森の踏切番日記

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湊かなえ『リバース』の感想

5月の読書録01ーーーーーーー

 リバース

 湊かなえ

 講談社文庫(2017/03/15:2015)

 1705-01★★★

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🐱湊かなえにはあまり興味がなくて、これまでに読んだ小説は『少女』だけ、湊かなえ原作の映像作品も全く見ていない、という湊かなえ初心者です。『少女』は、そこそこ面白かったので、ドラマ化を機会に本書をちょっと読んでみようかなという気になりました。(ドラマの方は見ていません)

🐱本書の読後感としては、確かに結末は意外性があって驚きましたが、感嘆するという程ではなく、どちらかと云えば拍子抜けしました。まあ、そこそこの作品でした。

🐱イヤミスというだけあって、確かに人間の嫌な面を抽出して濃縮してデフォルメしていますが、人物の造形が類型的なので、さほど後味の悪さは感じませんでした。ストーリー自体は、あまり興味をひくものではないし、地味な作品という印象でした。

 

🐱以下の感想にはネタバレも含みますので本書を未読の方はご注意下さい。

 


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🐱本書の主人公の深瀬和久は、社会人3年目の平凡なサラリーマン。取り柄といえば、コーヒーを淹れるのがうまいことくらい。彼女いない歴は年齢と同じ長さ。地味でダサダサで超ネガティブでウジウジとした性格。

🐱そんな彼が、唯一ともいえる憩いの場〈クローバー・コーヒー〉で知り合った越智美穂子と付き合い始めて3ヶ月、彼女のもとに『深瀬和久は人殺しだ』とだけ書かれた匿名の手紙が届く。

🐱深瀬には思い当たるふしがあった。大学4年の夏、ゼミ仲間(広沢・谷原・浅見)と高原の別荘を訪れた夜に、深瀬の唯一の友人・広沢は一人遅れて到着する仲間・村井を車で迎えるために台風による大雨の中出発したが、車ごと崖下に転落して死亡した。飲酒していた広沢に運転を押し付けたことの責任を問われることを恐れた彼らは、暗黙のうちにその事実に口をつぐんでいた。

🐱思い切ってこの事実を美穂子に告白した深瀬だが、美穂子とは疎遠になってしまう。やがて、他の三人にも告発状が送られたことが判明し、さらに、谷原が何者かに駅のホームから突き落とされる事態となる。

🐱深瀬は、実は自分は広沢の事をほとんど何も知ってはいなかったことに気がつき、広沢の事をもっとよく知るために、彼の関係者に話を聞いて広沢の過去を遡ることにする。

 

🐱というのが本書の前半のあらすじなのだが、この段階で告発状を送ったのは誰なのか予想がついてしまう。広沢の事故について事件性をほのめかす描写もあるが、事件性の有無についても予想がついてしまう。これらは、それほど重要ではない。

🐱ゼミ仲間の谷原、浅見、村井は、それぞれ嫌な面を持っているが、他人とは本来不愉快な存在なのだから、いちいち拘泥しても仕方が無い。深瀬は、他人との関わり方が不得手であるが故に他人を意識しすぎる傾向がある。自分の中に彼のような一面が無いとは云わないが、自己否定的な性格が強調され過ぎていて、共感できない。

🐱人間というのは、いざとなったら自分がかわいいものであるし、死んだ人間よりも生きている人間の方が大切だと思うものだと思うので、彼らの行為は理解できる。結局のところ、この世は広沢のような人間が損をするようにできているのだ。彼は断ろうと思えば断ることが出来たのだし、あまり同情しない。

 


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🐱本書の後半は、深瀬が広沢の過去を遡って得た結論とは何か、ということになる。

🐱深瀬が話を聞いた広沢の知人の中では、広沢と同級生だった女性が印象に残った。正義感は強いけれども直球しか知らない面倒くさい女性である。その彼女が広沢を「透明」だと評したことが印象的だった。「透明」ということは「色彩を持たない」ということである。

🐱大人(たいじん)の雰囲気を持った人というのは、確かにいて、そういう人は存在感だけで他を威圧することが出来るのだけれども、実は雰囲気だけの張り子の虎のような人もいる。広沢という人間は、そういう人間のように感じた。彼はそういう自己を自覚し、そこに欠落を見出していたように思われる。

🐱広沢と高校時代から親交のあった「地味男」が登場したあたりから話がつまらなくなってくる。この地味男は、主人公の相似形である。自分によく似たキャラと対峙するほど不愉快なことはないが、それだけのことである。

🐱男が同性に対して抱く嫉妬心や劣等感は、生物学的に見れば、生存と生殖のために必要な本能的なものだから、あるのが自然だと思う。それをただ暴いてみせただけではつまらない。事件の真相と絡んでいなかったのが残念だった。

🐱広沢のカノジョを主人公が勘違いしたのは解せない。一目瞭然なのに。そこに主人公の脇の甘さのようなものでも感じればよいのだろうか。

🙀この先はネタバレ要注意です。

 


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🐱そのカノジョというのが、実は越智美穂子なのだが、結局彼女は何をやりたかったのか、中途半端な感じがする。

🐱本書の人物造形は、男性よりも女性の方がうまいなと思ったけれども、越智美穂子に関しては、少し甘いのではないかと思った。

🐱この小説は、「主人公が実は真犯人で、しかも当人がその事に気が付くのは最後の場面」というお題が与えられて書かれた作品なのだそうだ。ということで、広沢が死んだ原因を作ったのは、深瀬和久自身だったのだが、これでは過失致死にもならないだろう。不運が重なった事故でしかない。確かに意外な結末ではあるのだが、カタルシスは全くない。なるほどねえ、と思うだけである。

 


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🐝蕎麦の花とミツバチ

 

 

🐱文庫版の解説でも指摘されているが、興味深いのは、本書の終章後の主人公の心理である。彼は、どちらかと云えば自分は他の三人よりも罪が軽いと考えていた節がある。事故の秘密も仲間と共有していた。それが、故意では無かったとは言え全く自分の責任で彼を死に至らしめたのであり、その事に気が付いたのは本人だけなのである。彼の性格では、この秘密の重さに耐えかねて自滅するに違いない。ドラマ化するならば、そこまで描いた方が断然面白くなると思うのだが、どうだろうか。🐥

(ドラマは結末を変える可能性もあるか)

 

 

 

 

リバース (講談社文庫)

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