1月の読書録03ーーーーーーー
カオスの紡ぐ夢の中で
金子邦彦
小学館文庫(1998/01/01)
1701-03★★★
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◾著者の金子邦彦は、1956年、横浜市生まれ。79年、東京大学理学部物理学科卒。84年、東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科教授。東京大学複雑系生命システム研究センター・センター長。理学博士。専門は、非線形科学、複雑系の物理。
◾本書の前半は「複雑系へのカオス的遍歴」と題されたエッセイである。これは、講談社の科学雑誌『クォークQuark』の1996年1月号から1997年6月号まで連載されたサイエンス・エッセイ「金子邦彦の『複雑系の向こう側』」と新潮社の雑誌『新潮21』の平成8年6月号に掲載された「カオス・物語・複雑系」よりなる。後半は「カオス出門」、「小説 進物史観」と題された二本の小説である。最後に「バーチャル・インタビュー」と題されたあとがきが付いている。
※本書は2010年5月にハヤカワ文庫から再出版されている。
※科学雑誌『クォークQuark』は1982年8月号から1997年6月号まで刊行され廃刊となった。
🔘複雑系へのカオス的遍歴
🐱前半のエッセイについて著者は、「文化としての科学を訴えたかった」という。オウム真理教の一連の事件の後に連載が始まったということが影響しているようである。科学とは、「日常的な疑問から連続的に生まれてきたものであり、そうした疑問をいきいきと楽しみながら考えたいという」文化のひとつであると、著者は主張している。
🐱この中では、物理学者としての寺田寅彦について触れた部分が興味深かった。寺田寅彦がつくろうとした物理学は、現代の非平衡現象やパターンの物理の研究につながっているという。
🐱また、日本の研究者がおかれている現状について苦言を呈した文章があるが、現在では、ますます状況が悪化しているように思われる。他にも、いろいろ示唆に富んだ文章が見受けられた。
🐱カオス理論や複雑系の物理についての解説も詳しくはないが簡潔に分かりやすく書かれている。
🔘カオス出門
🐱短編小説。小説の完成度としてはアレだが、カオス理論の例え話としては、分かりやすくて面白いと思う。昔から、科学者の中には、小説を書く人もいるので違和感はない。円城塔は、論文に出来ないようなアイディアを小説にしていると云われているが、そういう科学者は昔からいるものである。
🔘小説 進物史観
🐱短編小説。物語自動生成システムの進化と崩壊を描くことにより、生命の進化と物語の発展史のパロディ化を目指したもの。
🐱実は、この小説を前から読みたいと思っていて、複雑系に関する書物をブックオフ・オンラインで探しているときに、たまたま見つけて、ついでに本書を購入したのだ。108円だった。状態は可。
🐱なぜこの小説を読みたかったかというと、この中に出てくる物語自動生成システムのひとつが「円城塔李久」といって、作家円城塔の筆名の由来になっているからである。円城塔は著者の博士課程指導学生だったのだ。
🐱小説の方は、ひと言で云うと「怪作」であろう。著者は脳型人間だと思われるが、この小説は筒井康隆の作風に近い。小松左京、筒井康隆、円城塔の愛読者には楽しめる内容である。
🔘バーチャル・インタビュー
🐱インタビュー形式で書かれたあとがき。1990年代半ばの複雑系の「困ったとしかいいようのないブーム」に関する言及が興味深い。当時は、複雑系で株が儲かる的な本まで出てきたりしたものである(今もあるか)。「アメリカの一研究所の誇大宣伝に踊らされている日本のジャーナリズム」なんかもあったものである。20世紀末に、複雑系の科学に対するイメージが歪められたようなことはあったかも知れない。
🐱複雑系の研究というのは一言で言うとどういうものかというと、
「『一言で言えれば複雑系じゃない』って一言で答える、ってのもあるかもしれないけど、いずれにせよ部分と全体の矛盾をはらんだ相補的な関係を、掛け声だけじゃなくて真剣に探るってことになると思います。つまり部分の和で表せない全体というのは論理的にどういうものか、それを捉えるにはどうしたらいいかというようなことです。
🐱本書は20世紀末の複雑系の科学について、その側面を知る意味においては、面白い本だと思う。
📄関連動画(YouTube)
物理の視点で生命を理解する
金子邦彦先生よりメッセージ
リバネスtv(2012/05/10)1′48″

カオスの紡ぐ夢の中で (〈数理を愉しむ〉シリーズ) (ハヤカワ文庫NF―数理を愉しむシリーズ)
- 作者: 金子邦彦
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/05/30
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