森の踏切番日記

ただのグダグダな日記です/2018年4月からはマイクラ(BE)日記をつけています/スマホでのんびりしたサバイバル生活をしています/面倒くさいことは基本しませんw

マジカル粘菌ワールド(1)~粘菌は不思議な生き物なのだ

1月の読書録03ーーーーーーー

 粘菌 偉大なる単細胞が人類を救う

 中垣俊之

 文春新書(2014/10/20)

 ★★★☆

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本書の著者は、北海道大学電子科学研究所教授で、粘菌をはじめ、単細胞生物の知性について研究している研究者です。2008年と2010年にイグ・ノーベル賞を受賞され、メディアでも取り上げられたので知っている人も多いと思います。私もこの時に、この先生と粘菌という生物の存在を知りました。

2008年のイグ・ノーベル賞認知科学賞の受賞理由は、「単細胞生物である粘菌が迷路やその他のパズルを解く能力があることを証明した」ことでした。また、2010年の交通計画賞の受賞理由は、「鉄道網など都市のインフラ整備を行う際、粘菌を用いて輸送効率に優れた最適なネットワークを設計する研究に対して」というものでした。

複雑系の科学に関する一般向け解説書を読んでいると、この粘菌の研究がよく紹介されているのですが、粘菌自体をテーマにした本は読んだことがなかったので、何か読んでみようと思って、この先生が書いた『粘菌 その驚くべき知性』(PHPサイエンス・ワールド新書)を探したのですが、残念ながら「品切れ重版未定」とのことで見つからなかったので、取りあえず本書を読んでみました。

本書の「まえがき」によると、『粘菌 その驚くべき知性』は、「理屈っぽい話が盛りだくさんで、読むのがなかなかたいへんである」という読者からの反応があったとか。本書は「それをふまえてもう少し柔らかく」したとのことです。確かに分かりやすさに気を配った内容の本でした。以下、本書の内容を紹介したいと思いますが、ついでに粘菌についてまとめておきたいので、前の記事で紹介した『自己組織化とは何か 第2版』(講談社ブルーバックス)の第3章「粘菌は自己組織化する」の内容も含みます。

 

 


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粘菌(カワホコリ)

 

 

 

第1章  イグ・ノーベル賞顚末記

この章は、2008年のイグ・ノーベル賞授賞式の様子をユーモアたっぷりにリポートした内容になっています。イグ・ノーベル賞の方針は、「まずもって人々を笑わせ、次に考えさせる研究成果」に与えることだといいます。笑いをとろうと思って研究をしている研究者は一人もいないでしょうが、科学がユーモアを忘れたらロクなことにならないという戒めの意味が込められているのでしょう。決して不真面目な賞ではないということです。アメリカらしいといえばアメリカらしいお祭りだと思います。

先日、中国科学院のチームがサル・クローンをつくったという報道がありましたが、「(倫理問題は)科学者が解決するものではない。社会全体で正しい選択を探らなければならない」という記者会見でのコメントには非常に不快感を覚えました。こういう連中の科学はロクなことにならない。こういう輩はヒト・クローンもつくりかねないと思います。

 

 


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真性粘菌の生活環

講談社ブルーバックス『自己組織化とは何か 第2版』より)

 

 

🔘粘菌は不思議な生き物

ここでいう粘菌は変形菌のことで、よく似た細胞性粘菌と区別するために真性(真正とも)粘菌とも呼ばれます。研究ではモジホコリという黄色い変形菌がよく使われるそうです。(以下、単に「粘菌」と表示します)

粘菌は単細胞生物で原生生物に属します。原生生物は真核生物(細胞に核を持つ生物)のうち、動物でも植物でも菌類でもない生物の総称です。粘菌は森の落ち葉や朽ち木などに生息するありふれた生物です。

その一生(生活環)は変わっていて、上の図のようになります。子実体から放出された胞子は風に飛ばされ、朽ち木などの水分中で発芽して粘菌アメーバになります。粘菌アメーバは成長と分裂を繰り返して、鞭毛型(水分が多い場合)もしくはアメーバ型の「遊走子」になります。この遊走子は性があり、異なる性の細胞と出会うと接合して、核も合体して「接合体」を形成します。上の図にある「シスト」は休眠状態の粘菌アメーバです。

この接合体は微生物を捕食し、細胞質分裂を伴わない核分裂と成長を繰り返し、多核の大型アメーバ状栄養体に成長します。これを「変形体」といいます。つまり、核はたくさんあるけれども単細胞生物なのです。この変形体が餌をを求めて動き回るわけです。速さは時速1センチメートルほどだといいます。上の図にある「皮体」は休眠状態の変形体です。「菌核」とも云うようです。

粘菌の接合体の大きさは、約10マイクロメートル(=0.01mm)程度ですが、成長すると変形体は10センチメートル程度に薄く広がります。中には、数メートル以上も大きく広がるものもあるそうです。上の図にあるように核は分裂すると倍々に増えていきます。約10時間の細胞周期ごとに、多数の核が同調して一斉に分裂するといいます。従って、n回分裂すると核の数は2のn乗になります。27回分裂すると核の数は億を超えます。

変形体は環境が悪化すると、小さなキノコのような子実体を形成します。胞子を作るところは菌類のようです。変形体は動き回るので動物のようです。また、植物的な面もあります。菌類のようでもあり、植物のようでもあり、動物のようでもある不思議な生き物が粘菌なのです。

 

※参考

◾『自己組織化とは何か 第2版』都甲潔/江崎秀/林健司/上田哲男/西澤松彦(講談社ブルーバックス

国立科学博物館ホームページ

〈変形菌の世界 title(画像あり)〉

モジホコリ - Wikipedia

 

 

 


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サビムラサキホコリの子実体

※引用元:富士自然学校(株)

 

 

◾こちらのYouTubeの画像は、ムラサキホコリ(stemonitis)の子実体です。胞子が成熟すると色が濃くなっていきます。

 

Stemonitis (Slime Mold) growth stages - YouTube(by Nature in Motion)

 

 

  

第2章  粘菌の知 人の知

この章では、粘菌研究の概略が紹介されています。著者が粘菌に魅了された最大の理由は、「粘菌には物質的な匂いがまだプンプンしている」ということだそうです。生命は単なる物質が集まってできています。何故「モノ」から生命が生まれたのかという問題は、科学の最大のテーマの一つです。単細胞生物は無生物と生物の境界にいるからこそ面白いという著者の話は、もっともだと思いました。

もう一つ考えさせられるのは、「知性」とは何かということです。著者によると、粘菌には「原始的な知性」とおぼしきものがあると云います。また、脳も神経ももたない粘菌にも「記憶」や「学習」の芽生えがあると云います。そういったものが、抽象的概念までも扱う人間の知性につながっていくものなのか、興味深いものがあります。

 

 

 

🔘変形菌の子実体いろいろ


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ケホコリの子実体

 


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マメホコリの子実体

🙀英語では Lycogala epidendrum。別名 wolf's milk(狼の乳)。キノコと間違わられやすい。

 


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クダホコリの子実体

🙀ウニか!

 


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Tubifera ferruginosa(クダホコリ)

🙀タラコか!

 


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Tubifera ferruginosa(クダホコリ)

🙀明太子か!

(source : File:Tubifera ferruginosa 52288.jpg - Wikimedia Commons

 


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Raspberry Slime Mould

🙀ラズベリー・スライム・モールド!

キャビアに見えなくもない。これもクダホコリです。胞子が熟した状態のようです。上の赤いのも Red Raspberry Slime Mould というようです。粘菌は英語では slime mould または slime mold といいます。 

(source : File:Tubifera ferruginosa, Raspberry Slime Mould, UK 2.jpg - Wikimedia Commons

 

 

 

 ◾蔵本由紀著『非線形科学 同期する世界』~体内時計と時計遺伝子など - 森の踏切番日記でも紹介した YouTube の変形菌の動画を再掲しておきます。

 

変形菌 移動 - YouTube(by 星夢絵里亜)

 

 

 

 

◾次の記事へと続きます

第3章  ヒトもアメーバも自然現象

第4章  粘菌のためらい─科学と文学のあいだ

第5章  不安定性から読み解く秩序づくりのしくみ

第6章  ヒトは粘菌に学べ