森の踏切番日記

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『重力波とはなにか』を読む

2月の読書録04ーーーーーーー

 重力波とはなにか

 安東正樹

 講談社ブルーバックス(2016/09/14)

 1702-04★★★★

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🐱2016年2月11日、米国ワシントンDCで、重力波望遠鏡プロジェクトLIGO(ライゴ)の記者発表が行われた。その内容は、1916年にアルベルト・アインシュタイン一般相対性理論の帰結のひとつとして存在を予言していた「重力波」の観測に初めて成功した、という驚くべきものだった。

📄重力波をブラックホールから「観測」 アインシュタインが予言 - BBCニュース

 

🐱本書は、この発表により世間に知られるようになった「重力波天文学」という新しい天文学を日本の重力波天文学の第一人者が一般向けに解説したものである。本書の「はじめに」によると、

本書は、この重力波についてわかりやすく解説することを目的としています。さらに、重力・一般相対性理論ブラックホール・高エネルギー天体現象や宇宙論といった、重力波と大きな関わりをもつ事柄にも話題を広げています。また、重力波観測の歴史的な意義も感じてもらいたいという考えから、自然や宇宙に対する人類の理解の変遷、重力波観測に至るまでの知識や技術の蓄積、そして今後の可能性という時代の流れをも意識して書きました。

ということである。

🐱「わかりやすく解説する」とは云いながら、本書はかなり高度な内容で、ブルーバックスの中でも難易度の高い部類に属すると思う。各章に著者によるポイントがまとめられているので、ここではそれを中心に紹介しようと思う。

 


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アインシュタイン方程式

 

 

第1章:重力波の前に

⭐重力は古くから人類に認識された力であったが、その正体は長らく理解されていなかった。アインシュタイン一般相対性理論によって、重力は「時空の歪み」として解釈された。

一般相対性理論はさまざまな観測や実験で検証され、それらのすべてで矛盾のない結果が得られている。

一般相対性理論の最初の厳密解であるシュヴァルツシルト解は、ブラックホールの存在を示唆するものだった。ブラックホールの候補天体は、X線や電波の観測で発見されている。

🐱この章は、一般相対性理論ブラックホールの一般向けの解説書によくある内容で、この章だけでも1冊の本になるような内容なのだが、簡潔にまとめられている。本書を理解するには、一般相対性理論ブラックホールの一般向け解説書を予め読んでおいた方がよいだろう。

 

 

第2章:これが重力波だ 

重力波とは、時空の歪みが波として光速で伝わるものである。

重力波の振幅は、離れた2点間の距離の変化(歪み量)として表される。

重力波は質量をもった物体の運動によって生成される。その振幅はきわめて小さく、観測できるような重力波を生成するには、大質量の物体が光速に近い運動をする必要がある。観測が期待できるのは主に、連星系など宇宙起源の重力波である。

🐱この章は、かなり難解。アインシュタイン方程式は一度解いたことがあるので、テンソルとかダランベール演算子とかは分かるのだが、偏波成分が苦手。上のポイントに付け加えると、重力波は「横波」であるということ。なので、電磁波との類推で考えてみると「重力波の雰囲気」をつかむことは出来る。(電磁波も偏波成分をもつ)

 


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連星パルサー重力波の伝播のイメージ図

 

 

第3章:重力波の存在証明

⭐1974年に発見された連星パルサーは、一般相対性理論の検証の場になっている。その観測によって、重力波の存在が間接的に証明された。

中性子星ブラックホールからなる連星の合体は、有望な重力波源の1つになっている。誤差は大きいものの、1つの銀河あたり10万年に1回程度、こうしたコンパクト連星の合体が起こると見積もられている。

⭐連星合体時に放射される重力波は「チャープ波」と呼ばれる波形になる。

🐱この章は、1970年代に重力波の存在が間接的に証明された話だが、これだけ専門的で深い内容は初めて読んだ。「チャープ波」の波形を音声信号にすると「ピヨ」という鳥がさえずるような音になるのだそうだ。

 

 

第4章:重力波観測への挑戦

🐱この章は、1960年代に始まった重力波観測への挑戦の歴史を第一世代レーザー干渉計型重力波望遠鏡まで紹介している。観測装置の技術的な進歩とともに「数値相対論」といった解析技術の進歩も取り上げている。

 

 

第5章:進化する「第二世代」

🐱第一世代重力波望遠鏡では重力波の観測は成功しなかったので、第二世代へと進化した。この章では、その進化の内容を説明している。重力波という微弱な波を観測するのにどれだけの技術が必要かということがよくわかる。

 


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アメリカのLIGO

 

 

第6章:重力波の初観測

⭐2015年9月14日、LIGO重力波信号の初観測に成功した。それは連星ブラックホールの合体からの重力波で、新たな知見と謎をもたらした。12月には2つめの重力波信号も観測されている。

重力波の波形から、これまでに得られなかったような天文的情報が得られた。これまでの重力波の初観測を目的とする研究から、重力波を用いた天文学を進める新しい時代に突入した。

⭐本格的な天文学を発展させるためには3台以上の重力波望遠鏡での同時観測が必要であり、ヨーロッパのVIRGOや日本のKAGRAへの期待が高まる。

⭐さらに将来的には、第三世代の重力波望遠鏡、宇宙重力波望遠鏡の検討や基礎開発も進められている。

🐱この章が本書の肝と云ってよいだろう。上に挙げられた各ポイントについて詳しく解説がなされている。特に連星ブラックホールが合体する過程は興味深い。

 

 

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連星ブラックホールのイメージ図

 

 

第7章:重力波天文学でわかること

重力波を用いることで、人類は宇宙を観測する新たな手段を手に入れた。これまでの主に電磁波による天文学では得られなかった情報や、相補的な知見を得ることが期待できる。

(以下略)

🐱具体的には、ブラックホールやその連星系について。巨大ブラックホール形成の謎について。中性子星状態方程式ガンマ線バースト、連星中性子星の合体についてなど。

🐱特に興味深いのは、重たい原子の起源の謎についてである。恒星の核融合反応では鉄までしか生成されない。鉄より重い原子はどのようにして生成されるのか、超新星爆発だけでは説明しきれないのだ。それが解明される可能性があるという。楽しみな話である。

 

 

第8章:重力波が変える宇宙論

🐱この章は、宇宙論に関する一般向け解説書によくある内容で、ようやく見慣れた風景に帰ってきたという感じ。ビッグバン宇宙論宇宙マイクロ波背景放射、インフレーション理論など、宇宙論の変遷が簡潔に説明されている。

🐱現在、インフレーション理論は100を超えるモデルが提案されているということで、原始重力波の観測が新たな知見をもたらすことが期待されている。

重力波による観測の究極の目標は「宇宙のはじまり」を直接観測することにあるといっても過言ではありません。

 

 

第9章:究極の重力理論を求めて

🐱現代物理学では、自然界に存在する4つの力(強い力・弱い力・電磁気力・重力)を統一する「究極の理論」を構築することが求められていて、そのためには、一般相対性理論量子力学を融合した「量子重力理論」を確立しなければならない。その有力な候補として「超弦理論」がある。また、別のアプローチとして、一般相対性理論を拡張した「修正重力理論」がある。重力波天文学一般相対性理論を検証することによって、これらの理論に寄与すると著者は主張している。

 


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銀河の中心には巨大ブラックホールがあるという。(画像はM83)

 

 

🐱日本の宇宙重力波望遠鏡DECIGOは、かなり壮大な計画で、つまり、かなりお金が掛かりそうなミッションである。研究グループの副代表を務める著者としては、国民の理解を是非得たいところであろうと推測する。

 

 

🐱著者は、「宇宙のはじまりを直接観測し、知りたい」というのは、「人類の根源的な欲求」であるという。何故人類は、宇宙のはじまりを知りたいと思うのか。それは、何故宇宙に知的生命体が存在するのか、という問題に繋がると考える。宇宙自らが自己のレゾンデートルを求めているのである。我々は、宇宙と無関係の存在ではあり得ない。我々もまた、宇宙の一部に違いないのだ。

 

 

😽「宇宙のはじまり」が分かったとしても、じゃあ、その前はどうなの? という疑問が出てきてキリが無いという気もするが、宇宙の果ての向こう側とか、宇宙のはじまりの前とかは、認識の仕様が無いので考えない方がよいだろうな。

 

 

 

 

 

 

📄関連図書

本書の最後に著者が参考となる図書を紹介しているので、その中から何冊かここに挙げておこうと思う。

 

😺★★★★

🐱 インフレーション理論の提唱者自らが語ったインフレーション理論の入門書。一般向けの科学講座での話を基にしているので、平易な語り口で分かりやすい。

🐱他に『宇宙96%の謎』、『アインシュタインの宇宙』(いずれも角川ソフィア文庫)もおすすめ。

 

 

 

🐱 ★★★☆

🐱小松英一郎は、日本人で唯一WMAPのプロジェクトに参加した宇宙物理学者。WMAPの話は、現場にいた人だけに詳しく解説されていて面白かった。原始重力波の偏光についても解説されているのだが、やはり難しい。小松氏は、一般相対性理論の修正を目指しているとのことである。

 

 

 

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る (幻冬舎新書)

 

😺 ★★★★

🐱特殊相対性理論一般相対性理論ブラックホール量子力学超弦理論ブラックホールの情報問題と、重力研究について詳しく解説している。

🐱ヒッグス粒子について書かれた『強い力と弱い力』(幻冬舎新書)もおすすめ。

 

 

 

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

大栗先生の超弦理論入門 (ブルーバックス)

 

😺 ★★★★

🐱超弦理論の専門家が超弦理論を分かりやすく解説した入門書。と云っても超弦理論自体が難しいので入門書としてはハイレベルな内容。空間は幻想なのだそうだ。

 

🐱他に、『宇宙は何でできているか』村山斉著(幻冬舎新書)などが紹介されていた。村山斉の一般向け科学解説書では他に『宇宙は本当にひとつなのか』、『宇宙になぜ我々が存在するのか』(いずれも講談社ブルーバックス)もおすすめ。🐥