12月の読書録01ーーーーーーー
祈りの幕が下りる時
講談社文庫(2016/09/15:2013)
1612-01★★★☆
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🐱本書は、言わずと知れた東野圭吾の「加賀恭一郎」シリーズの十作目にあたる。吉川英治文学賞受賞作である。
明治座に幼馴染みの演出家を訪ねた女性が遺体で発見された。捜査を担当する松宮は近くで発見された焼死体との関連を疑い、その遺品に日本橋を囲む12の橋の名が書き込まれていることに加賀恭一郎は激しく動揺する。それは孤独死した彼の母に繋がっていた。
🐱今回の事件の関係者の一人が加賀恭一郎の知人であり、また、被害者の一人が加賀の母親と少なからぬ縁があることが分かってきて、加賀の人生にも深く関係してくるという点において、興味深い作品である。
🐱加賀シリーズ七作目の『赤い指』では、加賀の父親の臨終が描かれていたが、この時、加賀は父親との約束で、臨終の場に立ち会わなかった。その理由が今回明らかにされる。また、加賀が何故、日本橋署にこだわったのかも明らかになる。
🐱加賀シリーズは、この『赤い指』以降、「家族」あるいは「親子」をテーマにした事件が続いているが、今回もテーマは「家族(親子)」と云ってよいだろう。従って、加賀自身の家族についても掘り下げられるのは必然的である。そこからの流れで、加賀の甥の松宮の家族についても触れられている。
🐱本書の中心となる家族のあり方は、果たして正しいものなのか、親子の絆とは、そのようなものなのか。家族のあり方、親子関係のあり方は、千差万別で家々によって異なるものだから、善悪はともかく、否定は出来ない。
🐱今回、久し振り(『禁断の魔術』以来)に東野作品を読んだのだが、文章の上手さとストーリーの上手さを感じた。ガリレオシリーズは、正直言って、あまり上手いとは思わないのだけれども、加賀シリーズは、作品を追うごとに良くなっている印象である。本作は、さすが吉川英治文学賞に相応しいと思わせる内容だった。
🐱能登の断崖が出てくる事もあってか、松本清張を少し思わせた。本作では、原発作業員の現状を上手く織り込んで、作品に社会性を持たせることに成功していると思う。
「原発はねえ、燃料だけで動くんじゃないんだ。あいつは、ウランと人間を食って動くんだ。人身御供が必要なんだよ。わしたち作業員は命を搾り取られてる。わしの身体を見りゃあ分かるだろう。これは命の搾り滓だよ」
🐱「加賀恭一郎」シリーズ10作品を好きな順に並べてみた。(星は個人的な満足度であって、作品の良し悪しとは関係ありません)
1.『祈りの幕が下りる時』★★★☆
2.『悪意』★★★☆
3.『新参者』★★★☆
4.『眠りの森』★★★☆
5.『麒麟の翼』★★★☆
6.『赤い指』★★★
7.『卒業』★★★
8.『私が彼を殺した』★★★
9.『嘘をもうひとつだけ』★★★
10.『どちらかが彼女を殺した』★★☆