9月の読書録03ーーーーーーー

記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス)
- 作者: 池谷裕二
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/01/19
- メディア: 新書
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💡池谷裕二『記憶力を強くする』再読(1)海馬は記憶のための特殊装置 - 森の踏切番日記の続き
💡脳は曖昧に乱雑に記憶する💡
脳が記憶する方法
脳が記憶する方法には次の三つの特徴があります。
1.まずは大きく捉える
2.きちんと手順を踏んで覚える
3.何度も失敗を繰り返して覚える
脳が情報を記憶するとき、厳密には記憶せずに大まかに記憶します。厳密に記憶してしまうと融通がきかなくなるからです。
これは、AIの画像認識の技術開発の難しさを考えてみればよく分かります。
コンピュータは、融通がききません
人間の脳にはきわめて大きな柔軟性が与えられています。そのために試行錯誤を繰り返して記憶しなければならない面倒がありますが、臨機応変にものごとに対応することができるのです。
※「汎化(般化)」
心理学的には、ある特定の刺激と結びついた反応が類似した別の刺激に対しても生ずる現象のことです。
記憶の場合だと、たとえば、初めて見る種類の犬でも犬の特徴をそなえていれば犬だと分かるということでしょうか。
あるいは、同一人物の横顔、うつむき顔、眼鏡をかけた顔、化粧した顔などをすべて同一人物と判断できるということでしょうか。
AIの画像学習だと、上のような顔認識の場合、入力画像は1000万枚くらい用意する必要があるそうです。
(^_^;) を顔と認識するのも汎化でしょうか。人は顔認識が発達しているので、その副産物として、色んなものに顔を見てしまうのだと思います。
脳の可塑性
脳には、「あるきっかけにしたがって変化を起こし、その変化を保ち続ける」という性質があります。これを脳の可塑性とよびます。
つまり、「記憶」とは、脳が学習して「知らない」状態から「知っている」状態に変化することといえます。
※「可塑性」の対義語は「弾性」です。力学的には、弾性はバネのように外力がなくなると元に戻る性質で、可塑性はバネを伸ばしすぎたときのように変形して歪みが元に戻らない性質です。
脳は緻密な神経回路網(ニューラルネットワーク)から成り立っています。脳はこの神経回路網を使って情報を管理しています。
「記憶する」とは、「神経細胞(ニューロン)のつながり方が変化すること」なのです。
※専門的な定義は、「記憶とは、神経回路のダイナミクス(動力学)をアルゴリズム(演算手順)として、シナプスの重みの空間に、外界の時空間情報を写し取ることによって内部表現が獲得されることである」だそうです。
ニューロン(neuron)の模式図
シナプス(synapse)の模式図
※シナプスは、ニューロンの信号伝達などの神経活動に関わる部位のことです。
シナプスにあるニューロンどうしの隙間を「シナプス間隙」といいます。
ニューロンを伝導してきた電気信号は、シナプスで化学信号に変えられ、次のニューロンへ信号が伝達されます。
伝達された信号は、次のニューロンで電気信号に戻され、またニューロンを伝導していきます。
そしてまた、次のニューロンへと信号が伝達されていきます。
この信号(神経情報)の流れは一方通行で、逆流はしないしくみになっています。また、先細り(減衰)しないしくみにもなっています。
ひとつのニューロンにいくつものシナプスがあり、いくつものニューロンとネットワークを作っています。
こうして作られた複雑な神経回路網の中を神経情報が流れていきます。この流れの道筋が変わること、つまり、神経回路の変化こそが記憶の正体なのです。
記憶は神経回路網にたくわえられますが、ひとつのニューロンが複数の記憶に使われます。記憶容量を確保するために、ニューロンを使い回しているのです。
その結果、さまざまな情報が雑居してたくわえられることになり、互いに相互作用をしてしまいます。
そのため、記憶が曖昧になるのです。間違いや勘違いをしたり、記憶が変わったり薄れたりする理由はここにあります。これは、脳の「宿命」なのです。気にすることはありません。
保存情報が相互作用するということは、「連想」や「創造」という行為を容易にします。私たちは、記憶が相互作用できる神経回路にたくわえられているからこそ、こうした「人間性」を持つことができたのです。
人が人らしくあるために、脳は曖昧に、そして乱雑に(!)記憶をたくわえているのです。
脳の自己組織化と臨界期
ヒトの脳は複雑なので、遺伝情報は神経回路網の結合の大まかな指示を与えるだけです。なので、初めはランダムにつながります。そのため、できたての脳はニューロンの数も結合も必要以上に多くなります。
それから「自己組織化」が起きて、外部情報や内部情報に合わせて不要な部分は消去し必要な部分を補い、スリムな脳ができていきます。つまり、脳の基本機能は自己組織化が進んで完成するのです。
脳が発達する過程で、ある時期にある特定の仕組みが発達します。この時期を「臨界期」といいます。視覚や聴覚は、早い時期に臨界期を迎えます。
言語を覚える能力は、6歳くらいまでがとくに高いことが知られています。バイリンガルになるには、8~9歳までに習得するのがベストだと言われています。ただし、幼児は言語を使わなくなればすぐに忘れてしまいます。
語学の臨界期は、それほど厳密ではないので、中学生から英語を習い始めても、苦労するだけで習得はできます。
※『脳・心・人工知能』(甘利俊一著・講談社ブルーバックス)も参考にしました。
記憶にも年齢に見合った記憶の仕方があります!
記憶は階層を作っています。この階層は成長とともに形成されていきます。より原始的な、つまり、生命維持にとってより重要な下位の階層から早く発達します。
記憶の階層は下から、「手続き記憶」「プライミング記憶」「意味記憶」(ここまでが潜在記憶)、「短期記憶」「エピソード記憶」となります。つまり、この順に発達します。
(前の記事を参照のこと)
幼少時の記憶がないのは、エピソード記憶の発達が遅れているためです。(海馬の成長も不完全)
10才くらいまでは意味記憶(知識)がよく発達していて、エピソード記憶(思い出)が優勢になるのは、それ以降になります。
逆に、年をとって健忘をきたす場合は、階層の上の記憶から消失していきます。エピソード記憶が衰えると、物忘れが頻発します。症状が進んで、意味記憶まで失われると、自分の身内も分からなくなります。服を着たり、箸を使ったり、歩いたりといった手続き記憶はなかなか失われません。体力的にできなくなるだけです。
子供が知識欲が旺盛なのも脳の発達段階と関係があるのでしょうか。私も小4くらいまでの記憶は割と曖昧なのですが、読んだ本の内容はよく覚えていたりします。同じ本を飽きずに何度も読み返したものですから。
中学時代は、意味記憶の能力がまだ高いので、試験前の丸暗記作戦は有効です。高校生になると、エピソード記憶の方が優勢になるので、丸暗記作戦は通用しなくなります。量的にも無理があります。
私も中学時代の試験は丸暗記作戦でいきましたが、高校では丸暗記作戦は止めました。単に面倒臭くなっただけですけど。
成長して、エピソード記憶が発達するということは、論理だった記憶能力が発達するということです。ものごとをよく理解して理屈を覚えるやり方が効果的です。
つまり、大人と子供では有効な記憶方法が異なるということです。
それでは、論理的な記憶力を鍛えるには、どうしたらよいでしょうか?
次の記事では、本書が紹介しているその方法をまとめてみたいと思います。
💡次の記事へと続く
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