🔘『自己組織化とは何か』を読む(1) - 森の踏切番日記の続き
第3章・細胞が示すインテリジェンス
◾生命の基本単位である細胞レベルで見られる自己組織化の例。
①シャジクモの酸・アルカリバンドパターン
◾パターン形成とは、形がないところから形ができることをいう。(空間変化)
◾シャジクモの酸・アルカリバンドパターンは、周囲の環境によって後から決まるパターン。「動的」に保たれている。
◾自己組織化において、パターンやリズムを維持するにはエネルギーが必要。シャジクモのバンドパターンの場合は、光エネルギー。
◾バンドパターンの安定性。
◾パターンの引き込み現象。「引き込み」は、非線形の性質を持つものだけに特有の現象で「互いに相手に合わせる」という意味。時間変化(リズム)であれば「同調」(あるいは「同期」)。
◾植物にも神経細胞のようなパルス発生能力がある。その意義はうまく説明できない。
シャジクモ - Wikipediaより
シャジクモ(by Siow_ryu)
◾細胞粘菌の移動体(細胞集合体)の分化と再生。
◾ヒドラの驚異的再生能力。
◾真性粘菌の変形体(多核細胞)。集合した粘菌細胞が融合して1個の細胞になる。細胞分裂はせずに単細胞のまま核の数がどんどん増え、大きく広がっていき、網目状になる。中には1メートルをこすものもある。
◾変形体同士を接触させると融合する。逆に変形体を切るとそれぞれが独立した変形体になる。
◾変形体は常時リズムを発していて、情報処理に一役買っている。
◾リズム(時間的に繰り返す現象)は「振動」ともいう。目に見えないようなリズムであっても振動という言葉を使う。
◾変形体のリズムは原形質流動の周期的変動。誘引刺激や忌避刺激により位相の波が伝播して情報を伝達する。
◾より高等な動物は、主に電気によって、より速く情報を伝達している。動きの少ない植物の場合は、主に化学物質の流れで情報伝達がなされる。
真性粘菌変形体
引用元:粘菌の輸送ネットワークから都市構造の設計理論を構築―都市間を結ぶ最適な道路・鉄道網の法則確立に期待―
🐱真性粘菌は正式には変形菌というようだ。粘菌の世界も色々興味深いものがあります。
第4章・脳が作るリズムとパターン
◾脳の自己組織化。神経細胞(ニューロン)とその周囲にあり神経細胞の活動を調整するグリア細胞。
◾脳の成長とは、神経細胞同士の結合が密になること。
◾神経細胞はCPUのようなもので、コンピュータより動作速度が遅いが同時に働く。脳は、CPUが100億個以上あるコンピュータのようなもの。
◾神経細胞の軸索は非線形ケーブル。生体膜が発振器の機能を持ち、神経細胞は無数の発振器が結合したものとみなすことができる。非線形発振器は互いに同調するので減衰も歪みも無い。
◾脳の自己組織化の本質は、神経細胞間のネットワークが構築される(=シナプスができる)ことにある。
◾神経細胞ネットワークの構築は外の世界との関わりに強く依存する。また、形成時期がある程度決まっている場合がある。
◾視覚の形成。第一次視覚野のコラム構造。脳内で神経細胞ネットワークに作られる独特のパターン形成メカニズム。
◾その応用として、ニューラル・ネットワーク、ニューロ・コンピュータが研究されている。
神経細胞ネットワークの自己組織化
左から新生児、生後3ヶ月、15ヶ月、2年。
several photographs of neural circuity in the brain. From the left the pictures show us the neural circuity of a newborn, then a 3 month old, 15 mo… | Pinteres…
神経細胞の模式図
第5章・高等植物が作り出すリズムとパターン
◾高等植物の自己組織化。
◾植物細胞は、分化全能性。1個の細胞から一体の完全な個体を作り出すことができる。
◾動物も植物も、リズムをもちパターン形成をしながら成長する、という点では同じ。
◾動物の場合は、どちらかというと遺伝子が主役、自己組織化が脇役であるのに対して、植物の場合は、自己組織化に負う部分が大きい。植物は大量のパターンの集合。フラクタル。
◾植物の成長原理。植物の場合、増殖して成長する細胞はほんの一部、ほんの一時期だけで、成長しきった細胞はその後変化することはない。
◾根を例にとると、根の先端の先端部を保護する根冠の次にある分裂帯だけが細胞分裂をする。その後方に分裂した細胞が伸びる伸長帯があり、さらに後方の既長帯は分裂も伸長もしない。
◾成長する根の先端部の表面電圧を測定すると、電圧にパターンがあることがわかる。理由は、はっきりとは分からないが、根の周囲の環境変化を感じる役目、根が伸びる方向をコントロールする役目を果たしているのではないかと推測される。
◾植物には、サーカディアンリズムなど様々なリズムがあるが、根の表面の電圧にもリズムがある。この電気的リズムは、他のリズムと同様、成長活動と深く関係している。
第6章・人工脂質膜の示すリズム
◾この章はDOPH(ジオレイルホスフェート)という合成リン脂質でできた人工膜が興奮性を示すという専門的な話題。
◾この脂質膜は、平衡系で自己組織的に集合し、非平衡環境下で神経細胞と類似の興奮性を示すのだそうだ。
◾また、この系でカオス現象が見つかり、工学的応用が試みられているということで、それを利用した味覚センシングシステム構築の試みについて解説されている。
🐱面白い話なのだが、分量が少ないのが残念。もう少し詳しい解説が欲しかった。
第7章・自己組織化からカオス、そして複雑系へ
◾複雑系の科学について要点がまとめられている。
複雑系の科学から見ると、自己組織化やカオスといった非平衡・非線形の科学は系を理解するための一手段ということになる。立場を変えていえば、自己組織化やカオスの母体となる非平衡・非線形の科学を広く社会に適用しようとしたのが複雑系の科学ということだ。
◾自己組織化の科学は還元的な手法をとっているので、複雑系の科学とは立場が違うということのようだ。本書の場合は、工学的な観点から自己組織化をとらえているということだろう。
第8章・人工生命がもたらすもの
◾人工生命(Artificial Life)の研究について要点がまとめられている。
◾人工生命の研究とは、
コンピュータ上のシミュレーションによって、生命の起源を調べ、生命という複雑系がいかにして自己組織化し、適応・進化するかを探るものである。
◾ ここでいう「生命」とは、「自己組織化能」と「自己複製能」を持つシステムということだろう。
◾もう一つ、生命の重要な特徴として「進化」がある。「進化」は複雑適応系である。複雑適応系は、定常に達することなく、常にその状態を変えていく。生物は複雑適応系の典型例なのである。
◾人工生命の考え方では、「生命は物質の組織の性質であって、組織を構成する物質の性質ではない」とする。つまり、必ずしも物質を使う必要が無いということにもなる。
第9章・マイクロマシン──自己組織化が生み出すミクロの世界
◾マイクロマシンの研究の基本の解説。生物がもつマイクロマシンとして、鞭毛モーターのしくみの説明もある
マイクロ歯車
第10章・分子素子への挑戦
◾マイクロエレクトロニクスのレベルよりもさらに小さくなると量子力学的効果が現れるので新たな学問体系が必要となる。それがナノエレクトロニクスである。ナノエレクトロニクスを含む技術全般をナノテクノロジーとよぶ。量子レベルで作動する素子が量子素子である。
◾一般にマイクロレベルで扱うテクノロジーは、半導体、結晶を微細加工して高密度・高性能デバイスを作り上げる。これは、マクロからミクロへのアプローチである。一方、ナノテクノロジーは材料の自己組織化能を利用してミクロからマクロの構築を目指す。
◾この章では、生物のもつ分子レベルでの高い機能をめざす「分子素子」が紹介されている。分子素子の中でも注目される機能が光電変換機能、すなわち、人工光合成である。まず、生体の光合成のしくみが説明され、人工光合成の研究が紹介されているが、話が専門的でやや難解である。
🐱本書は、自己組織化に関する話題が網羅的に紹介されていて、興味深い話題も多いが、それぞれの分量が少ないのが残念だった。各章について調べてみると色々面白い話題が多かった。ナノテクノロジーには微結晶太陽電池の他に、カーボンナノチューブ、極微磁気記憶材料、ドラックデリバリーシステム、分子歯車、単電子トランジスタ、DNA分子デバイスなどがある。本書は、2009年に第2版が出ているので、引き続き読んでみたいと思う。
カーボンナノチューブ
Carbon nanotubes are long chains of carbon held together by the strongest bond in all chemistry, the sacred sp2 bond, even stronger than the sp3 bo… | Pinteres…
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