9月の読書録02ーーーーーーー
日本列島100万年史
山崎晴雄・久保純子
★★★★
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本書は、講談社ブルーバックスの通巻2000番目になる。私が初めて読んだブルーバックスは、202番の『電波でみた宇宙』(森本雅樹) だった。私が読んだ中で番号が一番小さいのは、101番の『量子力学の世界』(片山泰久) で、これは名著だった。印象に残っているのは、241番の『相対論的宇宙論』(佐藤文隆・松田卓也) で、これは挿し絵がなんと松本零士だった。なつかしい。
本書の副題は「大地に刻まれた壮大な物語」となっている。私が購入したのは第三刷(2017/02/10)だが、1ヶ月で第三刷とはブルーバックスでは異例の売れ行きといってよい。「ブラタモリ」人気で地形に興味を持つ人が増えてきたということだろう。私もその一人だが。テレビ、特にNHKの影響力は、やはり大きい。
森田一義氏も本書を読んでいる可能性がある。何故かというと、本書の「おわりに」に
「年」がわかりにくければ「円」で比較してみてください。46億円稼ぐのは超大金持ちですが、260万円なら……という感じでしょうか。
という記述があるのだ。NHK「ブラタモリ #81十和田湖・奥入瀬」における森田氏のコメントは、これによく似ている。もちろん、森田氏も独自に思いついた可能性もあるし、地形学ではよく使われるたとえである可能性もある。
46億年のうちの1000年についてお金でたとえる森田氏。
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第1章 日本列島はどのようにして形作られたか
◽まずは日本列島がどのようにして形作られたかの解説から始まる。プレートテクトニクスの説明は分かりやすかったが、日本列島の成り立ちは複雑でややこしかった。
(プレートテクトニクスについては、鎌田浩毅先生の『地学ノススメ』は現代日本人の必修科目(1) - 森の踏切番日記を参照のこと)
◽本書では、日本列島の成り立ちは、1900万年前~1500万年前に起きた日本海開裂から始まる。それまでは大陸の一部だったようだ。
※日本列島の地質系統はそれよりもはるかに古い。ここでは、日本列島の形状の成り立ちについて解説されている。
日本海開裂と日本列島の誕生
◾ユーラシア大陸の東の端で、沈み込む海洋プレートと、その上の大陸プレートとの間のマントルに対流が発生する。
➡その湧昇流で大陸プレートが引き伸ばされる。
(→低地が出来始める)
➡ついには分裂し、下の海洋プレートが現れ拡大する。
(→海が侵入する)
ということらしい。メカニズムとしては大西洋が現れたのと同じだが、マントル対流の規模が小さかったようだ。
◾日本海開裂によって分断された東側の細長い大陸地殻は、現在よりも大陸に近く直線状だったが、回転しながら東側へ移動し始めた。(日本海の拡大)
➡この時、現在の東北日本は反時計回りに、西南日本は時計回りに回転し、2つの弧に分断され(観音開きモデル)、両者の間には大地溝帯(フォッサマグナ)が形成された。
➡海洋プレートの沈み込みによる圧縮力は弱く、日本列島は全体に外側に引っ張られる力が加わり、地殻が引き伸ばされた。このとき、日本列島の地殻の中に大規模な正断層が生じた。
(フォッサマグナは、その後の火山活動や堆積作用で厚く埋められた)
◾その後、日本海は開裂を止め、圧縮も伸張もない中立な状態で、およそ1000万年が経過。
➡300万年前頃から、日本列島付近は強い圧縮を受けるようになった。これは西南日本の下に沈み込むフィリピン海プレートの運動が変化したためと考えられている。
➡正断層が、地殻の弱い部分となって逆断層として動き出す。その多くが活断層として活動を続け、山地と平野・盆地などの地形境界となって日本列島の地形の凹凸を作っている。
◾日本列島南東側の太平洋の海底では、西北西に移動する海洋性の太平洋プレートが、西側にある海洋性のフィリピン海プレートの下に潜り込む。(前者の方が古くて重いため)
➡そのため、フィリピン海プレートの東縁には、海洋プレートでありながら、火山活動で形成された厚い火山性地殻が形成される。これを伊豆バーと呼ぶ。
➡伊豆バーは、フィリピン海プレートの北西への移動にともなって北上し、ついには日本海開裂後の本州に衝突。
➡古生代から中生代に形成されていた西南日本の東西に延びる地質構造は、南から押されて北側にへこみ湾曲した。
➡伊豆バーの衝突にともなって、その上にあった沈みにくい火山性地殻が次々と本州にぶつかる。
➡900万年前頃本州に衝突して日本列島に付加したのが、富士山の北にある御坂山地。
➡500万年前頃には丹沢山地が付加。
➡100万年前頃には伊豆半島が付加。
こうして、現在のような弧状列島の原型が現れた。
日本列島周辺のプレート
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
提供元:海上保安庁
※太平洋プレートと大陸プレートとの境界が北から千島海溝、日本海溝。
※太平洋プレートとフィリピン海プレートとの境界が伊豆・小笠原海溝で、その西側に伊豆バーが形成される。伊豆・小笠原諸島は伊豆バーに沿っている(伊豆・小笠原弧)。
※フィリピン海プレートと大陸プレートとの境界は、伊豆半島より東が相模トラフ、西が南海トラフ、南西諸島海溝と続く。
※海洋プレートが沈み込むところには細長い溝ができるが、そのうち6000㍍よりも深いものを海溝、それより浅いものをトラフと呼ぶ。南海トラフは、陸に近接しているため陸からの堆積物に埋められて浅くなった。
※南西諸島の成り立ちについては、奄美の森でブラタモリ(2) - 森の踏切番日記を御覧下さい。
火山と火山フロント
◽弧状列島の特徴を最も表しているのが火山である。
◾火山は地下のマグマがマントル内から上昇して噴き出したもの。
➡このとき、地下10㎞ほどの深さにマグマ溜まりができる。
➡地殻深部からの供給でマグマ溜まりがいっぱいになると、地殻に加わる力が変化した際にマグマが地表に噴き出してくる。これが噴火。
◾マグマは、マントルを構成するかんらん岩が溶けてできたもの。
➡温度と圧力の関係から、岩石が最も溶けやすくなるのは、深さ100km付近と考えられている。
➡ただし、マグマができるには、さらに融点を下げる触媒が必要。その触媒となるのが、実は水。
➡地下深部に水を供給するのは、沈み込んだ海洋プレート(スラブ)。
➡つまり、深度100km付近で沈み込むスラブからマントルに水が供給されると、岩石の融点が下がってマグマが形成される。
➡形成されたマグマは周囲より密度が低いため浮力で上昇し、マグマ溜まりにマグマを供給し、地表に火山が出現する。
➡島弧の海溝側の沈み込むプレートの深度がこれより浅い部分の地表には火山はできない。
➡この火山ができはじめる境界を火山フロントという。
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
※海溝から火山フロント(海溝側火山列)までを前弧(非火山性外弧)、火山フロントから大陸側を背弧(火山性内弧)という。
※背弧側にある火山列を背弧側火山列という。
◾火山の形成には他に、中央海嶺に沿って海底火山が形成される場合とマントル深部からのマグマの供給(湧昇流)で形成される場合がある。 後者の例としては、ハワイ島、白頭山、済州島などがあり、ホットスポットと呼ばれる。
➡地下深部のホットスポットは動かないので、プレートの移動にともない、点々と火山ができる。やがて、火山をのせる海洋プレート自体が重くなり、火山島は海中に沈み海山となり、海山列を作る。(例・天皇海山列)
※アイスランドは、中央海嶺とホットスポットが重なった珍しい例。
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
※ハワイ島から北西に延びているのが天皇海山列。ミッドウェー付近で北北西に向きを変えている。これは、太平洋プレートの運動方向が急に変わったためと考えられる。
海溝が山を作る
◾海洋プレートの沈み込み部分では、海洋底に堆積した地層は地球の内部に入ることができず、引き剥がされて陸側プレート側の海溝斜面にくっつけられてしまう。これを「付加体」と呼ぶ。
➡付加体は、陸から遠く離れた海域で堆積した細粒な深海底堆積物と大陸側から海溝に運ばれたやや粗粒な堆積物で構成される。
◾沈み込みの際、新しい堆積物は古い堆積物の下に潜り込むように堆積する。
➡その結果、古い堆積物はどんどん隆起して「前弧リッジ」あるいは「外縁隆起帯」と呼ばれる高まりを作る。
➡この高まりは、大陸側から海溝へ流れ込む砂や泥を堰き止め、その背後にそれらが堆積した平坦な面が形成される。これを「前弧海盆」または「深海平坦面」と呼ぶ。
➡付加体はさらに成長すると、最後には造山帯として山脈を作る。
➡このため、アンデス山脈やロッキー山脈などの新しい造山帯は大陸の縁にある。
➡日本列島も大陸の縁にできた新しい造山帯であり、付加体の形成が繰り返されてきた。
◾西南日本の外帯(中央構造線の南側で九州南部から関東平野まで続く)では、付加体堆積物が帯状の地質構造になったと考えられる。これらの地質帯を海洋プレート側から、「四万十帯」「秩父帯」「三波川帯」と呼ぶ。
◽四万十帯は、白亜紀から第三紀(1億4500万年前~260万年前)に大陸の縁に作られた付加体で、外帯山地と呼ばれる九州、四国、紀伊半島、関東山地の山地を形作っている。
◽高尾山には、この四万十帯の地層が現れていて、深海堆積物から引き剥がされたチャートと呼ばれる硬い岩石や、陸上から供給された砂岩などの岩体が混じりあい、付加体の特徴がよく表れている。
◽秩父帯はジュラ紀(2億年前~1億4500万年前)の間に作られた付加体。
◽三波川帯は古生代から中生代ジュラ紀(5億5000万年前~2億年前)に作られた付加体の堆積岩が、白亜紀に変成作用を受けてできた岩石(変成岩)で形成されている。
出典:日本列島の地質と構造|地質を学ぶ、地球を知る|産総研地質調査総合センター / Geological Survey of Japan, AIST
地震はどうして起きるのか
◽地震の正体が地下の断層運動だと科学的に証明されたのは1960年代のことだった。
◾断層運動とは、地殻の中にある断層(割れ目)を挟んで、地殻を構成する両側の岩石が食い違う現象のこと。このことを慣習として「断層が動く」と表現している。
➡このとき、地下の断層面上で断層が最初に動き始めるポイントを地震の震源という。
➡断層が動く原因は、地殻の歪み。地殻を構成する岩石には、いろいろな方向から力がかかるが、それによって生じた歪みが限界に達すると地殻内で強度の弱い部分(弱線あるいは弱面)である断層でずれが生じる。
➡力のかかる向きと断層面の傾きの方向によって、断層のずれ方が変わり、逆断層、正断層、横ずれ断層の3タイプがある。
➡現在の日本列島周辺では、大陸プレートと海洋プレートが押し合い、岩盤が水平方向に圧縮されている。そのため、逆断層や横ずれ断層によって引き起こされる地震が大部分である。
➡ただし、地殻を引き伸ばす力が働く火山地域や、巨大地震などの影響で、地殻に局所的に引き伸ばす力が働く地域では、正断層による地震が発生することもある。
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
出典:地震本部(地震調査研究推進本部)
◾プレート境界地震(海溝型地震)は、プレートの沈み込みによる歪みを一気に解消するので、頻繁に巨大地震が発生する。
➡プレートの沈み込みで日本列島にかかる地殻内部の力の大部分は、プレート境界地震で解放されるが、内陸部にはその残余の力がかかる。
➡何回ものプレート境界地震の繰り返しで内陸部には歪みが徐々に蓄積される。
➡最後にそれが地殻の弱線である活断層の活動で解放される。
◽活断層の特徴は、活動によって地表に地震断層と呼ばれる断層地形を残すこと。
◽活断層は将来活動する可能性のある断層と考えられるが、その根拠は、地表付近で最近の地質時代に活動の繰り返しの証拠があること。従って、「未知の」活断層は存在しない。
◽活断層はその活動の繰り返しによって、通常の河川侵食では考えられない独特の断層地形を発達させる。
◾プレート境界地震などの大地震の際、日本列島沿岸部では海岸部が隆起沈降することがある。これを地震性地殻変動という。
➡海洋プレートの沈み込み運動で、上盤側(陸側)地殻が下に引っ張られて沈降する。
➡その歪みの限界に達したとき、プレート境界断層がずれて大地震を発生させる。
➡同時に、下に引っ張られていた上盤側地殻は反発して元に戻る。(弾性反発説)
➡従って、地震で隆起した上盤側地殻は、地震後また沈降し始め、次の地震まで沈降運動が続き(「逆戻り」という)、次の地震でまた隆起するということを繰り返す。
➡隆起量が逆戻りの沈降量を上回ることが多いので、沿岸地域は長期的には隆起を続けている。(原因は不明)
➡その結果、海岸段丘は古いほど、それが最初に形成された高度よりもはるかに高いところに位置している。
◾ここまでは、地殻内部で引き起こされる「内的営力」による地形の変化だったが、気候変動など地表面より上に原因がある「外的営力」による地形の変化もある。
海水準変化による海岸線の変化
◾地質年代で、260万年前から現在にいたる時代を第四紀と呼ぶ。
➡日本列島の地形形成に最も大きな影響を与えた外的営力は、この第四紀における海水準の変化である。
➡この海水準の変化は、北半球の大陸上に形成された大陸氷床(氷河)の拡大縮小が原因で引き起こされたもので、氷河性海水準変動と呼ばれている。
過去500万年間の氷期、間氷期の変動を示す堆積物の記録(横軸・単位100万年前、縦軸・地球上の氷床量の指標)
◾温暖だった中生代以降、地球は徐々に寒冷化していく中で、第四紀は、北半球に氷床ができ始めた時期という特徴がある。
➡第四紀前半は、北半球の大陸氷床は小規模で、およそ4万年周期で溶けたり発達したりを繰り返していた。
➡ところが、100万年前頃に「気候のジャンプ」というエポックがあり、それ以降、氷床の発達は大規模になった。
➡氷床の拡大縮小の周期は約10万年に延び、寒冷の振幅も大きくなり、明瞭な氷期・間氷期のサイクルが出来上がった。
◽気候のジャンプの原因は、上昇を続けるヒマラヤ山脈が、北半球の大気の循環に影響を与えるほどの高度になったためだと考えられている。
◽氷期には、氷床の発達のため、海水量が徐々に減り、海水準(海面の高さ)は低下していく。
◾7万年前に始まった最終氷期(ヴュルム氷期)が2万年前には最盛期(最寒冷期)を迎えた。
➡北米大陸や北欧には大規模な氷床が発達し、2000㍍以上の厚さでこれらの地域を覆った。グリーンランドの氷床も現在より広がっていた。
➡その結果、世界中の海水準は現在よりも120㍍ほども低くなったと考えられている。
◾日本列島では、海水準の低下によって、東京湾や大阪湾、瀬戸内海などは干上がって陸地になった。
➡東京湾では、干上がった元の海底を利根川の延長である古東京川が流れ、新しい沿岸地域では、低下した海面に高さを合わせて河川が深い谷を掘り込んだ。
➡日本列島の周囲には、低下した海面に合わせて広い海岸平野が形成された。これが現在では海面下に没し、大陸棚になっている。
➡気温の低下による植生の変化や雨量の減少も地形の変化に影響を及ぼした。河川の上流域では谷を埋めて川床の高度を上げ、平野の出口では大きな扇状地を作った。下流部では川底が深く刻み込まれたので、氷期の河川の勾配は間氷期のそれよりずっと急勾配になった。
◾約1万年前に氷期が終わると、大陸の氷床は溶けだし、海水準は急速に上昇した。
➡それにより、氷期に作られた大きな谷の中には、洪水などで上流から運ばれた新しい地層(沖積層)が厚く堆積し、平野が作られた。
➡気温が上昇し、降雨も増加するので、谷の上流部では、河川が氷期に埋めた厚い堆積物を削り、峡谷を作るようになる。下流域では谷が埋められているので、川床勾配は緩やかになる。
➡川床勾配は氷期と間氷期でシーソーのように変化し、これによっていろいろな段丘が形成された。
※約2万年前は、宗谷海峡、間宮海峡は陸続きになっていて、マンモスは北海道までやって来た。津軽海峡は深さが約140㍍あるので、当時でも完全に陸化しなかったようだ。なので、マンモスは本州までは行けなかった。(上の図はちょっと違うのでは)
※北海道と本州で動物の分布が大きく異なるのは、津軽海峡のせいで、この境界は「ブラキストン線」と呼ばれている。
※ナウマン象は、なぜか本州にも北海道にもいたらしい。
※上の図の60万年前の地図で、日本海が干上がっているが、内海として存在していたはず。この図は、ちょっと違うと思う。
🔘このようにして、日本列島の地形はプレート運動にもとづく内的営力の上に、外的営力である氷河性海水準変化の影響を受け、さまざまな堆積作用や浸食作用が働いて形成されてきた。
🐱第2章以降は、日本列島の各地に見られる地形の形成過程や形成史が紹介されています。
- 第2章:北海道
- 第3章:東北
- 第4章:関東
- 第5章:中部
- 第6章:近畿
- 第7章:中国・四国
- 第8章:九州
次の記事では、第2章以降の内容を紹介したいと思います。
次の記事へと続きマンモス
🔘箱根火山のカルデラの成り立ち他 『日本列島100万年史』を読む(2)北海道・東北・関東 - 森の踏切番日記
🔘南海トラフ地震で富士山が噴火? 『日本列島100万年史』を読む(3)中部 - 森の踏切番日記
🔘近畿三角帯と阪神淡路大震災の話 『日本列島100万年史』を読む(4)近畿 - 森の踏切番日記
🔘南海トラフ大地震が起きるしくみ 『日本列島100万年史』を読む(5)中国・四国・九州 - 森の踏切番日記