BZ反応と蛍の木と
ミレニアム・ブリッジ
Belousov Zhabotinsky reaction
by Stephen Morris
(source http://pin.it/6ruhmgngicstbx)
第三章:パターン形成
◾ベルーソフ・ジャボチンスキー反応(BZ反応)➡物質の濃度が時間とともに周期的に変動しながら化学平衡に近づいていく化学反応/ボリス・ベルーソフ(生化学者)/1950年にこの「振動する化学反応」を発見/クエン酸サイクル/アナトール・ジャボチンスキー/1968年/アーサー・T・ウインフリ/1974/低次元散逸力学系でモデル化
◾リミット・サイクル振動/興奮性/神経膜/
振動現象や興奮現象を示す多くの力学系は、基本的に重要な二つの自由度を含んでいて、それらの間の相互フィードバック機構を備えています。
/興奮=一過的な大規模運動/
大脳皮質の複雑な神経回路網を、このような興奮性を示す莫大な数の要素(すなわちニューロン)からなる複雑なネットワークとみなすことができます。
◾標的パターン/ペースメーカー/いちばん早いペースメーカーをもつ標的パターンが、最後は全体を支配する/回転らせん波パターン/円の伸開線/BZ反応は振動子または興奮子からなる反応拡散系
◾二因子系の振動/一種の捕食者と一種の被捕食者からなる仮想生態系の例/
生態系に限らず、自己増殖的な自由度とそれを抑制する傾向をもつ自由度の相互フィードバックの機構を内包したシステムは、自然界に広く存在し、化学反応系にも見られます。
/活性化因子=自己増殖的な自由度/抑制因子=抑制作用をもつ自由度
◾振動しない安定な定常状態をもつ二因子系が分布した反応拡散系/拡散は空間的な不均一性があれば、それを均一化する働きがある➡均一な状態は拡散の効果によってかえって不安定化し、不均一なパターンを生じうる➡拡散に誘導された不安定性(チューリング不安定性)/活性化物質と抑制物質の拡散の速さは一般に異なる/チューリング・パターン➡静止したパターン
◾対称性の自発的破れ/座屈/相転移/法則は対称なのに結果は非対称になるということが重要/
宇宙創造時のような超高エネルギー状態で存在していた完全な対称性を、物質が次々に失っていった結果がこの世界の多様性です。
/ホップ分岐による振動の発生も対称性の自発的破れ
◾発展方程式の縮約/隷属原理/縮約方程式/複雑現象の世界を理解するのは、量的な差異よりも質的な差異にまず関心を向ける必要がある/縮約方程式は普遍的な形をもっている
firefly tree
第四章:リズムと同期
◾リズム現象=規則的に繰り返される現象/リズムの発生➡ホップ分岐/開放系におけるリズム➡リミット・サイクル振動=どんな初期状態から出発しても最終的に同一の振動状態に引き寄せられるアトラクターとしての振動/二つの自由度の相互フィードバックからリズムが生まれる普遍的なメカニズムもある/リズム現象の例➡昼夜のサイクル、季節のサイクル、潮の干満、波などの自然のリズム、呼吸や心拍、生命のリズム、文明が生み出したリズム(時計、モーター、電子回路など)/高次の自己組織化現象=創発現象/同期(synchronization)/引き込み現象(entrainment)/クリスチアン・ホイヘンス/二つの振り子時計の間の同期現象➡弱い相互作用/相互同期/概日リズム(サーカディアン・リズム)/体内時計は一つのリミット・サイクル振動子のように振る舞う/強制同期/順位相同期/逆位相同期
◾集団同期現象/
サーカディアン・リズムの場合、それは多くの微小な振動子から構成される集団が生み出すマクロなリズムであることがわかっています。人間も含む哺乳動物では、サーカディアン・リズムの発生源は脳の視床下部にある視交叉上核という部位です。ここに二万個程度の「時計細胞」があって、それぞれがリズムを刻んでいます。これらの細胞リズムが協調することでマクロなリズムを生み出しています。
細胞集団が協調して生み出すマクロなリズムの別の例として、心拍があります。心拍の発生源は、1ミリ程度のサイズをもつ洞房結節とよばれる細胞の塊です。洞房結節はしばしばペースメーカーともよばれますが、それ自体は自律的なリズムを示す約1万個のペースメーカー細胞からなるリズム集団です。これらの細胞が生み出すマクロリズムが電気的な刺激として心筋に伝えられ、それをリズミカルに収縮させます。多数のミクロリズムの協調によるマクロリズムの発生は、まさに私たちの命を支えているのです。
多数が協力すれば、安定した強力で正確なリズムを生み出すことができるはずです。
/ホタルの集団における発光の同期(集団発光)/ミレニアム・ブリッジ閉鎖事件(2000年)➡個個人の歩行という「リズム」が互いに同期➡集団として大きなリズムを生み出す(橋という媒体が個個人の振動間の相互作用を媒介)➡橋が共鳴して大きく揺れる/拍手の同期現象/64個の電気化学振動子を用いた集団同期の実験/大域相互作用(平均場相互作用)
Millennium Bridge and St. Paul's Cathedral
◾ウインフリ➡散逸力学系モデルにもとづいて集団同期現象への理論的アプローチを最初に試みた(1967年)/位相モデル/一種の相転移現象を示す/秩序相と無秩序相との間に明確な転移点があるということが重要/集団振動の発生は磁気相転移における磁化の出現に似ている/
体内時計や洞房結節のリズムも、ホタルの集団発光も、ミレニアム・ブリッジの揺れも、すべて振動子集団の秩序相にあると考えられます。「秩序」がそこでは純粋にダイナミックな秩序であるという点が、通常の相転移と本質的に異なる最も興味深い点です。
◾平均場理論(近似理論)/「Xによって決まる個別要素の状態の総体がXそのものを決める」という要請➡「自己無撞着条件」(self-consistency condition)/
互いに強く相互作用した多数の要素からなる非線形システムでは、個と場の相互フィードバックという見方がしばしば有効ですが、それを最も素直に理論化したものが平均場理論といえるでしょう。平均場理論はその単純さにもかかわらず、要素間の強い相互作用による集団状態の突然の変化という創発性を記述できる理論としてきわめて重要です。
※第三章は空間的な秩序構造について。第四章は時間的な秩序構造について。
🔘BZ反応
フェロインを用いたBZ反応系の時間変化
※反応液をよく撹拌した状態で一定時間ごとに反応液全体の色が変化する。(酸化反応と還元反応が時間的に振動)
シャーレを用いたBZ反応(標的パターン)
by Stephen Morris
(source http://pin.it/jwg3oacc6na2pt)
標的パターンの時間変化
回転らせん波パターンの時間変化
(source http://pin.it/u2vlxk2mkdd7du)
📄BZ反応(YouTube)
(by Hiroshi Kori)
📄ミレニアム・ブリッジ(YouTube)
(by Webrick Castle)
📄メトロノーム同期(YouTube)
(by Ikeguchi Lab)
📄Firefly Tree (YouTube)
(by 米山均)