1月の読書録02ーーーーーーー
この鴛鴦茶がおいしくなりますように
岡崎琢磨
宝島社文庫(2016/11/22)
1701-02★★☆
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アオヤマが理想のコーヒーを探し求めるきっかけとなった理想の女性・眞子。11年ぶりに偶然の再会を果たした初恋の女性は、なにか悩みを抱えているようだった。後ろめたさを覚えながらも、アオヤマは眞子とともに珈琲店《タレーラン》を訪れ、女性バリスタ・切間美星に引き合わせるが……。
🐱この「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズは、一年九ヶ月前に出た前作は短編集だったので、長編としては前々作以来二年七ヶ月振りとなる。ずいぶんと間が開いたものである。
🐱この間、京都を舞台にしたキャラミスのシリーズがいくつか出てきたが、読んでみたいと思わせるものはなかった。本シリーズも、それほど面白くはないのだが、読み始めたシリーズは、なるべく最後までつきあうことにしている。日常の謎系のミステリで面白い作品にはなかなか巡り会えない。
🐱前作、前々作は、京都を舞台にしていながら、京都らしさを感じさせるような内容ではなかったが、今回は、有名な神社仏閣を訪れたり、源氏物語をストーリーに絡めたりして、かなり京都らしさを意識した内容となっている。
◾第一章:少女のショートカットはなぜ魅力的だったのか?
🐱主人公アオヤマが中学時代に体験した謎を切間美星が解き明かす。この謎を通じて、今回の物語の中心となる眞子の人物像をうまく紹介している。
◾第二章:猿が辻にて濡れる袖
🐱眞子が源氏物語を愛読しているという設定なので、紫式部ゆかりの廬山寺を訪れたり、京都御苑にある猿が辻の逸話を謎に使ったりしている。
🔎廬山寺Google マップ
◾第三章:ワールド・コーヒー・ツアーズ・エンド
🐱東山にある、縁切りで有名な安井金比羅宮が登場する。なんか、二時間ドラマぽい。
🐱それと、鴛鴦茶(えんおうちゃ)という変わったお茶が出てくる。コーヒーと紅茶を混ぜて、そこに無糖練乳(エバミルク)を加えて作る香港のお茶だそうだが、本当においしいのか? 一度作ってみよう。
出典:安井金比羅宮|blog
◾第四章:コーヒードール・レゾンデートル
🐱密室状況でなぜコーヒーが減ったかという典型的な日常の謎系ミステリ。
◾第五章:大長編は幕切れの地へ
🐱源氏物語の「宇治十帖」と絡めて宇治市源氏物語ミュージアムと宇治橋の三の間が登場する。「宇治十帖」の結末を想像するという話は興味深かった。宇治橋の三の間については橋姫伝説まで言及してほしかった。
※宇治橋から見た上流の風景。
🐱また、組香の源氏香が出てくるのも興味深かった。源氏香は、五種類の香を五包ずつ計二十五包用意して、その中から任意に五包選んで順番に焚いて、同じ匂いのものを判じるという江戸時代に始まった遊びで、この図案は意匠として優れているので着物や工芸品や和菓子などに用いられている。吾輩も源氏香を使って暗号が作れないか考えたことがある。本書も源氏香の図案を謎に使っているが、ヒントとして図案を掲載した方がよかったのではないかと思う。
🐱あと、臨済宗の開祖・栄西に「えいさい」とルビがふってあったのが気になった。臨済宗では「ようさい」と読んでいる。どちらが正しいということはないのだが。著者の生家は福岡県のお寺さんだが、何宗なのだろうか。
◾第六章:嵐の夜に浮かぶ舟
🐱この章で物語全体の謎の解決編となるが、大方予想した通りの結末だった。いろいろ工夫して頑張ってるなとは思ったけれども全体的に平凡な作品という印象だった。
🐱日常の謎系のミステリの場合、謎自体にあまり興味を持てないことが多くて、謎が解き明かされても、「ふーん」 という感じで終わってしまうことが多い。ストーリー全体に魅力がないと謎が生きてこないと思う。
🐱本書は、最近のキャラミスの中ではましな方だとは思う。年齢的にも、これからの作家なので、今後の作家活動を見守りたいと思う。

珈琲店タレーランの事件簿 5 この鴛鴦茶がおいしくなりますように (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
- 作者: 岡崎琢磨
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2016/11/08
- メディア: 文庫
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