うみへび座(Hydra)
トレミー48星座の1つ。春の星座でおとめ座や獅子座の近くにある。星座の中で最も領域が広く、その全長は東西に100度を越える。ギリシア神話でヘラクレスに退治された頭が9つあるヒドラが星座になったもの。
2017年10月16日
アメリカのLIGOとヨーロッパのVIRGOでつくる共同研究グループは連星中性子星合体によって発せられた重力波の初検出に成功したと発表した。
2017年8月17日
重力波を観測していたLIGOとVIRGOの共同研究グループは、ブラックホールとは異なる特徴の重力波がうみへび座の方角から地球に届いたのをキャッチした。
この重力波源は「GW170817」と名づけられた。GWは、Gravitational Wave の略。
分析の結果、この重力波は、太陽の1.2~1.6倍の重さのある中性子星の連星がらせん軌道を描きながら接近し衝突、壊れながら1つに合体した現象から発生したと考えられることがわかった。
また、さらに詳細な分析の結果、この重力波天体は、地球から1億3000万光年離れていることもわかった。
中性子星とは
中性子星は、太陽の8~30倍の重さのある恒星が超新星爆発を起こして中心核が圧縮された結果形成される。半径10km程度で重さは太陽と同じくらい。表面付近の重力は太陽の数十億倍にもなる。太陽質量の30倍以上の恒星が超新星爆発を起こすとブラックホールになる。
連星中性子星とは
2つの中性子星からなる連星系は「連星中性子星」と呼ばれる。同様に2つのブラックホールからなる連星系は「連星ブラックホール」と呼ばれる。
それに対して、片方が中性子星で他方が別の天体の場合は「中性子星連星」、片方がブラックホールで他方が別の天体の場合は「ブラックホール連星」となる。ややこしい。
ブラックホールと中性子星からなる連星系の場合は「ブラックホール-中性子星連星」となる。これは、そのまんま。
2015年9月14日に重力波の初観測に成功して以来、今回が4回目の重力波観測となる。過去3回は、いずれも連星ブラックホールの合体による重力波だった。連星中性子星の合体による重力波は、今回が初観測になる。
そもそも、最も有力な重力波の観測ターゲットと考えられていたのは、中性子星の連星からの重力波だった。というのも、連星中性子星の合体頻度は見積もられているし、雑音との区別もつけやすいからである。そのため、最初に見つかる重力波は連星中性子星からのものだろうと予測されていた。
ところが、最初に直接観測された重力波は連星ブラックホール合体によるものだった。これは、多くの重力波研究者たちにとって驚きだったのだ。従って、今回の連星中性子星合体による重力波初観測成功は、予測されていたことが予測通りの結果をもたらしたと云えるだろう。
※らせん軌道を描きながら互いに接近していく。
マルチメッセンジャー天文学とは
中性子星の合体では、ブラックホールの合体とは異なり、様々な波長の電磁波が放射されるので、可視光や赤外線、エックス線、ガンマ線でも観測されることが期待できる。
重力波望遠鏡による観測だけでは、重力波源は大まかな位置しか分からないのだが、電磁波望遠鏡による観測を併せることで波源を特定することも可能になる。
重力波と電磁波で同時に観測することができれば、これまでにない新たな知見が得られることも期待できるのだ。
この重力波と電磁波を同時に観測する手法は「マルチメッセンジャー天文学」と呼ばれる(ということを今回初めて知った)。
電磁波による追跡観測で重力波源からの光を初観測
LIGO-VIRGO共同研究グループは、重力波検出後、ただちに全世界90以上の天体観測装置に対してアラートを送信。
連絡を受けた世界70カ所以上の天文台がその方角を観測、合体で出た可視光や赤外線、エックス線、ガンマ線を捉えた。
日本のJ-GEM(重力波追跡観測網)もただちにハワイのすばる望遠鏡などで観測を始めた。J-GEMは、重力波天体からの可視光を捉えるプロジェクトである。
こうした世界的な探索の結果、銀河NGC4993近傍で新しい星が検出された。重力波天体が特定されたのである。
また、J-GEMによる赤外線データの分析から、中性子星合体は、キロノバと呼ばれる現象を引き起こしたことが確認された。キロノバは、金などの重元素が合成される重要な過程と考えられている。
GW170817のキロノバの想像図(国立天文台)
重たい原子の起源
天文学における大きな謎の1つとして、重たい原子はどうして生成されたのか、ということがある。
初期宇宙では、水素・ヘリウム・リチウムという軽い原子しかなかった。その後、恒星が誕生して、恒星内部の核融合反応によって、炭素・窒素・酸素といったより重い原子が生成された。ところが、恒星内部の核融合反応では、鉄よりも重い原子は生成されない。鉄よりも重たい重元素は、超新星爆発で生成されると考えられていた。
「r過程」とは
超新星爆発の際には「r過程(r-process)」と呼ばれる反応が起きると考えられている。これは、原子が中性子を1つ捕獲し、すぐに電子を放出することによって、原子番号が1つ上がる、という反応である。これが連続的に進むと、鉄よりも原子番号が大きい原子が次々とできあがっていくのである。
ところが近年、それだけでは現存する重元素の量を説明しきれない、という問題が明らかになった。そこで、注目され始めたのが、連星中性子星の合体現象なのである。
※r過程のrは「rapid」のr。他にs過程がある。sは「slow」のs。(詳しいことはよくわからない)
短ガンマ線バーストとは
ガンマ線バーストは、ごくわずかな時間(数秒から数時間)に太陽の質量エネルギーに相当する莫大なエネルギーがガンマ線として放出される爆発現象で、天文学の分野で最も光度が高い物理現象と云われている。
2秒よりも長い時間輝く「長ガンマ線バースト」は、「極超新星」が起源とする説が有力になっているという。
一方、2秒よりも短い時間輝く「短ガンマ線バースト」は、連星中性子星の合体が有力であると考えられている。
今回、重力波到達の2秒後に小規模なガンマ線バーストが地球を周回する2つの人工衛星によって観測された。これは、短ガンマ線バーストの謎を解く上で大きな意味を持つという。
キロノバ(キロノヴァ)とは
夜空に突然明るく輝く新星のうち、超新星(supernova)よりは暗い新星をキロノバ(kilonova)という。キロノヴァとも表記される。白色矮星の爆発によって生じる新星(nova)よりも1000倍程明るいので kilonova と呼ばれる。これまでに、キロノバが短ガンマ線バーストと関連していることが確認されている。そして、短ガンマ線バーストは連星中性子星の合体に起因していると考えられていた。
国立天文台によると、今回、「重力波天体を追跡した天文学者たちは、キロノバを世界で初めて観測的に発見」したという。つまり、今回、キロノバが連星中性子星の合体に起因していることが確認されたのだ。
また、r過程によって生じる鉄よりも重たい重元素が作り出される候補の1つとして、キロノバが考えられていた。今回、中性子星合体でr過程が起こっている証拠を観測的に捉えた。理論的にはレアアースや貴金属が地球の質量の1万倍も生成されると予測されるという。これは、重元素の起源に迫る大きな一歩なのである。
連星中性子星の合体の過程
2つの中性子星がらせん軌道を描きながら互いに接近していく。
➡お互いの重力による潮汐力で変形を起こし、物質をまき散らしながら壊れながら合体する。このとき、放出される物質によってキロノバが起こる。
合体前の潮汐変形から重力波の振幅は徐々に大きくなり合体時に最大になる。
➡中性子星の状態方程式により、いきなりブラックホールになる場合もあるし、大質量中性子星になる場合もある。今回は、大質量中性子星になったと考えられる。
➡重力波を放射することで自転速度が低下すると遠心力が弱まり、最終的には重力崩壊してブラックホールになると考えられる。
➡まき散らされた物質は、r過程を起こして重元素の生成を進める。
回転軸方向にはジェットが噴き出し、物質の雲を突き破り、ガンマ線バーストとなる。
ジェット以外の方向では、放射されたエネルギーがより外側の物質に吸収されてはまた放射されて、ということを繰り返し、しばらく時間を経てから外周部に到達する。
その頃にはエネルギーを失っていて、電磁波として放射される。
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📄関連日記
📄参考
🔘重力波天体が放つ光を初観測:日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場 ―重力波を追いかけた天文学者たちは宝物を見つけた― | 国立天文台(NAOJ)
🔘連星中性子星合体からの重力波が初検出されました | ニュース | 国立天文台 重力波プロジェクト推進室
🔘観測成果 - ―日本の望遠鏡群が捉えた重元素の誕生の現場― - すばる望遠鏡
🔘米欧、中性子星の合体による重力波の初観測に成功 - 日本も追跡観測で成果 | テクノロジー | マイナビニュース
🔘NASA — When Dead Stars Collide!