森の踏切番日記

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地上の暮らしは大変なのだ~『ウニはすごいバッタもすごい』を読んで

7月の読書録05ーーーーーーー

 ウニはすごいバッタもすごい デザインの生物学

 本川達雄

 中公新書(2017/02/25)

 ★★★★

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一般向けの科学解説書を割とよく読む方なのだが、分野に偏りがあって、数学、物理学、天文学関係の本を読むことが多い。化学についてはもうウンザリという気持ちなのだが、生物学については遺伝子とか進化とか生態系とか興味深い話題があるので、たまに読みたくなる。今回は、久し振りに生物学関係の本を読んでみた。

 

著者は、歌う生物学者として有名な本川達雄東京工業大学名誉教授。一般向け科学解説書も数多く出版されていて、『ゾウの時間ネズミの時間』(中公新書)が最もよく知られているだろう。随分前に読んだ覚えがあるが、本書でも「サイズの生物学」に基づいた解説があり、再読してみたくなった。

 

本書では、地球上の様々な環境に棲息する様々な動物の世界が紹介されている。現在知られている動物の種の数はおよそ130万もあるそうだ。そのうち脊椎動物は約6万種で全体の5%にも満たないという。大半の動物は無脊椎動物なのだ。本書で紹介されている動物もほとんどが無脊椎動物である。すごいのはウニやバッタだけではない。本書は、地球上のあらゆる動物がそれぞれにすごいのだということを教えてくれる本である。

 


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第1章では刺胞動物門に属する動物が紹介されている。刺胞動物門には、イソギンチャク、サンゴ、クラゲ、ヒドラなど約9000種の動物が属する。ここでは、サンゴ(造礁サンゴ)について詳しく解説されている。驚くべきことに、サンゴは褐虫藻と共生することにより無駄のないリサイクルを達成しているのだという。また、栄養の乏しい熱帯の海であれだけ多様な生態系を可能にしているのもサンゴ礁のおかげだという。ところが、サンゴと褐虫藻の共生関係は微妙な温度変化で破綻してしまうのだそうだ。それが白化現象なのだという。地球温暖化が生態系に深刻な影響をもたらすことがよく理解できた。

 


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サンゴ。英語では coral. 

サンゴ礁は英語では coral reef.


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ソフト・コーラル(soft coral)

 

 

第2章では節足動物門に属する動物が紹介されている。動物の中で最も種の数が多いのが節足動物門に属する昆虫で、約100万種もいるという。生物全体でみても昆虫が半数を占めるそうだ。個体数でみても昆虫が生物の中で一番多いという。つまり、地球上で最も繁栄し成功しているのは、人類ではなくて昆虫なのである。節足動物門には他に、エビ・カニ・フジツボ、ムカデ・ヤスデカブトガニ・クモ・サソリ、絶滅した三葉虫の仲間が属している。

 

ここでは、昆虫が何故地球上で大成功し繁栄しているのか、その秘密が詳しく解説されている。中でも印象的なのが、クチクラの外骨格である。軽量かつ丈夫で高機能、細い脚でも折れないし、薄くのばせば羽を作ることもできるという優れものである。人間の骨は無機物(炭酸カルシウム)だが、クチクラは有機物であることも興味深い。また、昆虫の飛翔や跳躍のメカニズムについての解説も興味深かった。特にレジリンというほぼ完全弾性体に近い性質を示すタンパク質は興味深い。

 

昆虫と被子植物との共進化についても解説されている。動物の種の7割以上が昆虫であり、全光合成生物の約7割が被子植物なのだが、このような多様性は両者の共進化により生じたものであるという。昆虫は、甲殻類(エビ・カニなど)から進化したと考えられているそうだが、このように進化し得たのは陸上に進出したからであり、それを可能にしたのがクチクラなのである。昆虫の大繁栄はクチクラのおかげと言っても過言ではない。昆虫はすごいというか、クチクラは本当にすごいと思う。

 


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バッタ。英語では grasshopper.

 

 

第3章では軟体動物門に属する動物、つまり、貝の仲間を取り上げている。ナメクジ・カタツムリ、イカ・タコも軟体動物門に属する。全動物中、節足動物に次いで種類が多く、約10万種の現生種がいるという。

 

ここでは、一般的な軟体動物の特徴と軟体動物がどのように進化してきたかが詳しく解説されている。貝の殻の巻き方がなぜ対数螺旋なのかという話も出てくる。台風や銀河などの巻き方も対数螺旋になっていて自然界にはよく出てくる図形である。殻が退化した頭足類(イカ・タコ)の話はこの種の本ではよく出てくる話題だが、二枚貝についてはかなり専門的な解説になっている。特に著者の専門であるキャッチ筋という筋肉の解説が詳しく興味深い。

 


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対数螺旋の中でも最も美しい黄金螺旋。各正方形の辺の比がフィボナッチ数列になっている。


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オウム貝。英語では nautilus.

 

 

二枚貝が殻を閉じると簡単にはこじ開けることができない。殻を閉じるときに使われる筋肉を閉殻筋といい性質の異なる二種類の筋肉でできている。一つは素早く縮む筋肉でもう一つがキャッチ筋と呼ばれる特別な筋肉である。このキャッチ筋は、縮む速さは遅いが長時間にわたり疲れずに殻を閉じておけるのだそうだ。しかもエネルギー消費量が極端に少ないという優れものである。これはタンパク質の分子構造に秘密があるようだ。キャッチ筋に限らず、生物が様々なタンパク質を巧みに利用していることには驚嘆させられる。

 


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ウミウシも軟体動物。殻を脱ぎ捨てた巻き貝の仲間。英語では sea slug「海のナメクジ」

 

 

第4章第5章では棘皮動物門に属する動物が紹介されている。棘皮動物は、ウミユリ、ヒトデ、クモヒトデ、ウニ、ナマコの五つの仲間が約7000種いる。著者は、棘皮動物を40年以上研究してきた棘皮動物の専門家だけあって、棘皮動物には思い入れが深いようだ。小学6年の時にヒトデを濃硫酸液に入れてみたことがあるのだが、あの時はすごいことになった。そんなことを思い出した。(けしてマネをしないように)

 


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ヒトデ。英語では sea star.

 

 

第4章では棘皮動物の進化と特徴について詳しく解説されている。棘皮動物のユニークな特徴として、星形(五放射相称形)、管足、皮膚内骨片、キャッチ結合組織、低エネルギー消費の五つが挙げられている。本章では、特に五放射相称形について取り上げている。ヒトデだけでなくウニやナマコも基本は五放射なのだそうだ。ヒトデをふくらませて球体にして管足が棘になったものがウニで、ウニを上下に引き伸ばして横に寝かせたものがナマコであると考えると分かりやすいらしい。

 


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ウニの殻。五放射相称形なのがよくわかる。放射状に伸びている5本のクネクネを歩帯という。

 

 

一般に動物は左右相称の細長い体を持っているが、これは海で進化した動物が素早く運動するのに適した形だからであり理にかなっている。一方、動かない生物は放射相称形なのだ。その方が色々利点があるようで、やはり理にかなっている。棘皮動物の先祖はウミユリのように固着生活をしていたので自由生活に進化しても放射相称形が名残で残ったという。それでは何故、三でも七でもなくて五放射なのか、その考察が面白かった。

 


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ウニ。英語では sea chestnut「海の栗」

 

 

第5章では棘皮動物の残りの特徴について解説されている。特に著者の専門であるキャッチ結合組織については詳しく専門的な解説になっている。結合組織というのは、例えば靭帯が骨と骨をつなぐように、二つの組織を結合する組織のことをいう。性質はキャッチ筋と同様である。ウニもヒトデもナマコも筋肉とキャッチ結合組織を上手く使って体を硬くしたり軟らかくしたりする。それによって外敵から身を守ったり餌にありついたりしている。

 

棘皮動物はどれもユニークだが、特にナマコのユニークさが際立っている。著者によると、ナマコの筋肉量は体全体の7%と少ない。それに対して結合組織は60%もあるという。哺乳類の場合は体重の半分近くが筋肉で、結合組織はその3分の1しかない。ナマコの場合は、表皮と筋肉の間の真皮と呼ばれる分厚い部分がキャッチ結合組織になっているので、真皮が体の半分以上を占めているということである。つまりナマコは「皮ばかりの生きもの」なのだ。

 

ナマコやヒトデをつかむと固くなるのはキャッチ結合組織の働きである。固くなったナマコをしごくと、ナマコが溶け始める。著者が琉球大学に赴任した時にこの性質を知って疑問を感じたことがナマコに深入りするきっかけになったそうで、ナマコが固くなったり軟らかくなったりするメカニズムが詳しく解説されていて面白かった。

 

ヒトの場合、筋肉が使うエネルギーは体全体の3分の2にも達するという。筋肉が少ないナマコは、エネルギー消費量が少なくてすむということになる。しかも、キャッチ結合組織は筋肉の10分の1しかエネルギーを消費しないという。棘皮動物は他の動物よりも極端に省エネな動物なのだ。そもそも、あまり動かないし。従って、摂取するエネルギー量も少なくてすむということになる。ナマコは、砂に付着した有機物やバイオフィルムを砂ごと丸のみすることで栄養を賄っている。それで十分なのだ。海底の砂の上に住んでいるナマコは、食糧の上に住んでいるようなものだ。皮ばかりで栄養が少ないからナマコを狙う物好きな捕食者はほとんどいない。食べ物の上で日がな一日ゴロゴロしていて食われる心配もない。まさにお気楽極楽な生活である。羨ましい。

 

棘皮動物には脳がない。心臓や血管系も肺も眼もない。そんなものが無くても生きていけるように進化したのだ。棘皮動物には中心になる器官が存在しない。著者はこれを「地方分権型」の戦略だと解説している。これに対して、運動指向型の動物は「中央集権型」なのだ。脳がないということは、幸せも不幸せも感じないということか。生きるということは何なのか、ちょっと考えさせられる。

 


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ナマコ。英語では sea cucumber「海の胡瓜」

 

 

第6章と第7章では脊索動物門に属する動物が紹介されている。脊索動物門には約6万種の動物がいて、頭索動物亜門(ナメクジウオなど、約30種)、尾索動物亜門(ホヤなど、約3千種)、そして、我々が属する脊椎動物亜門の3つの亜門に分かれている。これらの動物に共通する特徴は脊索をもつこと。脊索とは、体の正中線の背側に前後に走る棒状の支持器官(体を支える器官)のことである。著者はこれを「細長い風船にパンパンに水を詰め込んだものをイメージすればいい」と解説している。脊椎動物の場合は、発生の過程で脊索は脊柱に置き換えられる。脊柱は、硬い骨でできた脊椎骨が、関節を介して連結し柱状になったものである。ここまでくると、自分の身体を考えればよいので分かりやすくなる。

 

第6章では、ホヤを例に尾索類について、その特徴が解説されている。著者によると、ホヤは「急須のようなもの」だと考えればよいそうだ。ナマコもユニークだが、ホヤもまたユニークな動物である。よく似た環境下では、よく似た形態の生物が進化するようなので、宇宙の何処かにナマコ型宇宙人とかホヤ型宇宙人とかが存在するかも知れない。そんな阿呆なことを考えてしまった。

 

ホヤ(尾索類)の最大の特徴は群体をつくることだろう。群体とは、無性生殖で増えた個体どうしの体の一部がつながったままになっているもののことをいう。群体になる動物は他に、刺胞動物のサンゴや曲形動物のウミウドンゲなどがいて、ほとんどが固着性の濾過摂食者であるという。これらの動物は、個体としては成長せず群体として成長するという。群体をつくる方が生き残り戦略上何かと有利なのである。著者はこれを「連合共和国型」と説明している。

 


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群体ホヤの一種。Wikipedia〈ホヤ〉より。

ホヤは英語では sea squirt「海の噴水器」

 

 

第7章では我々が属する脊椎動物亜門を取り上げている。脊椎動物の祖先は無顎類というアゴのない魚である。無顎類に次いで、アゴのある魚(顎口類)が登場した。そこから進化した最初の四肢動物が両生類である。両生類から爬虫類が進化し、爬虫類から鳥類が進化した。哺乳類は、すでに絶滅した単弓類から進化してきた。単弓類と爬虫類は共通の祖先をもつ。つまり、両生類から単弓類と爬虫類の共通祖先が進化して二系統に分かれたということになる。この辺りは、よく知られた話である。脊椎動物の進化には淡水域が大きな役割を果たしたようである。

 

分類学はややこしくて素人にはよく分からない世界だが、両生類から有羊膜類が分岐して、そこから爬虫類の祖先となる竜弓類と哺乳類の祖先となる単弓類の二系統に分かれたということのようだ。双弓類というのもあるのだが竜弓類の下位グループに属するのだろうか、よく分からない。この辺りはややこしいので本書では深入りしていないのだろう。

 

本書で紹介されている分類では脊椎動物亜門は、無顎上綱と顎口上綱に分かれる。前者は顎のない魚(ヤツメウナギヌタウナギ)で、後者は顎をもつものである。顎口上綱はさらに7つのグループに分かれる。うち3グループが魚類で、軟骨魚類綱(サメ、エイ)と条鰭(じょうき)綱(魚の大半がこれ)と肉鰭(にくき)綱(シーラカンス肺魚)があり、合わせて約3万種いる。脊椎動物の種の約半数は条鰭綱、つまり、一般的な魚である。肉鰭綱の仲間から四肢動物が進化し、両性綱(約6500種)、爬虫綱(約8700種)、鳥綱(約1万種)、哺乳綱(約5500種)の4つのグループに分類される。

 

陸に上がったのは、植物の方が先である。これは光合成するには陸の方が環境が良いからである。次いで、植物を餌とする節足動物が上陸し、さらに節足動物を餌とする四肢動物が上陸した。初期の四肢動物はすべて肉食であるという。陸上に住む動物の大半は、土の中や湿った場所、あるいは他の動物の体内に住むものであり、陸上の様々な環境に順応したのは、節足動物と四肢動物だけだという。

 

著者は、動物にとって陸上が水中に比べていかに生存に不利であるか7項目について比較しているが、水分の入手・乾燥の危険、姿勢維持・歩行、食物の入手と消化、窒素代謝物の処理、生殖・子孫の分散、温度の安定の6項目では、明らかに水中の方が暮らしやすくて、陸上生活で有利に働くのは酸素の入手だけということになる。動物にとって陸上で暮らすということは大変なことなのだ。イルカのように海に戻る連中も出てくるわけである。

 

酸素の入手が容易であるということは、エネルギーをたくさん使えるということであり、それによって恒温動物への進化が可能になった。恒温動物は変温動物に比べて10倍ものエネルギーを消費するという。我々は本質的にエネルギーを多量に消費する存在なのである。ナマコとは大違いである。

 

本章では、四肢動物がいかにして陸上生活に順応していったのか、その工夫が解説されているが、特に「姿勢維持・歩行」と「食物の入手と消化」について詳しい。陸上生活に順応するために骨格がどのように変化していったのかという話は、自分の身体に当てはめて考えることができるので面白い。「魚には首がない」とか「ヒトはこけながら歩く」とか初めて読む話題ではないが、やはり興味深い。筒井康隆の「歩くとき」という短編小説(『エロチック街道』新潮文庫)を思い出して、ちょっと笑った。「歩く」という動作は単純なようで複雑なのだ。あまり考えすぎると歩けなくなる。

 

「食物の入手と消化」についても、舌の発達や消化管の分化など、我々の身体のどの部位をとってみても、長い年月にわたって陸上生活に順応するために進化してきた結果であることが分かる。反芻や共生微生物などよく知られた話題も紹介されている。

 

こうして、様々な動物の進化と生き残り戦略を見てくると、知性は生命にとって必要条件ではないことが分かる。それぞれの動物は、何らかの意図をもって進化してきたわけではない。地球上にこれだけ多様な生物が存在するのは偶然と試行錯誤の賜物なのだろう。まったく気が遠くなるような話である。何故生命は存在するのか。理由など無いのかも知れない。生命や進化については考えれば考えるほどわけが分からなくなる。

 

 


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古典的で一般的な進化の系統樹。人類代表は、チャールズ・ダーウィン。かなり大雑把。

 

 


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ドイツ語の動物の進化の系統樹。ドイツ語なのでよくわからない。

 

動物が卵から発生する際に、まず、ボール状の胚となり、それに原腸ができる。原腸の入口を原口という。原口がそのまま成体の口となっていくものを旧口動物という。本書で取り上げられた中では、刺胞動物節足動物、軟体動物が旧口動物に属する。上図の左下の軟体動物より右側は右上部分を除くほとんどが旧口動物に属する。図の中央辺りはプラナリア、サナダムシ、ミミズ、回虫などが図示されている。他にハリガネムシやワムシやクマムシなどがここに含まれる。

 

一方、成体の口が原口とは別に新たに作られるものを新口動物という。棘皮動物、半索動物、脊椎動物が新口動物に属する。上図の左側の動物が新口動物ということになる。爬虫類と鳥類と哺乳類は、ここでは同じグループになっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

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