森の踏切番日記

読書録など気ままな日記をグダグダやってます

正弦曲線とおっぱいの関係とか多重振り子カオスとかカオス的遍歴とか


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前の記事〈『人類と気候の10万年史』を読む ~奇跡の湖・水月湖の話 - 森の踏切番日記〉で紹介した『人類と気候の10万年史』(中川毅著・講談社ブルーバックス)の中にカオスの説明をしている個所がありまして、カオスの例として二重振り子が出てきたのですが、以前 YouTube で見た動画を思い出したので紹介したいと思います。

 

 

 

 

単振り子


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振り子というと普通は上の図のような単振り子を指します。この図で senθ となっているのは誤植ではなくて、Wikimedia の public domain の画像が何故かポルトガル語だったからです。イタリア語、スペイン語ポルトガル語では、「サイン (sine) 」は「セーノ (seno) 」というそうです。なので、正弦記号は、sin ではなくて、sen となります。従って、「コサイン (cosine) 」も「コセーノ (coseno) 」になります。(イタリア語のウィキペディアでは、正弦は seno ですが、正弦記号は sin を使っていました)

正弦曲線 y=sen(x) と余弦曲線 y=cos(x) のグラフは次のようになります。

 

 

 


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y=sen(x)

 


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y=cos(x)

 

 

すみません、間違えておっぱい曲線の画像を貼ってしまいました。 実を言うと、seno にはイタリア語やスペイン語では「乳房」という意味もあるのです。ということは、イタリアやスペイン語圏の国の数学の授業では、「ワイイコールおっぱいエックス」とか言っているのでしょうかね。x=π のときは「おっぱいパイイコールゼロ」になります。何だか悩ましいです。coseno は「ちいぱい」ぽい気がします。下の方の画像は、∫sen(x)dx という感じもします。全身の曲線がインテグラルっぽいです。何言ってるんだろ。英語の sine には「乳房」という意味はありません。

 

sine や seno の語源は、ラテン語の sinus(シヌス)です。フランス語では、「正弦」の意味にそのまま sinus(シニス)を使っています。sinus - ウィクショナリー日本語版によると、ラテン語の sinus のもともとの意味は「湾曲」です。そこから派生して「くぼみ、へこみ」「湾、入り江」「胸」という意味になったようです。英語の sinus(サイナス)には、「湾曲、入り江、洞」などの意味があります。「乳房」はフランス語では sein 、ポルトガル語では seio ですが、これらも語源はラテン語の sinus です。

 

それでは、何故ラテン語の sinus が「正弦」という意味をもつようになったのかというと、12世紀にクレモナのジェラルドという学者がアラビア語の jayb(弦)の訳に sinus をつけたことによるといいます。

History of trigonometry - Wikipediaによると、このアラビア語の jayb は、サンスクリット語の jīvā(弦)が訛ったものだということです。三角法の概念自体はギリシア(ヘレニズム)からインドを経由してアラビア人に伝わったようです。

話が全然脱線してしまいました。ここから本題に入ります。単振り子に関する教科書的なことは、振り子 - Wikipediaを参照して下さい。

 

 

 

 

二重振り子


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二重振り子は、上の図のように振り子の先にもう一つ振り子を連結した形の振り子です。運動方程式は面倒なので、二重振り子 - Wikipediaを参考にして下さい。この二重振り子を揺らすと、カオスの特徴である非周期的で複雑な運動を観察することができます。そのためカオス理論の入門編として紹介されることの多い実験です。この運動は決定論的ですが数学的に予測することができません。理論的なことは、カオス理論 - Wikipediaを参考にしていただくとして、実際に動画を見てみましょう。YouTubeには二重振り子に関する動画がいろいろありますが、こちらのコンピュータシミュレーションの動画が美しいです。

 

Double Pendulum Chaos Light Writing (computer simulation) 1 - YouTube by Paul Nathan (1′05″)

 

ご覧のように二重振り子の挙動は全く予想できません。しかも、振り子を離す位置を変えただけで動きは全く違ったものになります。上の動画は始点が水平な位置でしたが、次は真上からの場合の動画を見てみましょう。こちらも美しいです。

 

Double Pendulum Chaos Light Writing (computer simulation) 4 - YouTube by Paul Nathan (1′00″)

 

 

三重振り子

カオスの特性の一つに「初期値鋭敏性」があります。初期条件がわずかでも異なると結果が大きく変わってしまうのがカオスなのです。二重振り子も最初の位置を少しだけ変えただけで、その挙動は大きく変わってしまいます。次に、この特性がよくわかる三重振り子の動画を紹介したいと思います。

この動画は、最初の角度を10のマイナス100乗ずつ変えた100パターンを同時再生したものだそうです。つまり、100個の三重振り子を一列に並べて、ごく僅かに最初の位置をずらして一斉に揺らせたところを真横から見ていることになります。始めは変化が見られませんが、1分20秒後に突然カオスがおとずれます。ご覧下さい。

 

剛体3重振り子 - YouTube by So Takamoto (1′41″)

 

ウネウネしてキモいですぅ~。

このようにカオスは、同じ系であっても初期条件がわずかに異なるだけで、時間が経過すると指数関数的にその差が大きくなります。気象のような現実の系を予測する場合、短期的な予測はできても長期的な予測は不可能になるのは、この初期値鋭敏性があるからです。

 

 

四重振り子

さらに、四重振り子の動画もありました。こちらは分かりやすい作りの動画です。

 

【物理エンジン】4重振り子で突然やって来るカオス現象 - YouTube by こーじ (3′49″)

 

 

 

 

カオス的遍歴

『人類と気候の10万年史』には、「カオス的遍歴」という言葉が出てくるのですが、このカオス的遍歴を分かりやすく解説した一般向け解説書は私が知る限りでは、『「複雑系」とは何か』(吉永良正著・講談社現代新書)ぐらいしか見当たりません。そこで、この本に基づいて、私が理解している範囲内で「カオス的遍歴」について説明してみたいと思います。

カオス的特性をもつ複数の系をつなぎ合わせ、それらに局所的な相互作用をもたせたシステムを「結合マップ格子(CML)」といいます。また、大域的な状況に応じてすべての構成要素が相互作用を行うモデルを「大域結合マップ(GCM)」といいます。これは、カオス的振動を行っている要素を複数つなぎ、すべての要素が平均を通して相互作用するようなモデルで、このようなシステムは自然界に無数に存在しています。マップは写像のことです。

このような、カオスを生み出す構成要素をつなげたネットワークを「カオス結合系」といいます。また、「大自由度カオス系」とか「大自由度力学系」といういい方もあるようです。「力学系」は、決定論的な法則に従い時間の経過とともに状態が変化するようなシステムのことです。ここでは、「自由度」は状態変化に影響を与えるパラメータ(媒介変数)の数だと大ざっぱに理解しておきます。カオス理論の有名なローレンツ方程式が3自由度常微分方程式です。大自由度はパラメータがたくさんあると理解しておきます。

 

こうしたカオス結合系の研究からまず明らかになったことは、平均との結合度の大小と構成要素の非線形度の強弱とによって、相空間における系全体のふるまいが、ほぼ次の4つの相に分かれるという事実でした。

  1. 平均との結合度が十分に大きい場合、システムが引き込み現象を起こして、振動の位相が同期する。(コヒーレント相)
  2. 平均との結合度が個々のカオスに比べて十分に小さい場合、システム全体がカオス状態になる。(カオス的な乱雑相)
  3. 平均との結合度が比較的大きい場合、システムは少数の集団(クラスター)に分かれて固定され、それぞれが同期する。(秩序相)
  4. 平均との結合度が比較的小さい場合もクラスターに分かれるが、クラスターの数やその構成要素が固定されず、常に変わり続ける。(部分秩序相)

大自由度カオス系では、時間発展とともに状態が変化して、これらの4つの相が、たとえば[2→3→2→4→2→]のように現れます。この現象を「カオス的遍歴 chaotic itinerancy」と呼びます。

カオス的遍歴とは、大自由度系、すなわち無数の自由度を持つ系でありながら、有効自由度が変遷していくために、いくつかの秩序状態をカオスを経て遍歴する現象と捉えることができる。自由度の低減が秩序の生成を、自由度の増大が秩序の崩壊を意味する──少なくとも観測者の目にはそう映る──以上、カオス的遍歴とはカオスの縁の内部構造を、生成と崩壊のダイナミクスとして捉えた概念だといえるのである。

 (『「複雑系」とは何か』吉永良正

 

『人類と気候の10万年史』には、著者が気候変動のモデルとして「非線形の大域結合系」の実験を行ったグラフが紹介されていますが、「乱雑相」と「安定相」が繰り返されるカオス的遍歴が見られます。乱雑相が(2)に相当し、安定相が(1)に相当するようです。両者の境界はグラフで見ると明瞭です。また、2つの相が切り替わるタイミングに法則性が見られず、事前に予測することは全く不可能だということが重要だとのことです。

気候変動では、氷期は気候が不安定で乱雑相を思わせ、温暖期は安定していて安定相を思わせます。また、氷期と温暖期の境界は急激です。直感レベルでは実験結果と現実の気候変動は「似ている」といえるとのことです。

さらに、このモデルにミランコビッチ・サイクルに相当する周期的な外力を与えて実験すると、系の状態は「安定相」と「周期相」と「乱雑相」の3つのモードを飛び歩くようになります。グラフを見ると、それぞれの相の変わり目は明瞭です。ただし、安定相から周期相への移行だけは、徐々に不安定性が増大していく「前触れ」があるように見えるとのことです。前触れが(3)に相当し、周期相が(4)に相当すると考えればよいでしょうか。

ミランコビッチ理論には3つの周期があるので、それを反映させて外力の周期を変化させて実験した場合、与える外力の周期によって、現れる相の順番が、安定相→周期相だったり、安定相→乱雑相だったりして、一定ではなかったといいます。ただ、安定相が終わりに近づくにつれて不安定性が徐々に拡大する傾向があることは共通していたということです。

もちろん、このような実験がそのまま気候変動の予測に当てはまるわけではないことは、著者も明言しています。一方、この程度の簡単な実験でも、現実の気候変動と質的に似通っていることに強い印象を残したとも書かれています。なかなか興味深い実験だと思いました。

温暖期にある現代は気候が比較的安定しているので短期的には予測しやすい状態にあると言えるそうです。ただ、徐々に気候が不安定化してきているのは気になるところです。また、氷期と温暖期の急激な変化は相転移を思わせるところがあります。そして、その変化がいつやって来るのかは、全く予測できないとのことです。

 

 

📄参考図書

🔘『「複雑系」とは何か』吉永良正著(講談社現代新書

「21世紀の科学」の原点 - 森の踏切番日記

🔘『人類と気候の10万年史』中川毅著(講談社ブルーバックス

『人類と気候の10万年史』を読む ~奇跡の湖・水月湖の話 - 森の踏切番日記