森の踏切番日記

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後藤又兵衛という漢

12月の読書録03ーーーーーーー

 後藤又兵衛

 麻倉一矢

 学陽書房人物文庫(2013/05/08:1994)

 1612-03★★☆

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🐱この本は、ブックオフ・オンラインでたまたま見つけた。108円だったので、ついでに買って読んでみた。元々のタイトルは『一本槍疾風録』で、1994年に祥伝社ノン・ポシェットから刊行された。それが、2014年の大河ドラマ軍師官兵衛』に関連して復刊されたようだ。


 

🐱本書の内容は、大坂夏の陣における道明寺の戦いで小松山に陣を敷いた後藤又兵衛が、戦の合間に近習長澤九郎兵衛の求めに応じて、自分の人生を振り返るという形式で書かれた時代小説である。後藤又兵衛ものとしては、だいたい一般的な内容かと思われる。

 


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NHK大河ドラマ軍師官兵衛』より

 

 

🔘あらすじ

後藤又兵衛基次は、永禄3年(1560)、播磨の生まれである。黒田官兵衛孝高に仕えるまでの人生は諸説あるようだが、本書では、後藤家は別所氏の家臣であったが、天正8年(1580)、羽柴秀吉が三木城を攻めて別所氏を滅ぼした後、官兵衛に見込まれて、仕えるようになったという設定になっている。

 

▶その後、八つ年下の黒田長政と兄弟同様の付き合いが続き、通説通り、朝鮮の役や関ヶ原の合戦での戦功や長政との確執などの有名なエピソードが描かれている。

※この辺りのエピソードはWikipediaが詳しいです。

後藤基次 - Wikipedia

 

▶黒田家を出奔した後は、細川忠興福島正則池田輝政の元を渡り歩くが、黒田長政からの刺客との対決あり、出雲の阿国との濡れ場あり、宮本武蔵との出会いありといった、通俗的な時代小説らしい内容となっている。

 

▶流れ流れて京にたどり着いた又兵衛は、本阿弥光悦と知り合ったり、鴨川の河原でホームレス生活をしたり、出雲の阿国といちゃついたり、刺客やならず者を懲らしめたり、松平忠輝と将棋を指したりするが、刺客が関係の無い阿国の一座の役者を殺めたことで京を離れることになる。

 

▶大坂、堺を経て熊野古道に分け入った又兵衛は、ある村で村人を助けた事がきっかけでその村の用心棒となるが、そこにも刺客の手が伸び村人に迷惑がかからないように、またしても流浪の旅に出る。

 

▶そんな又兵衛に、今度は藤堂家が声を掛けるが又兵衛は丁重に断る。乞食に身をやつしながらも武士であることをやめることが出来ない又兵衛は、伊賀上野から高野山へと向かい、そこで阿国と再会する。

 

▶又兵衛は、阿国の仲介で九度山に蟄居する真田幸村と知り合う。阿国はどうやら幸村に相当入れあげている模様である。又兵衛は幸村に対してあまり良い印象を持たなかったようである。本書では幸村は信濃の名将真田昌幸の子として又兵衛より格上に描かれているのだが、その傲岸さが又兵衛には気に入らなかったようだ。

 

▶ところが、徳川方の藤堂家への仕官を断り豊臣方と見られる幸村と面会したことで、又兵衛は、徳川方から、豊臣家についたと見なされ、徳川方の刺客に命を狙われる羽目に陥る。ここに至って又兵衛は、もはや己の進む道が、大坂城しかないことを悟る。

徳川を敵に回して、生き残る方法は、徳川そのものを倒すより無いのである。

 

大坂の陣における又兵衛については、概ね通説通りである。ただし、幸村との確執が強調されている。冬の陣では、又兵衛と幸村との出丸の本家争いがあった。これは、通説通り又兵衛が、真田本家との内通が噂され立場の悪い幸村に出丸を譲る形で決着している。夏の陣では、主戦場をどこに求めるかで対立する。幸村は四天王寺周辺を主張し、又兵衛が小松山を主張するのだが、大野治長が両方に兵を置くという折衷案を採用して決着する。これは、少ない兵力を更に分割するという愚策である。

 

▶後は通説通り、徳川方の調略で又兵衛寝返りの噂が大坂城内に広がり、又兵衛は武士の誇りをかけて潔白を示そうとして道明寺の戦いに臨む。道明寺の戦いにおける徳川方の動きに少し納得のいかない部分があるが許容範囲内か。

 

◾作者の想像力で自由に描ける放浪時代は、まあまあ楽しく読めたが、通説に従っている箇所は、もう一つキレが悪い感じがした。昭和時代の時代小説の平均的な作品という印象である。

 


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NHK大河ドラマ真田丸』より

 

 

🔘後藤又兵衛の属性

後藤又兵衛をフィクションで描く場合、二つの属性が必要条件になると考えられる。

 

▶一つは、黒田長政との関係である。小説では、だいたいにおいて、又兵衛の側には屈託がなく、長政は憎らしい気持ちと慕わしい気持ちがせめぎ合うことになる。長政は又兵衛に刺客を送りつつも、又兵衛が刺客にやられるわけが無いと思っている。そこにねじれた感情がある。そして、夏の陣において、いよいよ又兵衛を失う事が確実となったとき、「自分の心に占めていた又兵衛の大きさ」を自覚し、喪失感に呆然とするのである。

 

▶今一つは、記録に残る後藤又兵衛の思想である。

軍法は聖人賢人の作法にて、常々よく行儀作法をいたし、大将たる人は臣に慈悲深く慾を浅く士の吟味よく召され候え。

(『城塞』司馬遼太郎

これと同様の文章は、本書でも取り上げられている。少なくともこれを描かなければ、後藤又兵衛を描いたことにはならないであろう。単なるアニキキャラの暴れん坊ではないのだ。

 


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NHK大河ドラマ真田丸』より 

 

 

◾小松山で後続の真田隊が来ずに焦る兵達を又兵衛が励ます言葉

「いいか。勝敗は、負けると思った時が負けになる。戦さ場では、最後まで勝ちを信じることだ」

 

「落ち込むな。人生、救いのないように思える時はあるものだ。だが、希望を捨てるな。たとえ希望が見えなくとも、次には予想もつかない好機が訪れるものだ。己を捨てるな。人は刻一刻を大切に生きれば天が味方しよう」

 

「己を貫くことさえ考えておれば、人生の浮き沈みなど、どういうことはない。どん底とは、己を失った時こそがどん底になるのだ」

 

◾最後の突撃の前に又兵衛が兵達に語りかける言葉

「儂がこの戦さに加わったのは、豊臣家への恩のためでも、徳川への怨みからでもない。儂は乞食まで身を落としたが、骨の髄まで武士であることを思い知った。武士は己の本分を貫くために死ぬ。それが儂の、何ものにもとらわれず生きてきた最後の証しだ」

 

「無駄死にだけはするな。最後まで命を大切にせよ。いずれまたあの世とやらで会おうぞ」

 

「勝敗は問題ではない。生死も問題ではない。武士として己を貫き、悔いのない戦いをすることを心がけるのだ。全ての命をこの一瞬に燃やせ。その命の炎の高さを、後々の語りぐさにしようぞ 」

 

◾本書を読んでいちばん笑った出雲の阿国の言葉

「ひと思いに又兵衛さまの槍で突かれたい……」

😽ギャハハハ。昭和やなあ。

 


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NHK大河ドラマ真田丸』より 

 

 

🔘真田幸村の「義」

🐱ここで、真田幸村の「義」についてもう一度考えると、幸村は大谷吉継の娘を正室に迎え、豊臣秀吉の馬廻り衆をつとめていたのだから、関ヶ原の合戦において西軍につくのは自然な事だったのだ。これは、二者択一の自由があった父昌幸とは事情が異なる点であると思う。

 

🐱大坂の陣においても、幸村は豊臣家には「義」があっても、家康に対しては何の「義」も無いのである。従って、ここでも幸村が豊臣方につくのは自然な事だったのだ。これは、毛利勝永も同様だと考える。

 

🐱ここが、後藤又兵衛とは異なる点であると思う(『城塞』では、又兵衛は戦いの場を与えてくれた豊臣家に感謝し恩義に報いるとしている)。豊臣家に対して「義」の無い長宗我部盛親明石全登が自害せずに逃亡したのも自然なことである。

 

🐱それ故に、大河ドラマ真田丸』最終回において、幸村と家康が対峙した場面で家康が幸村に対して言ったセリフは、権力者の理屈ではあっても幸村の事を正しく指摘はしていないのである。また、幸村のセリフも現代的に解釈しすぎであり、幸村の立場を正しく説明しているとは思われないのである。

 

🐱また、幸村が家康の首を狙いながらも、千姫による茶々・秀頼の助命嘆願を画策するというのも矛盾した行為であると考えられる。助命嘆願には家臣の切腹が前提となるはずだが、少なくとも治長とは相談すべきであるし、勝手に切腹してよいというものでもない。全体的に幸村の行動には一貫性が無いように思われた。

 

🐱『真田丸』における幸村の最期については、『あしたのジョー』的な最期を期待していたのだが、残念な結果に終わった。何も切腹と決めつけてしまわなくてもよかったのにと思う。「どんな終わり方をしても」という幸村が内記に言ったセリフが言い訳がましく聞こえた。🐥

 

 

 

 

 

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