森の踏切番日記

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秩序と混沌の狭間で

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九月の読書録03ーーーーーーー

 複雑系

 M.M.ワールドロップ

 田中三彦+遠山峻征訳

 新潮文庫(2000/06/01:1996)

 1609-03★★★★

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🐱日本語版の副題は「科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち」となっているが、原題は

“COMPLEXITY ー The Emerging Science at the Edge of Order and Chaos”

である。complexity は「複雑性」という意味で「複雑系」は complex system である。副題は、「秩序と混沌の縁の新しい科学」という意味になる。文庫本で680ページもある大作で読むのが大変だった。一度読んだだけで全てを頭に入れるのは無理なので再読せねばなるまい。

🐱本書の内容は、訳者あとがきにあるとおり「生命の発現や生物の進化はもとより経済や社会や政治の動きにいたるまでを共通の理論的枠組みでとらえようとする「複雑系」の科学の生みの親ともいうべき、アメリカ・ニューメキシコ州にある非営利組織のシンクタンクサンタフェ研究所」についての物語」であり、また、「その研究所の設立に携わったさまざまな分野の学者の生きざま、自然観、科学観、についての物語」である。

🐱サンタフェ研究所は1980年代半ばに設立されたのだが、組織を立ち上げて運営していく過程が詳しく描かれていて興味深かった。人事面や資金繰りや事務処理など煩雑で厄介な問題が色々あって、こういった組織を運営するのは本当に大変なことだとつくづく思う。その上、マレー・ゲルマンのような優秀だが強烈な個性の持ち主の相手までしなければならないのだから設立者のジョージ・コーワンの苦労がしのばれる。当時は日本の経済力が米国にとって脅威であったことが強調されているが、このような組織を成功させるところに米国の底力を感じさせる。経済学の複雑系の研究が日本の経済力の脅威に対抗する一面があったというのは驚きである。今となっては、すっかり昔の話である。

🐱著者のワールドロップは、まえがきで、複雑なシステムの「複雑な」とは「おびただしい数の独立したエージェントがさまざまなやり方で相互に作用し合っているという意味である」と説明している。複雑なシステムの例として、「無数のタンパク質、脂肪、核酸が作用し合って細胞を形成し、何十億のニューロンが連結して脳を形成している」ことと、「何百万の相互に依存した人間が人間社会を形成している」ことを挙げている。そして、こうした複雑なシステムは自己組織的で適応的でダイナミズムがあると説明している。複雑系は自発的で無秩序的で活動的であり、カオスだけでは説明できない構造、一貫性、自己組織的結合力があると云うのだ。

🐱また、この本の原題の副題にもなっている「カオスの縁」をキーワードとして挙げている。「カオスの縁」は「システムの構成要素が秩序に固定されてもいないし、それでいて分解して混乱もしていない状態」のことで「生命という名に値する十分な創造性を有しているところ」であり、「停滞とアナーキーの間にある戦場」であり、「複雑系が自発的、適応的であり得るところ、活気を帯びるところ」であると表現している。つまり、我々は「カオスの縁」に生きているわけである。

🐱二十世紀の後半に色々な分野で複雑系に注目する研究者が出てきて、各々独自の研究を細々と進めていたのだが、学際的な研究の重要性に気付き、その場を提供するために設立されたのがサンタフェ研究所なのである。そこに集まる研究者は「複雑性に対する共通の理論的枠組みを使い、自然の営みだけでなく人類のそれをも解明しよう」としているのだそうだ。複雑性の考え方は「ニュートン時代以来科学を支配してきた線形的、還元主義的思考へのしかるべき対案」なのである。それが、今から30~25年前の話である。

 

🐱複雑系には、カオス力学系複雑適応系非線形力学系の三つの種類があるようで、ここでは複雑適応系を主に扱っているようである。複雑適応系の例としては、証券取引、社会的昆虫・蟻の巣、生物圏・生態系、脳・免疫系、細胞・胚の発生、製造業など社会集団、政党・コミュニティ、社会システム・オンラインシステム、等が挙げられる。

 

🐱複雑系の特徴としては、

①境界の決定が困難。

②開いた系である。熱力学的傾斜とエネルギーの散逸がある。エネルギーの平衡から程遠い。散逸は不安定でパターン安定性を持ちうる。

③時間とともに変化する力学系である。

④入れ子構造である。複雑系の要素はそれ自身複雑系である。(細胞<人間<経済)

⑤動的ネットワークの多様性。

創発現象を発現し得る。

創発(emergence)とは、部分の性質の単純な総和にとどまらない性質が全体として現れること。

非線形性。

フィードバックループ。負のフィードバックも正のフィードバックも常に見つかる。

ということらしい。🐥

 

「つまるところ、生命とは何か」

「心とは何か」

「なぜ無ではなく何かが存在するのか」

 

 

 

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)

複雑系―科学革命の震源地・サンタフェ研究所の天才たち (新潮文庫)

 

 

 

 

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