10月の読書録01ーーーーーーー
黒百合
創元推理文庫(2015/08/28:2008)
1610-01★★★☆
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🐱テネシーワルツと「君の名は」(アニメじゃないよ)、この二つの共通点は昭和27年(1952)のラジオ。当時は、まだテレビ放送が始まってなくて娯楽といえば映画。家庭ではラジオが聴かれていたという時代。江利チエミのテネシーワルツが流れ、ラジオドラマ「君の名は」には婦女子が夢中になり、放送時間には銭湯の女湯が空になるという伝説が生まれた。(テレビ放送は翌年から始まる)
🐱本書は、そんな昭和27年の夏、六甲山の別荘地を舞台に描かれたミステリである。
◾登場人物
◎寺元進:中学二年の14歳。東京在住。父の友人に招待されて、夏休みを六甲山にある別荘で過ごすことになる。東京の山の手の良家の息子といった感じ。
◎浅木一彦:中学二年の14歳。父が招待した父の友人の息子・寺元進と知り合う。阪神地区のエエトコのボンといった感じ。ちょっとヤンチャ。山小屋みたいな別荘で両親と進と夏休みを過ごす。母親は別荘で木工細工の玩具を作り、宝急デパートに納めている。
◎倉沢香:中学二年の14歳。芦屋在住で神戸女学院に通うお嬢様だが、気さくな性格で自分から進と一彦の二人に声をかけている。父は既に亡く、母とふたつ上の兄がいる。夏休みを大きな別荘で過ごしている。ちょっとワケありの三つ編み少女。
物語は六甲山の夏の情景の中、進・一彦と香の交流を中心に描かれていく。男子二人に女子一人、当然三角関係になるが14歳なのでかわいいものである。ほのかな恋心とちょっとした小競り合い。
◾昭和十年 ベルリン
宝急電鉄会長兼東京電燈社長である小芝一造(62)の秘書としてベルリンを訪れた浅木父(30)と寺元父(32)は、当地で相田真千子(20)と名乗る謎の女性と知り合う。
◾登場人物2
◎〈六甲の女王〉:六甲山で喫茶店を経営する謎の女性。女王目当ての男性客で店は繁盛している。〈六甲の女王〉は小芝翁の命名。
◎倉沢日登美:香の叔母(亡父の妹)で27歳。ラジオドラマ「君の名は」にはまっている。香の父が死んだ為、元宝急電鉄社員の婿(新也)を貰う。現在ではこの婿が倉沢家の会社を取り仕切っている。香にとっては優しい叔母である。
◾昭和十五年 阪神地区
宝急電鉄で車掌をしている「私」は、ある日神戸女学院の生徒・日登美から恋文をもらい交際を始める。人妻を愛人に持つ「私」は日登美とは別れようと思いながら、プラトニックではあるが、ずるずると交際を続ける。やがて「私」は運転士になる。昭和二十年八月五日、西宮を米軍の空襲が襲う中、日登美との交際を知った日登美の兄がピストルを手に「私」の前に立ちふさがる。
◾登場人物3
◎倉沢貴代司:香の叔父(亡父の弟、日登美の次兄)で31歳。デカダンスを気取っているが、ただの遊び人。会社の実権を妹婿に握られている。ギャンブルにのめり込み多額の借金を抱えている。
◎黒ユリお千:香の父が東京の大学に通っていた頃付き合っていた不良女学生。
◎駒石:倉沢家の運転手。
◾昭和27年8月15日 六甲山
ロープウェイ駅跡で倉沢貴代司の射殺死体が発見される。
🐱作者の多島斗志之は、昭和23年生まれで大阪出身。参考文献から見ても本書を執筆するために、かなり取材をしたものと思われる。
🐱平時の常識は戦時には通用しないというか読み終わって、なるほどなあと納得した。
戦後復興期から高度成長期へと向かう時代の中学生のほのかな恋模様と夏の六甲の美しい風景、そして、謎に満ちた死体。情感あふれるミステリでした。
🐱多島斗志之は、1989年右目を失明。2009年12月19日、京都市内のホテルを出たのを最後に消息を絶つ。左目も見えなくなりつつあり失明するかも知れないので迷惑をかけたくないと書き残している。こっちの方が気になるやん。
📄関連図書
🐱★★★☆
🐱テネシーワルツを上手く使ったミステリと云えば、やはりこれ。1作目、2作目はずっとネタ振りだったとは、恐るべし宮部みゆき。🐥