『城塞』再読(10)
🐱司馬遼太郎『城塞』中巻を再読しております。今回は、家康による神経戦と和平交渉をざっくりと振り返っておきます。
🐱大坂冬の陣のこの年は、近年にない厳冬が続き、野陣を張る関東方将士の困苦は筆舌に尽くしがたいものがあったようだ。兵糧も不足し、一部では士気の低下が見られる程であった。
🐱一方、大坂方は武器弾薬も兵糧も限りがあったし、豊臣恩顧の大名が誰も味方につかないという見込み違いがあった。大坂籠城軍の内訳は、騎馬(将校クラス)一万二、三千・歩兵(下士官クラス)六、七万・雑兵五万だったという。この他に御本丸女中衆が一万人いたそうだ。
🐱家康は、10月下旬には早くも大坂方に和睦を打診していたようだ。11月20日には、本多正純に命じて和睦の書状を送らせている。
🐱大坂方の講和交渉役は、家康に内通していたと云われる織田有楽斎であった。弱気になった大野修理も講和に傾いている。淀殿も条件さえ良ければ講和したいと有楽と修理を急かしているのだが、秀頼は頑なにこれを拒否する。
「和議は、いっさいまかりならぬ」
「大坂城を墳墓にして戦う」
この若者が母親に対して抗ったのは、おそらくこれがはじめてであったにちがいなかった。
🐱『城塞』における秀頼は、温室育ちで世間知らずではあるが阿呆ではない。後藤又兵衛や真田幸村などの牢人衆に刺激され本来の資質が開花したようで日に日に成長している。特に、後藤又兵衛に懐いていて、乳兄弟である木村重成とともに信頼している。淀殿はそれが気に入らない。
◾12月3日
織田有楽斎、秀頼の和睦拒否を家康に伝える。
◾12月4日
真田丸の攻防戦。徳川方は大損害を被る。
※ここから、家康は本格的に和平工作に乗り出すとともに、あの手この手で大坂方、特に、淀殿を心理的に追い込む作戦を展開する。用意周到なところをみると、最初からそのつもりだったものと思われる。
※家康にしてみれば、戦を長引かせたくはないが、短期決戦で損害が大きいのも困る。さらに、大名に手柄をたてられると加増しなければならないから、それも困るということなのだろう。謀略によって、まず大坂城の防御力を無くしてしまうのが最善だったのだ。後は何とでもなるということだろう。
◾家康による心理作戦
- 寄せ手の陣所から大坂城天守真下まで地下トンネルを掘り、そこへ火薬をつめて爆発させようという坑道作戦。そのために諸鉱山から金堀人夫数百人を呼び寄せ、天王寺口の藤堂高虎の攻め口から掘り始めている。現実的ではないが心理効果を狙ったもの。
- 連日、夜中に一刻ほど鉄砲を連射して威圧。女中衆や淀殿に恐怖心を与える作戦。
- 投降を促す矢文を城内に放って城兵たちの動揺を誘う作戦。
- 幸村ら牢人衆が内通し秀頼を誘拐して城を抜け出すという偽手紙を作製 、淀殿と秀頼にだけ見させる工夫をめぐらす(有楽斎を使うしかないと思うが)偽手紙作戦。秀頼が偽手紙であることを見破る。秀頼は書道に明るかったのだ。
- 幸村に対する調略作戦(詳しくは➡炬燵して語れ真田が冬の陣 蕪村 ~真田丸の攻防 - 森の踏切番日記Z)
◾家康がだした講和条件
※『城塞』では、大坂方は南海道のどこかならと妥協するが、豊臣恩顧の藩が多い西国は家康が難色を示し、「安房と上総の二国以外はいかん」と拒否している。
※この間にも小競り合いは続いているが、和議の噂が城内を駆け巡ると士気が下がりはじめる。その中で真田丸だけは、いささかの緩みも見せていない。
「必ず変事がおこる。変事は待つだけではどうにもならぬ。作るのだ。作るためには戦っておらねばならぬ」
◾家康、大筒を準備させる。
鉄砲組の中から大筒(大砲)の名手を三十人選び、城南に一隊、城北の備前島に一隊進出させ、遠く天守閣を狙って撃ち込ませるべく準備させる。
※家康は、国友の鉄道鍛冶を69人引き連れており、五十匁玉の大筒を準備している。射程1500m以上といわれている。他にも、さらに大きい一貫目玉の大筒、英国・蘭国から購入した巨砲も用意している。
──女どもを戦慄せしめよ。
◾12月16日、家康、大坂城に向け、大筒による集中砲火を行わせる。
家康の狙いは淀殿への威嚇であり、片桐且元の指図で、天守閣に最も近い備前島(京橋口)より射撃目標である淀殿の居所を狙って撃ち込ませた。砲弾の一発が淀殿の居間に命中、侍女数名が死傷する。
淀殿は悲鳴をあげ、侍女たちが泣きながら走りさわいだ。
淀殿は激しく狼狽し、有楽と修理に和議を命じるが、秀頼は、
「講和は、無用である」
と、顔色も変えずにいった。
後藤又兵衛が和議の噂を聞きつけ、秀頼に和議に応ずベからざることを説いておいたのである。秀頼は又兵衛を深く信じていた。
▶ここで、有楽が秀頼に「牢人どもはめしのたねがなくなることを怖れて和議に反対している」と注進する。大野修理嫌いの又兵衛は修理が言ったと勘違いしている。何も聞かされていない木村重成は、それを知って憤慨する。
▶又兵衛は和議に反対できなくなってしまったと重成に伝える。
「和議は家康の調略なのだ。場馴れた者なら、駿府翁の肚の中が見えて透けているが、しかしかといってそれに反対すればわれわれは野良犬としてあつかわれる。ついにはめしのたねのために豊臣家をほろぼす者とまで言われる」
▶又兵衛は、このことについて幸村とも話しあっている。幸村はずいぶん思案したあげく、いっそ和議に賛成しよう、と言い出す。今の城内は雑然とし、正邪入り交じってとても戦える態勢ではない。いっそのこと和議に応じて、城内の「邪」を一掃した方が戦いやすいのではないか、というのが幸村の真意である。
▶有楽からしつこく和議を迫られ続けている秀頼は、殿中で評定を開くことにする。又兵衛は牢人諸将を代表して和議に従うことを伝える。ただし、和議のあと、すぐさま幸村を総大将にせよ、と主張する。
🐱こうして、家康の思惑通りに講和会談が始まったのは、12月18日のことであった。
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『真田丸』第45回「完封」の感想
😽全体的にテレビドラマらしい分かりやすい展開でエンタテインメントとしては面白かったが、見せ場を作るためとはいえ、真田丸に敵を侵入させては駄目だろう。大河ドラマの予算では、あれが限界だろうが、やや、あっけなかった印象。出来れば細かい前振りは抜きにして、じっくりと攻防戦をやって欲しかった。
😽家康もテレビドラマらしい分かりやすい悪役を演じている。あのワルい表情は好きだけど。家康にとって、真田丸への攻撃はイレギュラーだったのだから「他の手」では無いと思うのだが。
😽今福・鴫野の戦いは、又兵衛と重成の活躍の場面なのだが、コントにしてしまったな。あれはかすり傷だし、味方を鼓舞する場面なのにな。戦果もあったのにな。
😽大蔵卿局のウザい演技と稲姫の鬼嫁の演技は楽しめるなあ。茶々の演技は相変わらずエキセントリック。女優陣にもそれぞれ出番を作らないといけないから面倒だな。
😽火縄銃であの距離から、かんぬきを射抜くだけの精度と威力があるかどうか実験してほしい。
😽最近、『城塞』を読んでいても又兵衛が哀川翔になってしまうのだが、どうしたものか。🐥