九月の読書録07ーーーーーーー
聖なる怠け者の冒険
朝日文庫(2016/09/30:2013)
1609-07★★★
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🐱吾輩は猫のごとくゴロゴロするのが好きな怠け者であるが、この小説の主人公の小和田君も筋金入りの怠け者である。小和田君は社会人2年目の京都郊外にあるケミカルな研究所に勤める理系男子。週末は独身寮の万年床で苔むした地蔵のごとくゴロゴロしたがる。
🐱そんな小和田君を何かと外に連れ出そうとする恩田先輩には桃木さんというステキな恋人がいて、二人は休日を徹底的に活用することに血道を上げている。
🐱研究所の所長である後藤氏は、夜の祇園を歩けば確実に道行く誰もが避けて通るスキンヘッドの強面であるが、小和田君には充実した休日を過ごすことを説く部下思いの所長である。
🐱一方、京都の街には「ぽんぽこ仮面」というアホなネーミングの怪人が登場し、困っている人々を助けては感謝されていた。ぽんぽこ仮面は八兵衛明神の使いを自称しているが、その正体は謎に包まれている。
🐱ところが、アルパカそっくりの謎の男「五代目」が登場し、ぽんぽこ仮面の確保を探偵浦本に依頼する。浦本探偵は、世界でもっとも怠け者の探偵であるが、天才的手腕を発揮し、これまでに数々の珍妙な事件を解決しているのだ。
🐱そんな浦本探偵事務所で助手のバイトをしている女子大生の玉川さんは、週末探偵として冒険に憧れているが致命的に方向音痴であるというキュートな残念さんである。浦本探偵曰く、
「迷えるときに迷えるのも才能」
🐱祇園祭宵山の京の街をぽんぽこ仮面を確保するために「大日本沈殿党」「閨房調査団」「テングブラン流通機構」「土曜倶楽部」などの謎の組織が入り乱れ蕎麦が舞い上がる。果たしてぽんぽこ仮面の運命は如何に。惰眠をむさぼる小和田君は本当に主人公なのか。聖なる怠け者の前に立ち塞がるラスボスは何者なのか。
「えんとろぴ? えんとろぴってなんだよ。それ、怖いやつ?」
🐱この作品は最初は新聞に連載され、単行本化にあたって全面的に改稿、さらに文庫化の際にも大幅に修正されたもので、作者にとって「手のかかる子」だそうだ。本書は相変わらずの森見ワールドが展開されているが、過去の作品を超える水準では無いかなあ。森見作品を読んだことの無い人には、あまりお薦め出来ないかも。森見氏も作家として正念場を迎えつつあるのかなという印象。これしか書けないのか、これしか書かないのか。新境地も見てみたいと思うのだが。
🐱さて、本書のテーマは何だったのだろうか。別に深刻な小説ではないからなあ。「休日に怠けたっていいじゃない。そこから、ささやかな冒険が始まることもある」というところだろうか。生きてるだけでも人生さ。
🐱ぽんぽこ仮面は人から感謝されることに喜びを感じて善行中毒になっている。人間というのはどこかで他者とつながりたいと思うように出来ているものだし、できれば、好かれたいし、感謝されたい。それは単なるエゴかもしれないが、それで世の中が少しでも明るくなればいいじゃないか。という真面目な話ではないな、この小説は。
🐱最果タヒが最果タヒ.blog 2016-09-26「ネットがあるなら共感はいらない」で、ブログを読んでもらえるのはうれしいけれど共感までして欲しいとは思わない、というような意味のことを書いているが、まあそうかなあ。共感があれば嬉しいだろうけどね。誤解も共感の内だしね。共感を期待したり強要したりしたら駄目だな。逆だってあるだろうし。人間は無関係な人間に対しては案外冷酷だからな。適度な距離感。その程度のつながり。
「私は私であり、あなたはあなたである」
🐱因みに、八兵衛明神は柳小路に実在します。小さな社です。狸がいます。画像は下の方にあります。それにしても、ゴージャスさんには一度お会いしたいものである。
「転がらない石には苔がつく。やはらかくなろう」
退屈で退屈でイヤになるぐらい怠けなければ、働く意欲なんか湧くもんか。
「アア、僕はもう有意義なことは何もしないんだ」
「人事を尽くさず天命をまつ」
あねごぶっかくたこやくし
「僕は怠けるためには何でもする」
「それでもカブは抜けません!」
「眠ろうという意志さえあれば、僕はいつでも眠れる」
「我々は人間である前に怠け者です」
聖なる怠け者とは、人に畸にして天にひとし、無用の用の人である。
😺 柳小路の八兵衛明神。小さい路地なので、玉川さんみたく迷わないように気を付けて探してみよう。🐥