広がっていく。
(炭酸飲料のペットボトルをよく振って蓋を開けた感じ)
こんな感じw
※1991年の雲仙普賢岳噴火の際の火砕流は、溶岩ドームの一部が崩落して砕けたもの(溶岩崩落型)で、「熱雲」とも呼ばれる。
🌋巨大火砕流が発生すると、地下のマグマはほとんど放出されてマグマ溜まりに空洞ができる。
➡上部の岩盤がその重みで崩落。
➡地表にはカルデラと呼ばれる凹地ができる。
※大きな火口も同様のメカニズムでできる。直径が2km以上のものがカルデラ、それ以下のものは火口と区別しているだけ。
カルデラ完成!!
南九州の火山とカルデラの分布
🌋南九州には、更新世の中期(78万年前)以降にこのようなカルデラが多数形成された。
➡鹿児島の錦江湾は、姶良や阿多北などのカルデラの並びに海水が浸水したものである。カルデラ底の深さは、最深で水深200㍍ほど。カルデラ間は水深100㍍よりも浅くなるところがある。2万年前の最終氷期最盛期には海面が今より120㍍ほど低かったので、当時はカルデラ湖が南北に連なっていたかもしれない。
◽霧島、桜島、池田カルデラ、開聞岳などの活火山は、いずれもカルデラの縁あたりに形成されている。これらの活火山はカルデラ形成後の中央火口丘とされており、火山の一生の最終段階にあるという。
◽地球では、海洋プレートが作り出され沈み込むことによって、常に地殻変動が起きている。この地殻変動によって火山活動が活発化し火砕流活動が集中して発生したり、沈静化したりするのではないかと考えられている。
🌋薩摩半島の南約50キロメートルにある薩摩硫黄島は、深さ400㍍の海中にある巨大な鬼界カルデラの一部で、縄文時代前半の7300年前に起きたカルデラ噴火で形成された。
➡海の中から噴出した数百℃の火砕流は海上を時速100キロメートル以上の高速で渡り、南九州地域一帯を襲った。
➡この巨大噴火で、南九州に住んでいた縄文人はほぼ全滅したと考えられる。
➡それ以降日本列島では、このような巨大噴火は一度も起きていない。我々にとって未知の災害といえる。
➡このような巨大火砕流をともなう巨大噴火は防災の対象になっていない。被害が壊滅的で防ぎようがないからである。
自然には、まだ人類の力では対応できないものがたくさんあることを知っておくべきでしょう。
※1984年のマヨン山(フィリピン・ルソン島)の火砕流。噴煙は上空1万5000㍍まで上がった。
🐱感想
地形は、長い時間をかけてゆっくりと変わりゆくものだけれど、時には一瞬で変わってしまうこともあります。
人間とはスケールが違うので、我々は大地は変わらないものだと、つい思い込んでしまうものです。
地球のスケールの大きさに比べたら人間の営みなどはささやかなものだ、という当たり前のことを改めて感じました。
人の一生は100円にもなりませんからねえ。