森の踏切番日記

ただのグダグダな日記です/2018年4月からはマイクラ日記をつけています/スマホでのんびりしたサバイバル生活をしています/面倒くさいことは基本しません

松岡譲『漱石の印税帖』の感想 ~漱石の娘婿の憂鬱

5月の読書録03ーーーーーーー

 漱石の印税帖

 松岡譲

 文春文庫(2017/02/10)

 1705-03★★★

────────────────────────────

🐱著者の松岡譲は、明治24年(1891)、新潟県古志郡(現在の長岡市鷺巣町)の寺の生まれ。旧制長岡中学、一高を経て東京帝国大学文学部哲学科に入学。久米正雄菊池寛芥川龍之介らと共に第三次(1914)、第四次(1916)「新思潮」を発刊。晩年の漱石の門人となる。大学卒業の翌年、大正7年(1818)4月に漱石の長女・筆子と結婚。昭和44年(1969)7月没。主著に『法城を護る人々』『敦煌物語』など。

 

🐱本書は、昭和30年に朝日新聞社より刊行された単行本『漱石の印税帖』が文庫化されたものである。この文庫版には「娘婿がみた素顔の文豪」という副題が付いていて、全部で10編の随筆の内6編が漱石に関するものである。残り4編は「新思潮」時代の回想などであるが、こちらも興味深い内容である。

はっきりと書かれてはいないが、所々に夏目鏡子未亡人に振り回されている様子が垣間見られて苦労がしのばれる。

 

 

 

🔘「漱石の印税帖」では、夏目家に保存されていた印税覚帖から、当時のベストセラー作家だった漱石の本が実際にはどの程度売れていたのか考察している。不完全な資料なのでおおよその事しか分からないが、漱石在世中より死後に圧倒的に売れ始めた。これは、廉価版が出始めたり全集が刊行されたりしてマーケットが広がったことや、本人の声望が死後の方が上がったことや、世間の景気が影響しているのではないかと著者は推測している。著者は、漱石在世中の12年間でおよそ10万冊に対して、大正6年から12年までの7年間でおよそ70万冊売れたと分析している。この漱石死後の7年間は、著者自身が覚帖を認めたこともあって詳しいデータが残っているのだが、それによると『猫』『坊ちゃん』『草枕』が、やはりよく売れている。

 

 

🔘「漱石の万年筆」は、漱石山房にあったはずの漱石遺愛の万年筆(のペン尖)と硯が、戦後富山県の高岡から出てきたという話。盗品が巡り巡って高岡までいったようで、探偵小説風味の作品。漱石山房の様子が詳しく再現されていて興味深かった。また、義弟の純一について「相変わらずのお殿様だ」と、揶揄しているのが印象に残った。

 

 

🔘「贋漱石は、漱石の書画の鑑定の第一人者である著者が見てきた贋作にまつわる話。著者の娘である半藤末利子の『夏目家の福猫』(新潮文庫)によると、著者が大正9年から亡くなるまでの約50年間に鑑定した真漱石の数は500余に対して贋漱石は2000点近くに及んだという。ややこしいことに、漱石の俳号を使っていたのは夏目漱石だけではないということもあるのだそうだ。

 

 

🔘「漱石の顔」「宗教的問答」「『明暗』の頃」には、著者が木曜会で見聞した漱石との対話や木曜会の様子が記されていて貴重である。『明暗』には、推理小説の手法が取り入れられているという意見が印象に残った。

 

 

🔘「蘆花の演説」は、漱石とは関係なく、明治44年(1911)2月1日に催された一高の弁論部大会での徳冨蘆花の「社会主義演説」を当時一高生だった著者が見聞した思い出を昭和28年に発表したもの。これは、『謀叛論』と題されたもので当時問題となったようである。青空文庫でざっと目を通してみたが、井伊直弼吉田松陰の話からから始まって、大逆事件における政府の対応を弾劾する激烈な内容になっている。最後は、西郷隆盛と同様に幸徳秋水も逆賊ではないとし、聴衆に人格をみがくように呼びかけて締めている。一時間を超える演説であったらしいが、著者は深い感銘を受けたようである。

幸徳秋水らの死刑が執行されたのは、この演説の直前の1月24日、25日。

 

(近い未来において、この国が再び言いたいことも言えないような国に成り果ててしまわないとは限らない)

 

 

🔘「三重吉挿話」は、漱石門下の大先輩にあたる鈴木三重吉の思い出話。晩年の三重吉が、所蔵する漱石の「虞美人草」の原稿を売りに出したのだが、やっぱり手放せなくてドタキャンした話は、漱石愛の大きかった三重吉らしい挿話で印象深い。

 

 

🔘「二十代の芥川」は、芥川龍之介の思い出話。学生時代の芥川は秀才タイプの都会人で異彩を放っていたという。始めから親しく交わったということではなかったようだ。小説を書き始めた頃の芥川が「柳川隆之介」という筆名を使っていたことや犬を極端に怖がったことなど友人ならではの逸話が綴られていて興味深い。

 

🐱ここで、芥川龍之介が珍しく学生時代を振り返った「あの頃の自分の事」を再読してみた。芥川が自身のことを書くと私小説にはならなくて、随筆に近い作品である。第四次「新思潮」を創刊しようとしていた頃の話で、芥川自身は「鼻」の執筆中だった。当時の成瀬正一、久米正雄、松岡譲との交友が描かれている。芥川の方は松岡譲を浮世離れした鷹揚な人物とみていたようである。芥川が松岡譲の下宿を訪ねたとき、徹夜で戯曲を仕上げて爆睡している松岡の目から涙がこぼれているのを見て、もらい泣きしたという話が印象的である。所々に芸術論が挿まれているのが芥川らしい。

🐱佐藤春夫がこれを読んで「成程、他の連中はみんなあの頃だが、作者自身はこの頃だ」と評したと「二十代の芥川」に書いてあるのだが、確かにそんな感じのする作品である。

 

🐱芥川の「文藝的な、餘りに文藝的な」には、漱石の思い出が少しだけ書いてあるが、秀才の芥川龍之介から見て夏目漱石は天才であったようだ。漱石のことを考えると「老辣無双」の感を新たにすると書いている。

🐱松岡譲は、娘の松岡陽子マックレインによると、晩年の漱石先生は円満で澄み切った心の持ち主だったと言っていたそうだ。一方、筆子は、最後まで精神的に激しい人であったと主張して譲らなかったという。

🐱漱石は、松岡譲を「越後の哲学者」と呼んで可愛がったという。

 

 

🔘最後の「回想の久米・菊池」は、本書の中で最も長く最も印象に残る一編である。漱石が没した大正5年(1916)の翌年の春、第四次「新思潮」の「漱石先生追慕号」が完成し発送しようという日に菊池寛が見合い写真を持って著者を訪ねた所から話は始まる。

菊池寛は、「新思潮」の同人の中では異質な感じがする。本書では、菊池との友人らしい遠慮のないやり取りが書かれているのだが、菊池の愉快な人物像が印象的である。

菊池寛は、友人の成瀬正一の父親に経済的な援助を受けて京都大学を卒業している。成瀬家は、豪農出身の銀行家で大金持ちだった。当時の菊池寛は、成瀬正一が留学中で父親も多忙で不在がちな成瀬家に男手がいた方が良いとの理由で成瀬の母親に頼まれて成瀬家に下宿していた。

菊池の縁談はトントン拍子に決まり、4月の始めに故郷の高松で結婚式を挙げる。嫁が上京して所帯を持つことになったので、著者が代わりに成瀬家に下宿することになる。菊池寛の嫁が極端な恥ずかしがり屋でどうしても人前に出ようとしないエピソードが愉快である。

一方、夏目家も漱石が没して女子供だけになって心細いということで、独身の門人たちが順番に泊まることになっていた。古い門人たちは家族に対して遠慮があったようだが、著者たち若い門人は家族に対する遠慮もなく子供達にも人気だったという。

そうした中で、久米正雄漱石の長女に熱を上げ始めた。半藤末利子に云わせると、久米は才人だが軽薄で目立ちたがり屋で先輩たちからは睨まれていたという。久米は惚れっぽい性格で何度も浮き名を流していたということもあって、先輩たちは久米の恋に反対していた。松岡譲自身は、まだ喪も明けていないうちから不謹慎なという気持ちと友人の恋を応援してやりたいという気持ちの二律背反で苦しい立場だったと述懐している。

久米の方は周囲のことなどお構いなしで、いよいよ我慢できなくなって、鏡子夫人に「お嬢さんを下さい」と直訴する。鏡子夫人は満更でもなかったようで、本人さえ承知すればと、肯定的な返事をしたので久米はすっかりその気になってしまった。

ところが、ある日、成瀬家に下宿し卒論に取り組んでいて夏目家から足が遠のいていた著者が鏡子夫人から呼び出されて行ってみると、久米の情事を暴露する女文字の手紙が鏡子宛に舞い込んだという。著者は鏡子に疑われたが、身に覚えのないことで否定する。この手紙の張本人を著者と菊池が推理する。

本編では犯人の名は伏せられているが、久米の友人だった山本有三(『路傍の石』の著者)である。当時、久米には彼女がいたようで、その彼女を捨てて筆子に乗り換えたみたいなことがあったようだ。そういう久米の性格が気に入らなくて暴挙に出たようだが、やり過ぎである。著者は道義的に許されるものではないと切り捨てている。山本は、その後も何食わぬ顔で久米との親交を続けていたというから相当な人物である。

この手紙事件で、鏡子夫人の信頼を失った久米は謹慎するのだが、この恋愛事件は意外な決着をみる。実は、筆子は久米にはまったく興味がなくて、一目見たときから松岡譲が好きだったのだ。ところが、明治女性の奥床しさで言い出せなかったらしい。周囲の誰も気が付いていなかったのだが、久米だけは恋する男の敏感さで、松岡を警戒する素振りを見せていたという。松岡本人は、筆子の恋心に全く気がつかなかったと主張している。芥川の松岡に対する見方から考えると肯ける。

松岡は、筆子の想いを受け入れ筆子との結婚を決意するのだが、これは同時に友人を裏切る結果となり、相当に複雑な心境だったようだ。誰が悪い訳でもないけれども後味が悪い結末である。久米も傷ついただろうが、松岡も筆子が傷つかないように自分が傷つく決心をしたようだ。

私は山に隠れるような気持ちで創作の筆を折ろうと決心した。

翌年の大正7年(1818)4月に松岡譲と夏目筆子は日比谷大神宮で式を挙げ、築地の精養軒で披露宴を行った。その日、憂鬱な気分の著者は菊池を誘い出す。結局「新思潮」の同人で式に出席したのは菊池だけだった。

「哲学者は困る。自分で自分の掘った穴にはまってもがいている」

菊池の平凡で素朴な結婚と著者の波乱に満ちた結婚が対比して置かれている。

 

話はこれだけでは終わらない。嫉妬に狂った久米が二人を悪者に仕立てた失恋小説を次々と発表し始めたのだ。特に、大正11年(1922)に発表された『破船』は、評判となり世間の同情を集めたという。久米も嫉妬に狂う己の醜さを客体化し昇華出来れば優れた文学者に成り得たかもしれないが、感情に流されて俗に堕してしまったようだ。久米は恋愛の女神に見放されたが、芸術の女神にも見放されたと云えよう。

松岡家にとって迷惑なことに、久米の小説を事実と信じこんだ世間が松岡夫妻を悪者と誤解してしまった。松岡譲は何を言われても沈黙を守ったが、長女が、あんな悪い人の子供と遊んじゃ駄目と言われて、泣いて帰ってきた時には、流石に久米に対して腹を立てたという。家族のために弁護することに決め発表したのが小説『憂鬱な愛人』だった。

本編の終わりに、著者は若い女性の来訪を受ける。その女性は山本有三の別れた妻だった。夫に言われるがままに破廉恥な手紙を書いた事を恥じ謝罪に訪れたのだった。著者は、本当の被害者は貴方自身だとその女性を慰める。著者の倫理観では一番の悪人は山本有三のようだ。

 

🐱昭和22年(1947)、久米正雄は松岡譲に正式に(手をついて)謝罪した。本編の発表も昭和22年なので、この和解を受けて発表されたものと思われる。

🐱半藤末利子によると、筆子は自分の気持ちを周囲に知らしめるために食を絶ったという。明治の女性は恋愛の手続きが面倒くさい。松岡譲は寺の生まれで幼い頃から躾られていたので行儀の良い人であったらしい。漱石の弟子は娘から見て皆行儀の悪い人ばかりだったようで、松岡の行儀の良さに好感を持ったと筆子は娘によく語っていたという。

🐱松岡陽子マックレインによると、筆子が、好きになったのは自分の方で、むしろ迷惑をかけた結婚だったのではと話したことがあったという。松岡家は経済的にはあまり恵まれなかったが、筆子にとっては幸せな結婚生活だったのではないかと、娘たちの書いたエッセイを読んで思う。松岡譲は一度だけ陽子に、筆子との結婚は文学的には損をしたと、語ったことがあるという。男は、女から好きと言われて悪い気がしないはずはない。ましてや、尊敬する先生の娘さんである。松岡譲は男気でもって筆子を愛そうと決心したのではないだろうか。友情と文学を犠牲にして筆子を選んだのだ。本編では、その心理を踏み込んで描いてはいないが、明治の男性の意気を感じる。

 

🐱菊池寛は、かなり個性的な人だったようで興味深い。1818年当時、既に自分達で雑誌を始める構想を持っていたようで、松岡譲に主幹をやらないかと誘っている。作家としては「生活第一、芸術第二」を標榜していたそうだ。円城塔は「娯楽小説という形式自体をつくりだした一人」が菊池寛であると指摘している。

 

 


f:id:morifumikirikita319:20170525192358j:image

大正5年(1916)、第四次「新思潮」創刊の頃。左から久米正雄、松岡譲、芥川龍之介、成瀬正一。

 

 
f:id:morifumikirikita319:20170525192528j:image

大正8年、長崎滞在中の菊池寛(左端)。その隣は、芥川龍之介

 


f:id:morifumikirikita319:20170525192636j:image

昭和9年頃(1934)の松岡家。前列左が陽子。末利子は昭和10年生まれ。

 

 

 

 

漱石の印税帖 娘婿がみた素顔の文豪 (文春文庫)

漱石の印税帖 娘婿がみた素顔の文豪 (文春文庫)

 

 

 

📖関連図書

漱石夫妻 愛のかたち (朝日新書 70)

漱石夫妻 愛のかたち (朝日新書 70)

 

🔘漱石の孫娘(姉) - 森の踏切番日記

 

 

夏目家の福猫 (新潮文庫)

夏目家の福猫 (新潮文庫)

 

🔘夏目漱石の孫娘(妹) - 森の踏切番日記 

 

 

 

 

 

尾道でブラタモリ(2)

ブラタモリ』#73尾道(2)

~なぜ人は尾道に魅せられるのか?


f:id:morifumikirikita319:20170520223335j:image

番組の後半では、日本史が苦手そうな近江ちゃんが時をかけて過去に飛ばされます(嘘)

 

────────────────────────────


f:id:morifumikirikita319:20170520220411j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521003658j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520220421j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520231703j:image

ご名答。


f:id:morifumikirikita319:20170520231720j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520231738j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520231810j:image

鎌倉時代の絵図


f:id:morifumikirikita319:20170520231747j:image

だから


f:id:morifumikirikita319:20170520231802j:image

おねみち


f:id:morifumikirikita319:20170520231825j:image

➡おのみち(諸説あり)


f:id:morifumikirikita319:20170520231835j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520231844j:image

街道がそのまま商店街になったというのも珍しいのではないかなあ。そうでもないのかなあ。


f:id:morifumikirikita319:20170520233311j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233322j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233334j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233345j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233357j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233407j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233418j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233426j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233447j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520233456j:image

神社が気になる森田氏。


f:id:morifumikirikita319:20170520233512j:image

神社へ向かう途中。骨董猫発見。


f:id:morifumikirikita319:20170520233504j:image

スナック・マンボ


f:id:morifumikirikita319:20170520234655j:image

石垣が気になる森田氏。


f:id:morifumikirikita319:20170520234708j:image

海の神様。向島にも厳島神社があります。


f:id:morifumikirikita319:20170520234724j:image

🔎八阪神社Google マップ


f:id:morifumikirikita319:20170520234744j:image

残ってた。


f:id:morifumikirikita319:20170520234801j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520234812j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520234825j:image

森田氏、大満足。

 


f:id:morifumikirikita319:20170520234848j:image

ちなみに、西山喜久恵アナの実家、老舗旅館「西山別館」は、画面の右側を外れたずっと先、しまなみ海道よりも東側、福山市寄りにあります。


f:id:morifumikirikita319:20170520235544j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520235605j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520235621j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520235632j:image

 

f:id:morifumikirikita319:20170521002206j:image

早い。


f:id:morifumikirikita319:20170520235649j:image

3分くらい。


f:id:morifumikirikita319:20170520235656j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000748j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000757j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000819j:image

草彅「何だったのでしょう」


f:id:morifumikirikita319:20170521133512j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521133519j:image

久保八幡神社といいます。


f:id:morifumikirikita319:20170521000835j:image

坂道に家が出来たことと線路が深く関係している。


f:id:morifumikirikita319:20170521000845j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000856j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000904j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521000912j:image

だいたい、そうなるよなあ。当時の町外れに駅が出来たりするよなあ。


f:id:morifumikirikita319:20170521001513j:image

それでも、山際まで人が住んでいたので、


f:id:morifumikirikita319:20170521001528j:image


f:id:morifumikirikita319:20170521001538j:image

その人たちは、立ち退くしかなかった。


f:id:morifumikirikita319:20170521001552j:image

土地は寺か神社の土地なので借地だそうな。


f:id:morifumikirikita319:20170521001602j:image

タモリ「借地料入りますね」


f:id:morifumikirikita319:20170521135245j:image

坂の上の家と下の家が共同で使用する二階井戸の話は省略します。

 


f:id:morifumikirikita319:20170521002239j:image

空気が読めないハト。


f:id:morifumikirikita319:20170521002253j:image

尾道ラーメン。


f:id:morifumikirikita319:20170521002303j:image

美味しそう。


f:id:morifumikirikita319:20170521002312j:image

とにかく、坂と石段が多いから足腰が鍛えられそうな街だな。

 

 

 

🐱次回は

f:id:morifumikirikita319:20170521002807j:image

一週お休みだ。


f:id:morifumikirikita319:20170521002818j:image

🐱この記事の続き

🔘倉敷でブラタモリ(1) - 森の踏切番日記

🔘倉敷でブラタモリ(2) - 森の踏切番日記

 

 

 

🐱関連日記
f:id:morifumikirikita319:20170521002840j:image

🔘箱根関所でブラタモリ(1) - 森の踏切番日記

🔘箱根関所でブラタモリ(2) - 森の踏切番日記


f:id:morifumikirikita319:20170521002832j:image

🔘箱根でブラタモリ - 森の踏切番日記


f:id:morifumikirikita319:20170521002903j:image

🔘神戸の街でブラタモリ - 森の踏切番日記

 

 

 

 

 

 

 

尾道でブラタモリ(1)

ブラタモリ』#73尾道(1)

~なぜ人は尾道に魅せられるのか?


f:id:morifumikirikita319:20170520172721j:image

今回は、タモリさんと近江ちゃんが石段から転がり落ちて体が入れ替わります(嘘)

 

────────────────────────────


f:id:morifumikirikita319:20170520203846j:image

尾道出身のアナウンサーといえば、キクちゃんこと、西山喜久恵


f:id:morifumikirikita319:20170520203906j:image

そして、山本モナ


f:id:morifumikirikita319:20170521003808j:image

近江アナは、尾道は初めてとか。


f:id:morifumikirikita319:20170520203939j:image

尾道が舞台の映画といえば、


f:id:morifumikirikita319:20170520203956j:image

やっぱり、これか。


f:id:morifumikirikita319:20170520204009j:image

それと、これだな。それほど出来の良い映画だとは思わないが。原田知世の白ブルマだけが印象に残っている。


f:id:morifumikirikita319:20170520204029j:image

大林宣彦監督の尾道三部作といえば、『転校生』、『時をかける少女』、『さびしんぼう』。


f:id:morifumikirikita319:20170520204043j:image

さびしんぼう』は、観てないなあ。


f:id:morifumikirikita319:20170520204105j:image

尾道が舞台の小説といえば、


f:id:morifumikirikita319:20170520205239j:image

林芙美子の『放浪記』


f:id:morifumikirikita319:20170520204119j:image

志賀直哉の『暗夜行路』


f:id:morifumikirikita319:20170520204131j:image

どちらも、読んだことないな。


f:id:morifumikirikita319:20170520204142j:image

今回は、神さまになった中学生は出てこないのね。


f:id:morifumikirikita319:20170520212829j:image

福石猫とかも出てこないのね。


f:id:morifumikirikita319:20170520205258j:image

尾道について知っていることはこれくらいしかないな。


f:id:morifumikirikita319:20170520205309j:image

内田百閒の「鹿児島阿房列車  前編」(『第一阿房列車新潮文庫)に尾道が少しだけ出てくる。

 

🔎大宝山千光寺Google マップ
f:id:morifumikirikita319:20170520205321j:image

昭和26年の夏、鹿児島へ向かう途中の内田センセは戦前に見た呉線の車窓の風景をもう一度見たいと思って、乗り換えのため尾道で下車した。


f:id:morifumikirikita319:20170520210605j:image

三原から広島までの山陽本線は山中を通るが、呉線は海岸に沿って通っている。内田センセは、小雨に煙る瀬戸内海の眺めにうっとりしたそうだ。頸の筋が痛くなるほど白砂青松の浜が何時間も続いたという。その景色をもう一度見るためにわざわざ遠回りをするというのだからヒマな人だ。


f:id:morifumikirikita319:20170520210618j:image

乗り換えのために一時間待つことになった内田センセと付き添いのヒマラヤ山系君は、時間つぶしのために尾道の街へ出てみる。


f:id:morifumikirikita319:20170520210634j:image

駅の前の広場のすぐ先に海が光っている。その向こうに近い島がある。小さな汽船が島の方から這入って来たところである。潮のにおいがして、風が吹いて、頭から日が照りつけた。


f:id:morifumikirikita319:20170520210658j:image

駅のすぐ前の海に面した広場に小さな見世物小屋があった。蛇女とか蜘蛛娘などの看板が出ていた。


f:id:morifumikirikita319:20170520210714j:image

二人は、小屋の前を通り、海辺まで出てみて、引き返した。内田センセは、観光名所などには自分からは決して行かない人なのだが、一時間という時間つぶしは中途半端で持てあましたのか、見世物小屋に這入ってみる気になった。


f:id:morifumikirikita319:20170520210728j:image

白粉を塗った若い女の胴から下が蛇だというのが蛇女。乳の辺りから下は木毛(瀬戸物や果物の箱詰めに保護のために入れるやつ)を散らかして隠されている。盛り上がった木毛の中から張り子の尻尾がのぞいている。女は頻りに瞬きしてこちらを見ている。


f:id:morifumikirikita319:20170520210741j:image

蜘蛛娘は、高い所へ宙に吊した梯子の途中に腹ばいになった若い娘。やはり白粉を塗っていて、一点を見つめた目が光っている。肩の辺りから先は張り抜きの蜘蛛の胴体になっていて蜘蛛の脚を方々に出している。


f:id:morifumikirikita319:20170520210753j:image

娘の肩から先はどこに隠したのか、恐らく鏡を使っているのだろうが、どこにどう使ってあるのか、内田センセには見極めることが出来なかった。


f:id:morifumikirikita319:20170520210806j:image

蛇女には大別して、蛇を生のまま食べたり蛇を体に巻き付けたりするパターンと体が蛇とか皮膚が鱗とかの変化パターンの二つのバリエーションがある。内田センセが見たのは後者の例のようだ。


f:id:morifumikirikita319:20170520210820j:image

お代は一人三十円、二人で六十円だったそうだ。内田センセは、おやおやと思った。


f:id:morifumikirikita319:20170520210831j:image

思ったよりも高かったようだ。ちなみに、当時のタバコ(ゴールデンバット)が一箱30円だったそうです。一人タバコ一箱分。


f:id:morifumikirikita319:20170520211759j:image

わずか一時間の滞在で尾道を後にした内田センセは、念願の景色を見て堪能した。ところが、忘れていたことが一つあった。


f:id:morifumikirikita319:20170520211816j:image

呉線は隧道がうるさいほど沢山あるのだ。当時は、勿論蒸気機関車である。窓を開けていると、煤煙が巻き込まれるのだ。内田センセは、うんざりした。


f:id:morifumikirikita319:20170520211832j:image

見世物小屋は全国を巡業していたのだろうが、この話を読んでから尾道というと見世物小屋を連想してしまう。内田センセが堪能した呉線の風景は、今もうっとりする眺めなのだろうか。今は煤煙の心配もないし、一度行ってみたいと思う。

 

f:id:morifumikirikita319:20170520211855j:image

ハトにエサをやるタモリさん。ハトの餌、一袋30円。


f:id:morifumikirikita319:20170520211909j:image

朝早いので、ハトがいない。


f:id:morifumikirikita319:20170520211920j:image

我が家には、朝早くからハトが来るけどな。


f:id:morifumikirikita319:20170520211927j:image

朝早くから、グルグル啼いてうるさくてかなわない。


f:id:morifumikirikita319:20170520212913j:image

しかも、台所の換気扇に入りたがるし。


f:id:morifumikirikita319:20170520212926j:image

そうそう、ブラタモリだった。


f:id:morifumikirikita319:20170520212811j:image

大坂での米相場(先物)の情報を伝書鳩を使って入手していたそうな。


f:id:morifumikirikita319:20170520212904j:image

他にも、紀伊国屋文左衛門が考案したと云われる旗振り通信や狼煙通信なんかもあったらしい。


f:id:morifumikirikita319:20170520213019j:image

幕府は米飛脚を保護するために、これらの通信を禁止していたようだ。


f:id:morifumikirikita319:20170520213028j:image

尾道の商人たちは、寺を隠れ蓑にして掟破りをしていたそうな。


f:id:morifumikirikita319:20170520213047j:image

幕府は、伝書鳩を捕まえるためにハヤブサを放ったという話もあるそうだ。


f:id:morifumikirikita319:20170520213056j:image

タモリ「町ぐるみですね」

 


f:id:morifumikirikita319:20170520213629j:image

昔は新聞社でも伝書鳩を使っていたことを説明している森田氏。

 


f:id:morifumikirikita319:20170520214924j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520214937j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215009j:image

西国街道だった。


f:id:morifumikirikita319:20170520215022j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215053j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215103j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215114j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215124j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215649j:image

ご名答。


f:id:morifumikirikita319:20170520215701j:image

前回は出女で、今回は荘園。


f:id:morifumikirikita319:20170520215715j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215732j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215744j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520215757j:image

倉敷地といいます。


f:id:morifumikirikita319:20170520215821j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520220150j:image


f:id:morifumikirikita319:20170520220159j:image

次の記事へと続く

 

 

 

📄この記事の前

🔘箱根関所でブラタモリ(1) - 森の踏切番日記

🔘箱根関所でブラタモリ(2) - 森の踏切番日記

 

 

 

 

 

 

 

『文庫版 書楼弔堂 破暁』の感想~虚実の淡いに浮かび上がる物語

5月の読書録02ーーーーーーー

 文庫版 書楼弔堂 破暁

 京極夏彦

 集英社文庫(2016/12/25:2013)

 1705-02★★★★

────────────────────────────

文庫版 書楼弔堂 破暁 (集英社文庫)

 

明治25年(1892)5月23日、東京の外れで日々無為に過ごしていた高遠彬は、奇妙な書舗と巡り合う。店の名は書楼弔堂。奥行きのある店内の左右の壁面は三階まで全て書架で、古今東西書物で埋められている。平台にも夥しい数の本が積まれている。店の主人は元僧侶で、明治維新廃仏毀釈の煽りを受けて還俗し、本屋を始めたらしい。本書の終わりの方で明らかになるが、主人の名は龍典という。

本の中身を売っているのではなく、本を売っております

この主は「本は墓のようなもの」だと言い、「移ろい行く過去を封じ込めた呪物」だとも言う。書名は戒名のようなものなのだそうだ。

 

本を読むという行為と本を所有する行為との違い。ただ情報を得るだけなら本を所有する必要は無いし、本である必要すらない。だが、好きな本は手放せない。もう読み直さないかもしれないが、手元に置いておきたい。私は、子供の頃から本棚の本の背表紙を眺めるのが好きだった。

 

主はまた、「ただ一冊、大切な大切な本を見付けられれば」仕合わせだと言う。

本当に大切な本は、現世の一生を生きるのと同じ程の別の生を与えてくれるのでございますよ。ですから、その大切な本に巡り合うまで、人は探し続けるのです

とはいうものの、「その一冊」にはなかなか巡り合うことが出来ないから、本は「集めるものではなく集まってしもうもの」なのだそうだ。

 

私は、未だ「その一冊」には巡り合っていないので、この感覚はよく分からない。色々な本から色々な影響を受けているけれども、これこそが人生の道標となるべき本であると確信した本は無い。引き算していって最後に残る本はあるが、それが「その一冊」であるという確信がない。読まないでも手元にあると安心できるお守りみたいな本は何冊かある。若いうちに「その一冊」に巡り合える人は、確かに仕合わせだと思う。

 

この店の主人もまた、「その一冊」に巡り合えないまま本が集まってしまい、そうやって集まった本を供養するために、本を売る商売を始めたのだという。

売るのが供養でございます

だから、弔(とむらい)堂なのだ。読まれぬ本は只の紙屑、それでは本は成仏できないということらしい。

本書は、この風変わりな店に己のための一冊を求め訪れた人生に迷える人々と主人との対話を高遠彬が見聞する物語である。

 

 

「探書壱 臨終」で訪れた客は、臨終のその前に読む本を売ってくれという。この客は衰え弱っていて死期が近づいているようである。ここでは、浮世絵について語られる。明治時代の半ばにあっては滅びゆく江戸文化である。客は幽霊を見てしまったことがあり、それが原因で神経を病んでしまったことがある。主人はこの客にある書物を売る。その書物が何であるかと客の眼の状態を知った高遠は驚く。この最後の浮世絵師と呼ばれる客は、17日後の6月9日に臨終を迎える。享年53歳。

本書の時代設定を明治25年においたのは、著者がこの客を描きたかったこともあったに違いない。まことに京極夏彦らしい人選である。著者のこの客に対する解釈が興味深い。明治時代は、日本が近代化する過程で色々なものを捨てた時代だが、ここでは捨てられた側が描かれている。

 

「探書弐 発心」では、高遠が丸善でたまたま知り合った神経質そうな書生に書楼弔堂を紹介する。彼は尾崎紅葉の弟子だという。彼はお化けが好きなようだ。怪を好むという。弔堂の主人は、この書生との対話から彼の真実を照らし出すのだが、どこまでが事実に即しているのかよく分からない。

この書生は、巡り合うべき「この一冊」にすでに巡り合っている。彼が求めた本は意外なものであり、求めに応じた主人が売った書物がこの書生の作品の題材となる。もちろん、これは虚構である。

本書には、この世は虚実が半々だと書かれている。物語は、事実を記述するものではなく真実を照らし出すものであろう。また、たとえ事実を書き留めたとしても、それは最早物語に過ぎないというのが京極夏彦の立場である。これは物語であり、どこまでが事実かということは重要ではないだろう。著者が考えるところの真実が照らし出されればそれで良いのである。

この書生も京極夏彦らしい人選であり、時代設定を明治25年におけば、当然取り上げるべき人物である。彼は明治6年11月4日生まれなので、この時は18歳ということになる。

日本の近代文学が確立する過程において、まず新しい文体を作り出すことから始めなければならなかったのだが、その辺りの日本の文学事情が詳しく描かれていて興味深かった。

 

「探書参 方便」では、哲学館の設立者が客として訪れる。この年この客は34歳である。著者が最も取り上げたかったのはこの客ではないだろうか。彼に弔堂を紹介したのが勝安芳というのも面白い。この年勝安芳は69歳である。弔堂の主人は勝と知り合いらしい。

客は、日本の近代化のために大衆を啓蒙したいという大志を抱いているが、お金がなくて困っているという。そこで主人は、客に大衆に向けて本を出版し講演会を開けと助言する。本書では明治時代の出版業界について詳しく書かれているが、明治時代は本が商品となった時代でもある。

そして、この客に売った書物鳥山石燕の『畫圖百鬼夜行』である。ここで主人が述べる妖怪・化け物考は、京極夏彦ファンにはお馴染みの論考であり、特に『妖怪の檻  妖怪の理』に詳しいが、それをこの客に語るというのが面白い。これがきっかけで、客は後に「妖怪学」を広く世に問い、「妖怪博士」と渾名されることになるという。勿論、フィクションであるが、著者のこの客に対する理解が分かって興味深い。

勝海舟のべらんめえ口調は懐かしい感じがする。小学生時代に『べらんめえ大将』という勝海舟の伝記を読んだことを思い出した。

また、この話の冒頭に不思議巡査の異名を持つ矢作剣之進が登場する。

 

世に無駄な本などございませんよ

本を無駄にする者がいるだけです

 

「探書肆 贖罪」では、高遠が鰻屋で中濱萬次郎と出会う。中濱萬次郎は鰻の蒲焼きが好物だったという逸話があることを踏まえた導入である。彼は土佐弁の男を連れていた。

「死人でございますき」

何故だかぞっとした。

死人と云うなら、この男は幽霊と云うことになるだろう。

探書壱の客が幻視し、探書弐の客が憧憬を抱き、探書参の客が否定した「幽霊」が探書肆で登場するという趣向である。

中濱は、勝安芳の紹介でその男を書楼弔堂へ連れて行く途中なのだが所在が分からないということなので高遠が案内する。勝海舟ジョン万次郎といえば咸臨丸仲間である。この年中濱萬次郎は65歳。土佐弁の「幽霊」は、確かに勝海舟ともジョン万次郎とも縁のある人物である。この年54歳であるはずだが、この男は慶応元年に死んだはずである。ところが、この「幽霊」が中濱を刺客から守ったという話は慶応4年のことなのである。著者はそこからヒントを得てこの物語を創作したものと思われる。

中濱萬次郎の人物造形は、如何にもと思わせるものがあり好感が持てた。また、主人と中濱が語る勝海舟の評価が興味深い。幕臣でありながら新政府にも重用された勝海舟は、何かと毀誉褒貶が激しいのだが、著者の勝海舟に対する見解は、私もそれに近い考えを持っているので共感する。

土佐弁の「幽霊」は、司馬遼太郎がその作品で色を付けた影響が大きいのだが、京極夏彦は、新たな解釈を見せてこの「幽霊」の人物像を浮かび上がらせることに成功していると思う。

本書の中では、意外な人選ということもあり最も印象に残る物語だった。特に、著者の幕末観が分かって興味深かった。

 

人に人は救えない、だが本は人を救うこともある

 

「探書伍 闕如」の客は、探書弐の客の紹介である。この年22歳。この客については詳しいことを知らなかったのだが、誰もが幼少期に親しんだおとぎ話を再生させた人物である。本書のここまでの流れから見れば意外な人選だが、確かにもっと知られてもよい人物であり興味深く読んだ。彼もまた、近代日本文化の一側面を作り上げた人物と云ってよいだろう。

人生において逃げると云うことは決して卑怯な行為ではない、後ろ向きの人生に欠如を感じる必要はないという人生観には共感する。大勢と同じ向きを向く必要などない。前向きに進もうが後ろ向きに進もうがたどり着く先は同じだと思う。もっとも、人生の場合は立ち竦んだままでも時間が勝手に押し流してくれるけれども。

探書弐の客も探書参の客も探書伍の客も歴史の主流に名を残した人物ではないが、それぞれ独自の世界を築き上げ歴史に名を留めたという点では共通していると云える。

この話の冒頭の高遠と丸善の店員の会話は、人間関係が錯綜して話せば話すほどこんがらがっていって、まるで落語のような感じがして面白かった。文体も本書の全体を通して明治を意識した文体になっていて効果的である。

 

逃避というのは、生き延びるためにする行為なのでございます。

努力すれば成る等と云うのは愚か者の戯言。為てみるまでは判らない等と云うのは痴れ者の譫言にございます。

人は在るだけで満ち足りておりましょう。

 

「探書陸 未完」では、弔堂の主人が書物の買い付けのため珍しく外出する。高遠も手伝いにかり出されるのだが、向かう先は中野の寺の間の坂道を上ったところにあるあの神社である。書物の売り主は中禅寺輔。京極堂の祖父のようだ。しかも、彼が売りたいという書物の殆どは菅丘李山の蔵書である。輔の父親と李山が懇意にしていたそうだ。こうなると小夜がどうなったのかも気になる。小夜はこの年37歳前後のはずである。

中禅寺家は市井の陰陽師であり明治時代には滅びゆくもののひとつである。ここでは、時代の変化に応じて宗教の役割も変化していくべきである事が語られる。これは、探書参で語られた明治の仏教界の現状とも関連している。ここで語られる主張は京極ファンには馴染みのものであるが、明治時代の文明開化の文脈の中で語り直されている。

弔堂の主張と京極堂の主張は当然のことではあるが似通っている。京極堂が龍典に影響を受けたという物語を想像したくなるし、京極堂の蔵書は弔堂の蔵書を引き継いだのではという想像をしたくなる。

 

ないものをあるとしなければ、私共は立ち行きません。

伝統と云うのは、守るものではなく続けることです。続けるためには変えなければならないのです。

 

本書の語り手である高遠彬は、35~36歳。旗本の家に生まれたが元服前に瓦解を経験し武家という意識がない。かといって、急激に変わりゆく明治という時代にも馴染めない狭間の世代の人間である。彼は何処へも向かえず立ち竦んでいる人であるように思われる。そのような彼に弔堂は英国の有名な未完の小説を薦める。

 

決められないのなら、決めなければいいのですよ

 

この未完の小説は弔堂の主人の知り合いである夏目金之助に進呈するつもりのものだったという。本書で夏目金之助が客として現れることはなかったが、本書の後半には夏目漱石の影が感じられるような箇所がある。例えば、探書陸の蒸気鉄道に関する言及は、明らかに漱石を意識していると思われる。探書伍の落語的な会話も漱石を意識した感じがする。それが印象に残った。

 

本書の全体を通して、明治時代半ばの過渡期にある近代国家としては未完成の日本の一側面が浮かび上がってくる。これは虚実半々の物語ではあるが一面の真実が語られているように思われた。本書の語り手である高遠彬は、虚実の淡いに浮かび上がった幽霊のような存在であり、本書の物語が語り終えられると消えてゆくのは当然のことであろう。

 

 

 

文庫版 書楼弔堂 破曉 (集英社文庫)
 

 

 

 

 

 

 

箱根関所でブラタモリ(2)

ブラタモリ』#72箱根関所(2)

~鉄壁!箱根の関所はなぜ破れない!?


f:id:morifumikirikita319:20170514074722j:image

「山の神」もビックリ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

続いては
f:id:morifumikirikita319:20170514074758j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074815j:image

箱根駅伝5区山登りのゴール地点付近。


f:id:morifumikirikita319:20170514074829j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074847j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074858j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074912j:image

江戸時代に新たにできた町。


f:id:morifumikirikita319:20170514074924j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074938j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514074952j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514075004j:image

江戸方面から箱根を越える場合。朝、小田原発。箱根宿で昼ご飯。三島もしくは沼津まで歩く。


f:id:morifumikirikita319:20170514075028j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514075019j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514075043j:image

 

f:id:morifumikirikita319:20170514075057j:image

幕府はあえて険しい道を東海道に指定した。


f:id:morifumikirikita319:20170514075110j:image

尾根筋(黄)と谷筋(赤)


f:id:morifumikirikita319:20170514075121j:image

尾根道は水はけがよく見晴らしもいい道だが、谷道は暗くてぬかるんで歩きにくい道。


f:id:morifumikirikita319:20170514080443j:image

実際に歩いて体験。


f:id:morifumikirikita319:20170514080458j:image

とろろそば。ます釣場。


f:id:morifumikirikita319:20170514080512j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514080526j:image

すぐにえぐれてしまう。


f:id:morifumikirikita319:20170514080539j:image

歩きにくい石の道。


f:id:morifumikirikita319:20170514080554j:image

かなりの急傾斜。しかも、雨。


f:id:morifumikirikita319:20170514080624j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514080637j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514080652j:image

排水構造。


f:id:morifumikirikita319:20170514080704j:image

側溝もあった。


f:id:morifumikirikita319:20170514080822j:image

夜中に一人で越えたくはないな。


f:id:morifumikirikita319:20170514081527j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081537j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514080753j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081511j:image

江戸時代の工夫。


f:id:morifumikirikita319:20170514080803j:image

箱根は険しいというイメージ効果。


f:id:morifumikirikita319:20170514080812j:image

森田氏の疑問にお答えしましょう。


f:id:morifumikirikita319:20170514081612j:image

向かったのは東海道沿いの町、畑宿。


f:id:morifumikirikita319:20170514081625j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081637j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081645j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081652j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514081719j:image

なんか、キャラの濃い人出てきた。


f:id:morifumikirikita319:20170514081728j:image

割と新しいんやね。


f:id:morifumikirikita319:20170514082536j:image

板を重ねて切る。


f:id:morifumikirikita319:20170514082546j:image

組み合わせる。


f:id:morifumikirikita319:20170514082557j:image

矢羽根を挟み込む。


f:id:morifumikirikita319:20170514082620j:image

様々な柄を作り組み合わせて、


f:id:morifumikirikita319:20170514082635j:image

複雑な幾何学模様を生み出す。


f:id:morifumikirikita319:20170514082648j:image

さらに、ここからが職人の腕の見せ所。


f:id:morifumikirikita319:20170514082659j:image

薄く削って木箱などに貼る。


f:id:morifumikirikita319:20170514082718j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514082727j:image

特別製。


f:id:morifumikirikita319:20170514083430j:image

石川「削ってみませんか?」

タモリ「削ってみます!」


f:id:morifumikirikita319:20170514083503j:image

なんでもやる人やなあ。


f:id:morifumikirikita319:20170514083518j:image

結構重い。力む森田氏。


f:id:morifumikirikita319:20170514083526j:image

顔、真っ赤。大丈夫?


f:id:morifumikirikita319:20170514083539j:image

タモリ「これ力いりますね」


f:id:morifumikirikita319:20170514083551j:image

リベンジ。


f:id:morifumikirikita319:20170514083600j:image

今度は、割とスムーズにいったけれど。


f:id:morifumikirikita319:20170514083612j:image

石川「まだちょっと力が平均にいってないかもしれない」

タモリ「難しいですよ、この力入れ具合」


f:id:morifumikirikita319:20170514083629j:image

一人だと大変なので。


f:id:morifumikirikita319:20170514143538j:image

二人用カンナ、初めて見た。でかっ!


f:id:morifumikirikita319:20170514084309j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514084330j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514084346j:image

タモリ「今度、近江ちゃんが引っ張って」


f:id:morifumikirikita319:20170514084409j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085313j:image

近江ちゃん、もっと自信を持って。


f:id:morifumikirikita319:20170514084427j:image

ついに完璧!


f:id:morifumikirikita319:20170514085337j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514084442j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085406j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085420j:image

もう、どうでもいいや。


f:id:morifumikirikita319:20170514085433j:image

不審者を報告する義務があった。


f:id:morifumikirikita319:20170514085443j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085454j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085516j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085526j:image

裏関所は知ってた。


f:id:morifumikirikita319:20170514085536j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514085547j:image

関所守り村は知らんかった。


f:id:morifumikirikita319:20170514085557j:image

箱根に限らず、江戸時代の日本は一種の監視国家だったものな。


f:id:morifumikirikita319:20170514085607j:image

やだねったら、やだね。


f:id:morifumikirikita319:20170514085617j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514090604j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514090614j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514144909j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514144915j:image

タモリ「いろんな発見がありました」


f:id:morifumikirikita319:20170514090625j:image

成功した関所破りは記録に残らないのでは、という疑問は解消しなかった。


f:id:morifumikirikita319:20170514090634j:image

人間というものは、駄目となったら色々知恵を絞るものだしなあ。


f:id:morifumikirikita319:20170514090644j:image

特に幕末期には、どうだったのだろうか。鉄壁を維持できたのか、ちょっと疑問。

 

 

🐱次回は
f:id:morifumikirikita319:20170514090654j:image
🔘尾道でブラタモリ(1) - 森の踏切番日記
🔘尾道でブラタモリ(2) - 森の踏切番日記

 

 

 

 

📄関連日記

🔘箱根でブラタモリ - 森の踏切番日記

🔘京都・祇園でブラタモリ(1) ~祇園町南側どす - 森の踏切番日記

🔘京都・清水寺でブラタモリ(1) ~清水の舞台から? - 森の踏切番日記

 

 

 


f:id:morifumikirikita319:20170514092802j:image

歌川広重東海道五十三次 箱根」

 

 


f:id:morifumikirikita319:20170514092813j:image

Hakone--around 1867 by Beato.箱根宿、宿場の入口に関所がある。外国人が多いせいか、イス式の輦台が見える。1867年頃、撮影F・ベアト | HATENA | Pinterest | Japan, Japanese and Japanese landscape

 

 

 

 

 

 

箱根関所でブラタモリ(1)

ブラタモリ』#72箱根関所(1)

~鉄壁!箱根の関所はなぜ破れない!?


f:id:morifumikirikita319:20170513204733j:image

デオンナ・ツリハゲウィッグ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


f:id:morifumikirikita319:20170513204924j:image

近江「すごい雨ですよ」

タモリ「今日は、もう、一日雨ですよ」


f:id:morifumikirikita319:20170513204943j:image

三週間ぶりのブラタモリ

 


f:id:morifumikirikita319:20170513204952j:image

箱根といえば関所。


f:id:morifumikirikita319:20170513205000j:image

タモリ「有名無実だと思ってたんだ」


f:id:morifumikirikita319:20170513210407j:image

関所破りは、記録に残っているだけで、約250年で5件だったそうな。


f:id:morifumikirikita319:20170513210435j:image

成功したら、記録に残らないのでは?


f:id:morifumikirikita319:20170513210447j:image

「箱根八里」といえば


f:id:morifumikirikita319:20170513210459j:image

🎵箱根の山は天下の険 函谷関も物ならず


f:id:morifumikirikita319:20170513210508j:image

やだねったら、やだね?


f:id:morifumikirikita319:20170513210520j:image

森田氏熱唱🎵


f:id:morifumikirikita319:20170513210536j:image

タモリ「小学校のときの騎馬戦で歌ってました」


f:id:morifumikirikita319:20170513210555j:image

滝廉太郎作曲だったのか。

その「箱根八里」の歌詞の中にも


f:id:morifumikirikita319:20170513210609j:image

「一夫関に当たるや万夫も開くなし」


f:id:morifumikirikita319:20170513210618j:image

と、箱根の関所の鉄壁さが歌われているというお話でした。


f:id:morifumikirikita319:20170513210627j:image

昔の歌は歌詞の意味がよう分からん。


f:id:morifumikirikita319:20170513210635j:image

近江「怒られるのかと思った」


f:id:morifumikirikita319:20170513213116j:image

普段、近江ちゃんは色々怒られているのか?


f:id:morifumikirikita319:20170513213134j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513213144j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514124648j:image

尋問したり、弓・鉄砲で威嚇したり。さらに、


f:id:morifumikirikita319:20170513213153j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513213203j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513213215j:image

一番長い所で二百十一間(約400m)。


f:id:morifumikirikita319:20170513213222j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513213231j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215308j:image

前回の案内人・萬年氏がワンポイントリリーフ登板。


f:id:morifumikirikita319:20170513215326j:image

一番狭いとこ。


f:id:morifumikirikita319:20170513215339j:image

タモリ「直線といえば断層」


f:id:morifumikirikita319:20170513215357j:image

北側の延長線上にある。


f:id:morifumikirikita319:20170513215408j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215417j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215429j:image

カライ神社。


f:id:morifumikirikita319:20170513215437j:image

大好きな話題で盛り上がる森田氏。


f:id:morifumikirikita319:20170513215446j:image

横ずれ断層で崖は普通出来ない。


f:id:morifumikirikita319:20170513215458j:image

実は、縦にもずれた。


f:id:morifumikirikita319:20170513215515j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514125759j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215528j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215541j:image

2つの断層が横に動くと隙間ができて真ん中が沈み込む。


f:id:morifumikirikita319:20170513215553j:image

な~るほど。


f:id:morifumikirikita319:20170513215603j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513215612j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513234610j:image

続いては、江戸方面から関所へ。


f:id:morifumikirikita319:20170513234620j:image

役人「改めろ!」


f:id:morifumikirikita319:20170513234630j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514002523j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513234641j:image

役人「女! 行ってよし」

近江「はい」

近江「びっくりした」


f:id:morifumikirikita319:20170513234652j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513234702j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514131227j:image

「入り鉄砲に出女」て、習った。


f:id:morifumikirikita319:20170513235741j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514093844j:image

七人中三人が釣ハゲ女。


f:id:morifumikirikita319:20170514093853j:image

一人が、釣ハゲ髪ぼさぼさ。


f:id:morifumikirikita319:20170514094257j:image

昔の女性は髪を結い上げていたのでハゲやすかった。


f:id:morifumikirikita319:20170513235756j:image

あらためババア。


f:id:morifumikirikita319:20170513235807j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514001755j:image

旅人「おいらは、男だい!」


f:id:morifumikirikita319:20170514094311j:image

改婆「見せなっ!」


f:id:morifumikirikita319:20170513235837j:image

女が男装してないか股間を確認する改婆。


f:id:morifumikirikita319:20170513235850j:image

スパイて。これは本気で言ってるのか?


f:id:morifumikirikita319:20170513235908j:image

参勤交代。懐かしいなあ。習ったのは、小学時代だったか、中学時代だったか。


f:id:morifumikirikita319:20170513235921j:image

出女にだけ厳しかった。


f:id:morifumikirikita319:20170513235931j:image

ところが、関所では手形が必要という誤解が当時からあった。なんで?


f:id:morifumikirikita319:20170513235944j:image


f:id:morifumikirikita319:20170513235953j:image

手形を忘れて江戸へ帰る。


f:id:morifumikirikita319:20170514000002j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514000009j:image


f:id:morifumikirikita319:20170514002235j:image

いくらなんでも、そこまではしなかっただろう。


f:id:morifumikirikita319:20170514001828j:image

🐱次の記事へと続く

 

 

 

📄この記事の前

🔘箱根でブラタモリ - 森の踏切番日記

 

 

 

 

湊かなえ『リバース』の感想

5月の読書録01ーーーーーーー

 リバース

 湊かなえ

 講談社文庫(2017/03/15:2015)

 1705-01★★★

────────────────────────────

🐱湊かなえにはあまり興味がなくて、これまでに読んだ小説は『少女』だけ、湊かなえ原作の映像作品も全く見ていない、という湊かなえ初心者です。『少女』は、そこそこ面白かったので、ドラマ化を機会に本書をちょっと読んでみようかなという気になりました。(ドラマの方は見ていません)

🐱本書の読後感としては、確かに結末は意外性があって驚きましたが、感嘆するという程ではなく、どちらかと云えば拍子抜けしました。まあ、そこそこの作品でした。

🐱イヤミスというだけあって、確かに人間の嫌な面を抽出して濃縮してデフォルメしていますが、人物の造形が類型的なので、さほど後味の悪さは感じませんでした。ストーリー自体は、あまり興味をひくものではないし、地味な作品という印象でした。

 

🐱以下の感想にはネタバレも含みますので本書を未読の方はご注意下さい。

 


f:id:morifumikirikita319:20170503110749j:image

 

 

🐱本書の主人公の深瀬和久は、社会人3年目の平凡なサラリーマン。取り柄といえば、コーヒーを淹れるのがうまいことくらい。彼女いない歴は年齢と同じ長さ。地味でダサダサで超ネガティブでウジウジとした性格。

🐱そんな彼が、唯一ともいえる憩いの場〈クローバー・コーヒー〉で知り合った越智美穂子と付き合い始めて3ヶ月、彼女のもとに『深瀬和久は人殺しだ』とだけ書かれた匿名の手紙が届く。

🐱深瀬には思い当たるふしがあった。大学4年の夏、ゼミ仲間(広沢・谷原・浅見)と高原の別荘を訪れた夜に、深瀬の唯一の友人・広沢は一人遅れて到着する仲間・村井を車で迎えるために台風による大雨の中出発したが、車ごと崖下に転落して死亡した。飲酒していた広沢に運転を押し付けたことの責任を問われることを恐れた彼らは、暗黙のうちにその事実に口をつぐんでいた。

🐱思い切ってこの事実を美穂子に告白した深瀬だが、美穂子とは疎遠になってしまう。やがて、他の三人にも告発状が送られたことが判明し、さらに、谷原が何者かに駅のホームから突き落とされる事態となる。

🐱深瀬は、実は自分は広沢の事をほとんど何も知ってはいなかったことに気がつき、広沢の事をもっとよく知るために、彼の関係者に話を聞いて広沢の過去を遡ることにする。

 

🐱というのが本書の前半のあらすじなのだが、この段階で告発状を送ったのは誰なのか予想がついてしまう。広沢の事故について事件性をほのめかす描写もあるが、事件性の有無についても予想がついてしまう。これらは、それほど重要ではない。

🐱ゼミ仲間の谷原、浅見、村井は、それぞれ嫌な面を持っているが、他人とは本来不愉快な存在なのだから、いちいち拘泥しても仕方が無い。深瀬は、他人との関わり方が不得手であるが故に他人を意識しすぎる傾向がある。自分の中に彼のような一面が無いとは云わないが、自己否定的な性格が強調され過ぎていて、共感できない。

🐱人間というのは、いざとなったら自分がかわいいものであるし、死んだ人間よりも生きている人間の方が大切だと思うものだと思うので、彼らの行為は理解できる。結局のところ、この世は広沢のような人間が損をするようにできているのだ。彼は断ろうと思えば断ることが出来たのだし、あまり同情しない。

 


f:id:morifumikirikita319:20170503184914j:image

 

 

🐱本書の後半は、深瀬が広沢の過去を遡って得た結論とは何か、ということになる。

🐱深瀬が話を聞いた広沢の知人の中では、広沢と同級生だった女性が印象に残った。正義感は強いけれども直球しか知らない面倒くさい女性である。その彼女が広沢を「透明」だと評したことが印象的だった。「透明」ということは「色彩を持たない」ということである。

🐱大人(たいじん)の雰囲気を持った人というのは、確かにいて、そういう人は存在感だけで他を威圧することが出来るのだけれども、実は雰囲気だけの張り子の虎のような人もいる。広沢という人間は、そういう人間のように感じた。彼はそういう自己を自覚し、そこに欠落を見出していたように思われる。

🐱広沢と高校時代から親交のあった「地味男」が登場したあたりから話がつまらなくなってくる。この地味男は、主人公の相似形である。自分によく似たキャラと対峙するほど不愉快なことはないが、それだけのことである。

🐱男が同性に対して抱く嫉妬心や劣等感は、生物学的に見れば、生存と生殖のために必要な本能的なものだから、あるのが自然だと思う。それをただ暴いてみせただけではつまらない。事件の真相と絡んでいなかったのが残念だった。

🐱広沢のカノジョを主人公が勘違いしたのは解せない。一目瞭然なのに。そこに主人公の脇の甘さのようなものでも感じればよいのだろうか。

🙀この先はネタバレ要注意です。

 


f:id:morifumikirikita319:20170503184753j:image

 

 

🐱そのカノジョというのが、実は越智美穂子なのだが、結局彼女は何をやりたかったのか、中途半端な感じがする。

🐱本書の人物造形は、男性よりも女性の方がうまいなと思ったけれども、越智美穂子に関しては、少し甘いのではないかと思った。

🐱この小説は、「主人公が実は真犯人で、しかも当人がその事に気が付くのは最後の場面」というお題が与えられて書かれた作品なのだそうだ。ということで、広沢が死んだ原因を作ったのは、深瀬和久自身だったのだが、これでは過失致死にもならないだろう。不運が重なった事故でしかない。確かに意外な結末ではあるのだが、カタルシスは全くない。なるほどねえ、と思うだけである。

 


f:id:morifumikirikita319:20170503202819j:image

🐝蕎麦の花とミツバチ

 

 

🐱文庫版の解説でも指摘されているが、興味深いのは、本書の終章後の主人公の心理である。彼は、どちらかと云えば自分は他の三人よりも罪が軽いと考えていた節がある。事故の秘密も仲間と共有していた。それが、故意では無かったとは言え全く自分の責任で彼を死に至らしめたのであり、その事に気が付いたのは本人だけなのである。彼の性格では、この秘密の重さに耐えかねて自滅するに違いない。ドラマ化するならば、そこまで描いた方が断然面白くなると思うのだが、どうだろうか。🐥

(ドラマは結末を変える可能性もあるか)

 

 

 

 

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)