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森の踏切番日記

人生LARKしたい

『ビブリア古書堂の事件手帖7』の感想

3月の読書録02ーーーーーーー

 ビブリア古書堂の事件手帖

 ~栞子さんと果てない舞台~

 三上延

 メディアワークス文庫(2017/02/25)

 1703-02★★★☆

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ビブリア古書堂の事件手帖7 ~栞子さんと果てない舞台~ (メディアワークス文庫)

ビブリア古書堂に迫る影。太宰治自家用の『晩年』をめぐり、取り引きに訪れた老獪な道具商の男。彼はある一冊の古書を残していく───。

奇妙な縁に導かれ、対峙することになった劇作家ウィリアム・シェイクスピアの古書と謎多き仕掛け。青年店員と美しき女店主は、彼女の祖父によって張り巡らされていた巧妙な罠へと嵌まっていくのだった……。

 

 

🐱《ビブリア古書堂の事件手帖》シリーズ第七巻で完結編となる本書は、物語内の時間で2011年7月下旬の出来事が描かれている。作中、五浦大輔は前作で大怪我をして40日休んだとあるので、曜日から推測すると、23日(土)から29日(金)までの一週間に起こった出来事ということになる。エピローグは、その数日後のビブリア古書堂の定休日ということなので、8月1日か8日の月曜日だろう。シリーズ第一作目で、五浦大輔が祖母の遺品の『漱石全集』をビブリア古書堂に持ち込んだのが、2010年の8月の暑い盛りの日曜日とあるので1日か8日だろう。つまり、本シリーズは、ちょうど一年間の出来事を描いたことになる。

 

 

🐱これまでの経緯を簡単に振り返ると、大学を卒業しても就職が決まらなかった五浦大輔は、本シリーズの始まる前の2010年6月の雨の日に石段から転げ落ちて後遺症の残るような大怪我をして入院中だったビブリア古書堂の若き女店主篠川栞子と知り合う。大輔は、ビブリア古書堂で働くことになり、太宰治の『晩年』の稀覯本をめぐる事件の結果、一度は店を辞めるが再び戻る。

🐱五浦大輔は、過去の体験から本が読めなくなったという特異体質の持ち主だが、本に対して憧れに近い興味がある。一方、栞子の方は、大輔より二歳ほど年上なのだが、極度の人見知りで接客業向きではない。ただ、本の話題になるとスイッチが入り優れた推理力を発揮して、店に持ち込まれた古書にまつわる謎を解決する。大輔がワトスン役を務めることになるのだが、二人は互いに欠点を補い合う事ができるという点で似合いのカップルであり、当然のごとく二人は惹かれ合う。

🐱本シリーズの大きな流れとしては、太宰治の『晩年』の稀覯本をめぐる事件があり、一方で、十年前に家出をして姿をくらませた栞子の母親・智恵子と栞子との間の確執がある。第2巻、第3巻では話題の中に出ていただけだった智恵子は、東日本大震災後の2011年4月(第4巻)に栞子と大輔の前に姿を現し、ストーリーが大きく転換する。大輔と栞子の仲も進展し、大輔が正式に栞子に告白したのが、この4月の江戸川乱歩にまつわる事件の後である。

🐱栞子が大輔に返事をして二人が正式に付き合い始めるのは、5月の終わり(第5巻)のことである。栞子も大輔が大好きなのだが、母親の二の舞を演じないか不安があり返事が遅れたようである。この一ヶ月間、大輔は生殺しであった。

🐱そして、6月(第6巻)には、再び太宰治の『晩年』の稀覯本の事件が蒸し返される。ここで、栞子の祖父・聖司が修業した古書店久我山書房の店主・久我山尚大(故人)という脅迫まがいの取り引きも厭わない危険な人物の存在が明らかにされる。彼は、『晩年』の事件にも智恵子の件にも関わりがあり、全てを繋ぐキーパーソンである。6月の『晩年』にまつわる事件には、久我山尚大の遺族が関係している。また、第1巻で登場した大輔とも奇縁のある人物が再登場する。この事件のため、奇しくも栞子が大怪我をした同じ石段で、ちょうど一年後に大輔も転げ落ちて大怪我をする。

🐱そして、本書である。本書では、久我山尚大と栞子との関係が明らかになり、智恵子が家族を捨ててまで探していた本の存在も明らかにされる。また、音信不通だった智恵子の母親、久我山書房で書生兼番頭をしていた過去を持つ男・吉原喜市が登場する。

🐱こうして、シリーズ全体を振り返ってみると、物語の構成がファンタジーに近いという印象を持つ。剣も魔法も出てこないが人間関係とかストーリーの展開などがファンタジーぽい感じがするのだ。特に第6巻で、それを強く感じた。

 

 
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🐱今回登場する古書は、完結編ということもあり、超大物のシェイクスピアのファースト・フォリオである。去年はシェイクスピア没後400年だったので、シェイクスピアに関する一般向け解説本を読んでいたこともあり、本書の内容がすんなりと頭に入ってきて読みやすかった。

🐱シェイクスピアの時代のイングランドの宗教事情は複雑で、イングランド公認の宗教はイングランド国教会であり、カトリック教徒は弾圧されていた。シェイクスピア自身も家族もカトリック教徒であり、シェイクスピアの周囲でも逮捕され処刑される人も出たという。当時のイングランドの処刑はかなり残酷なものであったらしい。シェイクスピア作品は、そういった時代背景を踏まえて読まなければならないのだそうだ。本書で取り上げられた『ベニスの商人』もカトリック教徒のシェイクスピアが書いたことを踏まえて読むと理解が深まると思う。シェイクスピア作品は奥が深いので、知ったかぶりはこれくらいにしておこう。

🐱本書のミステリの方は、三冊あるシェイクスピアのファースト・フォリオの内一冊は本物かもしれない、果たしてどれが本物か、それとも、全て偽物なのかということなのだが、トリック自体はオーソドックスなもので、ヒントも公平に書かれているので分かりやすいかもしれない。ただ、ワトスン役の五浦大輔がうまくミスリードするし、話の展開が面白いので、うっかりするとミステリの方を忘れてしまいそうになる。

🐱本書のクライマックスは、この三冊のファースト・フォリオをめぐり、智恵子と栞子の母子がオークションで競い合うところである。東日本大震災後、売れ行きが伸び悩んでいる上に様々な事情で出費がかさみ経済的に苦しい状態にあるビブリア古書堂が全財産をかけてオークションに臨み、果たして本物のファースト・フォリオを手にすることが出来るかということで、ファンタジーなら剣や魔術で戦うところを現ナマで戦うわけである。

🐱全体的にオーソドックスな展開で、読了して特に感慨があるわけでも無いのだが、エンタテインメントとしては十分な内容で楽しく読み終えた。

🐱シリーズ全体を通しても、古書をテーマにしたミステリを世間に広めた功績は大きいと思う。個人的には、江戸川乱歩を取り上げた第4巻が気に入っている。本シリーズの成功を受けて、マニアックな知識を持つ変人が主人公のキャラミスがやたら増えたように思うが、本シリーズを超えるものは見当たらないのではないだろうか。

🐱あとがきによると、本編はこれで完結だが、番外編やスピンオフはまだまだ続くそうであり、楽しみなことである。

 

 

 

 

 

 

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